ホーム/コラム/ファミリービジネス/ファミリービジネスの成功のための7つのポイント
シェア
前川 研吾 Kengo Maekawa

この記事の著者

前川 研吾 Kengo Maekawa

ファウンダー&CEO  / 公認会計士(日本・米国) , 税理士 , 行政書士 , 経営学修士(EMBA)

ファミリービジネスの成功のための7つのポイント

2023年12月5日

日本におけるファミリービジネスの割合は90%以上と言われており、日本企業の大半を占めています。100年以上続く老舗企業もファミリービジネスである割合が多いことから注目が高まり、日本においても研究が進んでいます。ファミリービジネスを成功させるためにどのようなことを意識したら良いのでしょうか。今回は7つのポイントについてご紹介していきます。

明確なビジョンとミッションの確立

ファミリービジネスは経営者による影響力が強いため、ビジョンやミッションが浸透しやすい環境が整っています。そのため、明確なビジョンとミッションの確立はファミリービジネスを成功させるために非常に重要なものとなります。これにより、従業員同士の結び付きが強まり、チームの一体感にもつながります。

ビジョンを確立することで、企業の将来像を描くことでき、従業員に方向性を示すことに寄与します。例えば、環境に配慮した製品の開発や、地域社会への貢献といった具体的な目標を設定することで、従業員はより社会的な意義を感じながら仕事に取り組むことができます。また、ミッションは企業の基本的な価値観や目的を示し、組織のアイデンティティを形成することに寄与します。これにより、従業員は自身の仕事が組織全体の目標達成にどのように貢献しているかを理解しやすくなります。

さらに、明確なビジョンとミッションを持つことは、外部のステークホルダーに対しても企業の姿勢を明確に示すことができます。顧客、投資家、サプライヤーなど、さまざまな関係者が企業の目指す方向性を理解し、信頼を築く基盤となります。特にファミリービジネスでは、家族の価値観や伝統をビジョンやミッションに反映させることで、企業の独自性を強調し、競争優位性を高めることに繋がっていきます。

このように、明確なビジョンとミッションは、ファミリービジネスの内部結束を強めるだけでなく、外部との関係を築き上げるためにも非常に重要です。経営者はこれらを定期的に見直し、今日の激変する市場環境や社会的な要請に適応させることで、企業の持続可能な成長を実現しやすくなります。

ファミリーの影響力を維持・向上させるガバナンスの構築

ファミリービジネスにおけるガバナンスの構築は、家族関係やビジネスの方針を明確化し、効率的かつ効果的な意思決定を促進する上で非常に重要です。これには、ファミリーの影響力を維持・向上させるためのいくつかの要素が関わってきます。

まず、人的資本の側面からは、創業者の精神や倫理観が重要です。例えば、創業者が築いた企業の歴史や文化は、組織全体に影響を与え、後継者育成や人材教育の基盤となります。これらは企業のアイデンティティを形成し、社員のモチベーションや企業文化を強化する役割を果たします。

次に、経済的資本の面では、安定的な成長や累積的な内部留保、適切な配当政策や資本政策が必要です。これらは企業の財務安定性を保ち、投資家や株主に対する信頼を築く基盤となります。また、資産管理会社やファミリーオフィスの設立は、長期的な資産運用やリスク管理に役立ちます。

最後に、社会的資本の側面では、ファミリー関係の強化が重要です。家族間の強固な絆や信頼関係は、ビジネス上の意思決定をスムーズに進めるための基盤となります。また、安定株主の存在は、経営の安定性を高め、外部からの不測の影響を抑える役割を果たします。

人的資本経済的資本社会的資本
創業者の精神安定的成長ファミリー関係の強化
倫理観累積的な内部留保家族間の強固な絆
企業の歴史と文化適切な配当政策信頼関係
後継者育成資本政策安定株主
人材教育資産管理会社・ファミリーオフィス

これらの要素を統合することで、ファミリービジネスはその持続可能性を高め、家族の影響力を保ちながら、成長と発展を遂げることができると考えられます。

後継者への事業承継計画の策定

後継者への事業承継計画は10年程度の期間を必要とすると言われています。事業承継には3つの難点があると言われています。この過程には3つの主要な課題が存在します。

まず、1つ目の課題としては、ファミリービジネスにおける3サークルモデル(家族、経営、所有)が入り組んだ関係性を有していることがあげられます。このモデルは、それぞれの領域で異なる要求と期待を持つことから、後継者への事業承継プロセスを複雑にします。なお3サークルモデルについては「ファミリービジネスにおけるスリーサークルモデル:ビジネス、ファミリー、オーナーシップ」というコラムにおいて詳細に解説していますので合わせてご覧ください。

ownership-family-business

2つ目の課題として、ファミリービジネスは多様な利害関係者を持つという特徴があります。これには家族メンバー、従業員、投資家、顧客、サプライヤーなどが含まれ、彼らの期待や要求はそれぞれ異なる場合があります。これらの関係者間のバランスを取りながら、適切な事業承継計画を立てることは容易ではありません。

