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松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

この記事の著者

松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

パートナー  / 税理士

【国際課税Q&A】日本非居住者に対する翻訳料の源泉徴収の要否と著作権

2023年10月11日

質問

ドイツ在住の非居住者に対して翻訳料を支払っている場合、当該翻訳料に源泉徴収は必要でしょうか。

回答

PEがないことを前提として源泉徴収は不要と判断できます。

根拠

1. 国内法による判定

翻訳料が、所得税法161条1項十一ロの「著作権の使用料又はその譲渡対価」に該当する場合は、国内源泉所得となり、国内法上、税率20.42%による源泉徴収が必要となります(所得税法164条12項二、212条1項、213条1項1号)。

一方、翻訳料が上記「著作権の使用料又はその譲渡対価」に該当せず、所得税法161条1項十二イの「人的役務の提供」に該当する場合、人的役務の提供に関しては、国内において行われたもののみが国内源泉所得として認められるため、ドイツ在住の非居住者が行う翻訳業務は国内にて行われていないことから、国内源泉所得には該当せず、日本での源泉徴収は不要となります。

以上より、国内法による判定上、翻訳料が所得税法161条1項十一ロの「著作権の使用料又はその譲渡対価」に該当するか否かが重要な判断ポイントになるといえます。

それゆえ、今回は最後のパートにて「著作権」に関して少し深堀りして見ていきます。

2. 租税条約による判定

国内法による判定で、翻訳料が「著作権の使用料又はその譲渡対価」に該当しない場合は、もとより国内源泉所得には該当せず、源泉徴収不要となることから租税条約による判定は不要となります。

一方、翻訳料が「著作権の使用料又はその譲渡対価」に該当する場合には、上述の通り、国内法上は税率20.42%の源泉徴収が必要となりますが、日独租税条約によって、以下の通り免税となるものと判断できます。

  1. 翻訳料を著作権の使用料によるものと考える場合、日独租税条約第12条(使用料)にて、著作権の使用の対価の支払を受ける者の居住地国(この場合ドイツ)においてのみ課税できる旨の記載があり、日本においては免税となります。
  2. 翻訳料を著作権の譲渡対価(翻訳物の譲渡対価)によるものと考える場合、日独租税条約第13条(譲渡収益)にて、居住者(この場合ドイツ)が財産の譲渡によって取得する収益については、日本での課税を免除する旨の記載があります。

以上より、ドイツ在住の非居住者に支払う翻訳料については、著作権の使用料又はその譲渡対価として、国内法で源泉徴収が必要と結論づけられても、日独租税条約により最終的に免税措置が講ぜられ、源泉徴収は不要と判断できます。

なお、免税措置の適用については、所定の手続きが必要となる点に留意が必要です。

【参考】著作権について

1. 国内源泉所得としての著作権使用料又はその譲渡対価

所得税法第161条1項十一ロでは、国内において業務を行う者から受ける著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む)の使用料又はその譲渡に係る対価で当該業務に係るものは、国内源泉所得に該当する旨を規定しています。

ここでいう「著作権」については、所得税法等の租税法規において特に定義されていないことから、著作権法に規定する著作権(出版権及び著作隣接権を含む)を指すものと解されています。

2. 著作権法にて規定する著作権

著作権法2条1項1号にて、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とされています。著作物の例としては、著作権法10条1項にて以下のように示されており、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」は、著作物に該当しないものとされています(著作権法10条2項)。

著作物の例示(著作権補10条1項)
1音楽の著作物
2小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
3舞踊又は無言劇の著作物
4絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
5建築の著作物
6地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
7映画の著作物
8写真の著作物
9プログラムの著作物

また、著作権法2条1項11号において、「著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物」を二次的著作物として定義しており、翻訳物はこの「二次的著作物」に区分されるものといえます。よって翻訳対象が著作物である場合には、その翻訳物も二次的著作物として、著作物と判断することができるものと考えられます。

3. 著作権法上、保護を受ける著作物

著作権法第6条では、著作物は、次の①~③のいずれかに該当するものに限り、著作権法による保護を受けるとしています。

  1. 日本国民(わが国の法令に基づいて設立された法人及び国内に主たる事務所を有する法人を含む)の著作物
  2. 最初に国内において発行された著作物(最初に国外において発行されたが、その発行の日から30日以内に国内において発行されたものを含む)
  3. ①②のほか、条約によりわが国が保護の義務を負う著作物③に示される通り、著作物は、国境を越えて利用されることが多いため、世界各国で著作物を相互に保護するための国際条約が締結されています。以下のベルヌ条約もその1つです。

4. ベルヌ条約

文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約(以下「ベルヌ条約」)の第1条では、「この条約が適用される国は、文学的及び美術的著作物に関する著作者の権利の保護のための同盟を形成する。」と規定されており、2023年2月末現在、179ヵ国が加入しており、日本は1899年より加入しています。

ベルヌ条約第5条(1)により、著作物が同盟国間で国境を越えて利用される場合でも著作物として保護されることが示されており、第5条(2)においては、著作物の使用に対する法律の適用に関して、例えば、日本の著作物が米国で利用される場合には米国の著作権法が適用され、逆に米国の著作物が日本で利用される場合には日本の著作権法が適用されるといった属地主義を用いることが示されています。

5. 著作権に関する判断

以上より、国外で生じたの著作物に対しても、日本国内において使用される場合には、日本の著作権法が適用され保護対象となること、また、所得税法161条1項十一ロの「著作権の使用料又はその譲渡対価」における著作権の範囲は、租税条約上、著作権法上の著作権と異なる定義がない限り、著作権法の規定により判断するものと考えられます。

それゆえ、著作権法に規定する著作権に該当するか否かの判断にあたっては、弁護士等の専門家に相談しつつ対応していくことが必要と考えます。

国際税務Q&A_非居住者に対する翻訳料の源泉徴収の要否_20231004 (PDF)

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