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前川 研吾 Kengo Maekawa

この記事の著者

前川 研吾 Kengo Maekawa

ファウンダー&CEO  / 公認会計士(日本・米国) , 税理士 , 行政書士 , 経営学修士(EMBA)

ファミリービジネスにおけるスリーサークルモデル:ビジネス、ファミリー、オーナーシップ

2023年10月3日

ファミリービジネスは、経済的成功だけでなく、家族関係においても一意の課題を抱えています。これらの課題を解決するために、ファミリービジネスの専門家は「スリーサークルモデル」として知られるアプローチを提案しています。

このモデルは、ファミリービジネス研究者のRenato TagiuiriとJohn Davisによって、ファミリービジネスの独特の課題とダイナミクスを理解し、解決策を提供するために設計されました。ビジネス、ファミリー、オーナーシップの3つの重要なサークルを区別し、それぞれの役割と課題を明確に定義することを目的としています。

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ビジネスサークル(Business Circle)

ビジネスサークルは、ファミリービジネスの中核です。このサークルは、企業の運営、成長、利益を追求することに焦点を当てています。主な特徴と課題は次のとおりです:

  • 経営と戦略の確立
    ビジネスの成功に向けて、経営陣は適切な戦略を策定し、実行する必要があります。競争力を維持し、市場での地位を強化するための戦略を明確にすることが不可欠です。
  • 効果的なガバナンス
    ビジネスの運営において、組織のガバナンス、意思決定プロセス、リーダーシップの役割分担を確立し、透明性と責任を確保することが重要です。
  • 業績評価と報酬
    ビジネスの成功は、成果に応じた報酬と業績評価を通じて従業員と経営陣に対して認識されるべきです。

ファミリーサークル(Family Circle)

ファミリーサークルは、ビジネスオーナーとその家族の関係を指します。このサークルでは、家族関係、価値観、感情的な要素が中心になります。主な特徴と課題は次のとおりです:

  • 家族関係の維持
    ビジネスと家族を切り離して考えることが難しく、家族関係がビジネスに影響を与えることがあります。コミュニケーション、調和、信頼の構築が必要です。
  • 家族の期待管理
    家族の期待や役割分担を明確にし、家族メンバーがビジネスにどの程度関与すべきかを定義する必要があります。
  • 相続プランニング
    ビジネスの将来に向けた相続プランや承継計画を策定し、家族の財産を守りながら事業の持続可能性を確保することが重要です。

オーナーシップサークル(Ownership Circle)

オーナーシップサークルは、企業の所有権に焦点を当てています。ビジネスの所有権は家族内で共有されることが多く、その管理や決定は独自の課題を持ちます。主な特徴と課題は次のとおりです:

  • 所有権構造
    家族メンバー間での株式やビジネス資産の所有権構造を明確にし、株主の権利と責任を定義する必要があります。
  • 意思決定プロセス
    ビジネスの大きな意思決定(例:売却、株式譲渡)において、オーナー間での合意形成と決定プロセスを整備することが必要です。
  • コーポレートガバナンス
    ビジネスの透明性と責任を保つために、オーナーサークルでコーポレートガバナンスの原則を確立することが重要です。

スリーサークルモデルは、ファミリービジネスが成功するために、ビジネス、ファミリー、オーナーシップの各サークルが協力し、課題を克服するための適切な戦略を開発する手助けを提供します。ファミリービジネスはこれらの3つのサークルの調和に成功することで、長期的な継続性と成功を確保できます。

このように、スリーサークルモデルは、ファミリービジネスの理解と課題の整理に役立つ有用なツールですが、いくつかの欠点や制約も存在します。

  • (1)単純化の危険性
    スリーサークルモデルは、ビジネス、ファミリー、オーナーシップの3つの側面を分けて考えることを奨励しますが、実際のファミリービジネスはもっと複雑で多層的な関係を持つことがあります。このモデルは、複雑な状況を単純化しすぎる可能性があり、実際の問題に対処するのに不十分であることがあります。
  • (2)相互依存性の無視
    スリーサークルモデルは各サークルを独立したものとして描写しますが、実際にはこれらのサークル間には相互依存性が存在します。たとえば、ファミリーの関係がビジネスの意思決定に影響を与えることがあり、オーナーシップ構造がファミリー関係に影響を及ぼすこともあります。
  • (3)文化や地域の違い
    スリーサークルモデルは、ある程度一般的な原則に基づいていますが、文化や地域の違いを考慮していません。異なる文化や国でのファミリービジネスは、異なる課題や解決策を持つことがあります。
  • (4)時間の変化
    ファミリービジネスは時間とともに変化します。スリーサークルモデルは静的なモデルであり、変化に適応する方法を提供するのが難しいことがあります。ファミリービジネスは世代を超えて続くことが多いため、時間の変化を考慮することが重要です。
  • (5)実行の難しさ
    スリーサークルモデルは理論的な枠組みであり、実務において実行することが難しいことがあります。具体的な課題に対処し、解決策を見つけるためには、モデルを実際の状況に合わせて調整する必要があります。

スリーサークルモデルは一般的に有用ですが、これらの欠点を認識し、個別のファミリービジネスの状況に適用する際には注意が必要です。ファミリービジネスの特定の課題に対処するために、より詳細なモデルやアプローチが必要な場合もあるでしょう。

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