3つ目の課題として、事業承継プロセスそのものが時間を要することがあります。これは、適切な後継者の選定、彼らの教育と準備、さらには経営や所有権の移譲に関する複雑な決定を伴うためです。これらのプロセスを慎重に進めることで、スムーズな事業承継とビジネスの継続性が保証されます。

課題内容
3サークルモデルの複雑さファミリービジネスでは、家族、経営、所有の3サークルモデルが関係性を複雑にし、承継プロセスを難しくする
多様な利害関係者の存在家族メンバー、従業員、投資家、顧客、サプライヤーなど多様な関係者の異なる期待や要求が事業承継計画を複雑化する
プロセスに時間がかかる適切な後継者の選定、教育と準備、経営や所有権の移譲などには時間が必要で、慎重な進行が求められる

これらの課題は、ファミリービジネスにおける事業承継の成功に重要な要素であり、各ステージでの慎重な計画と調整が必要です。このプロセスを通じて、ファミリービジネスはその伝統と価値を次世代に引き継ぎつつ、同時に新しい発展を遂げることができます。

さて、円滑な事業承継を行うためには、綿密な計画が不可欠です。この計画には、主に二つの重要な要素が含まれます。まず、経営承継の面では、承継の時期や対象範囲を明確に定めることが必要です。さらに、適切な承継候補者を選出し、彼らに対する準備プロセスを整えることも重要です。次に、ガバナンスの承継では、承継の時期と対象、さらに承継比率についての計画を立てる必要があります。また、役員持株会や従業員持株会の開設の検討もこの過程で考慮すべき点です。

これらの計画を策定する際には、将来の成長を見据えた転換点としての重要性を理解することが重要です。さらに、この複雑な事業承継プロセスを周囲の関係者と共有し、理解を深めることで、スムーズな事業承継が実現します。このようにして、事業承継計画を丁寧に策定することは、事業の継続性と将来の成功にとって欠かせないステップとなります。

コミュニケーションの重視

ファミリービジネスにおいてコミュニケーションは非常に大切な要素です。従業員との関係だけでなく、同族間や家族内での適切なコミュニケーションがなければ、大きな問題が生じる可能性があります。中でも、経営者と後継者、特に親子間のコミュニケーションが最も重要で難しいと言われています。

親子だから経営の事は話しにくい、身内だからこそ率直な意見を言いにくいなどコミュニケーション不足に陥る原因は多々存在します。ファミリービジネスの後継者は親の背中を見て育ち、事業について分かっていることが多い一方、言語化できていない暗黙知についてコミュニケーションが取れていない場合があります。

ファミリービジネスにおけるコミュニケーションは、事業の繁栄と継続性を確保するために欠かせない要素です。親子間のコミュニケーションを積極的に行い、開かれた対話の文化を築くことが、長期的な成功への鍵となります。

ファミリーオフィスの活用

近年、富裕層の個人や家族が資産を効果的に管理し、長期的な成長を促進するために選択する手段として、「ファミリーオフィス」というものが注目を集めています。ファミリーオフィスは、資産や財産を管理・運用するために設立された組織や仕組みを指します。資産を効果的に管理し、長期的な資産の保存と成長を促進することを目的とし、ファミリービジネスの継続的な発展をサポートします。

ファミリーオフィスは、富裕層の家族にとって多くのメリットをもたらします。その最大の利点の一つは、継続的かつ効果的な資産管理を可能にすることです。ファミリーオフィスを通じて、家族の財産は将来の世代にスムーズに移転されることができます。これにより、長期的な資産保全と運用が実現し、家族の財務的な安定性が確保されます。

また、ファミリーオフィスでは、資産運用の専門家が、家族のニーズやビジネスの特性に基づいたカスタマイズされた戦略を提供します。これらの専門家は、不動産投資、株式市場、慈善活動など、家族の関心や価値観に適した多様な投資オプションを提案します。彼らは家族の具体的なニーズや目標に合わせて、最適な投資成果を達成するための計画を策定します。

さらに、ファミリーオフィスには法務専門家や税務アドバイザーなどのプロフェッショナルも含まれています。彼らは、資産管理に伴う法的や税務に関する諸問題に関して、家族に包括的なサポートを提供します。これにより、家族は法務や財務の問題を効率的に解決し、リスクを最小限に抑えることが可能になります。また、市場動向や法規制の変更に適応した助言を行うことで、家族の資産を適切に保護し、成長を促進します。

メリット説明
資産管理の効果増継続的かつ効果的な資産管理、長期的な資産保全と運用、家族の財務的安定性の確保
戦略策定支援家族のニーズや目標に合わせた戦略の提供、多様な投資オプションの提案、最適な投資成果の達成
法務・税務アドバイス法務専門家や税務アドバイザーによるサポート、法的・税務問題の効率的解決、リスクの最小化

総じて、ファミリーオフィスは、富裕層の家族が直面する独特な課題に対応するための効果的なソリューションを提供します。これにより、資産の保全と運用、そして家族の価値観や目標に沿った財産管理が可能になります。ファミリーオフィスの専門知識とリソースは、家族がその財産を最大限に活用し、将来世代にわたる繁栄を確保するための重要なものです。

テクノロジーの活用

経営のイノベーションを起こしにくく、時代の変化に対応しづらいと言われるファミリービジネスでは、テクノロジーの活用が効果的です。以下、テクノロジーがファミリービジネスにおいて果たす重要な役割に焦点を当て、その活用方法を探ります。

・ビジネスプロセスの自動化
テクノロジーを活用してビジネスプロセスを自動化することで、業務効率が大幅に向上します。例えば、より良い会計ソフトウェアや在庫管理システム、あるいはRPA(Robotic Process Automation)を活用することで、日々の繰り返しの業務を自動化し、従業員がより創造的で価値の高い業務に集中できるようになります。これは、従業員の満足度を高め、生産性の向上にも寄与します。

・データ分析の活用
データ分析により、顧客行動や市場動向の洞察を得ることができます。CRMシステムやビッグデータ分析ツールを利用することで、顧客のニーズや好みを深く理解し、ターゲティング・マーケティング戦略の精度を高めることが可能になります。このようなデータドリブン型のアプローチは、新しいビジネス機会の発見や製品・サービスの改善にも寄与します。

・セキュリティへの投資
デジタル化が進むにつれて、セキュリティはますます重要になっています。サイバーセキュリティ対策として、ファイアウォール、アンチウイルスソフトウェア、データ暗号化技術などを導入することが重要です。これにより、ビジネスデータや顧客情報を保護し、サイバー攻撃やデータ漏洩から企業を守ることができます。

このようにファミリービジネスがテクノロジーを活用することは、持続可能な成長への鍵となります。

外部アドバイザーの活用

ファミリービジネスにおいては、客観的な視点を持った外部アドバイザーの必要性が高まっています。3サークルモデルの3要素である「家族」、「経営」、「所有」の課題が複雑に絡み合っているゆえ、ファミリービジネスの経営者は、ファミリービジネス特有の悩みを抱えています。

ファミリービジネス特有の悩みは家族と密接に関係している場合もあり、外部の人に相談しにくい悩みも少なくありません。こうした状況において、ファミリービジネスの課題に取り組むファミリービジネスアドバイザーは、重要なポジションとして位置付けられます。第三者視点でのアドバイスがほしい時は、外部アドバイザーの活用も視野に入れることをお勧めします。

外部アドバイザーは、家族経営に固有の問題に対して新しい視点を提供し、時には難しい決断を下すのを助けます。彼らは中立的な立場から、経営戦略の策定、財務管理、リスク評価、そして組織構造の最適化についての専門的なアドバイスを提供できます。また、ファミリービジネスの後継計画や、家族間のコミュニケーションの改善など、繊細かつ複雑な問題に対しても役立つアドバイスを提供することができます。

加えて、外部アドバイザーは市場動向や業界の最新トレンドに精通していることもあり、これらの情報を活用してファミリービジネスが競争力を維持し、成長を続けるための戦略を立案することもできます。また、技術の進歩や法的な変更に伴うリスクや機会を特定し、これらに対応するための計画を策定する際にも重要な役割を果たします。

このように、外部アドバイザーはファミリービジネスの成長と発展に不可欠な存在です。彼らは客観的かつ専門的な視点を提供し、ファミリービジネスが直面する課題を解決し、新たな可能性を開拓するのを助けることができます。

お問い合わせ