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関口 智史 Satoshi Sekiguchi

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関口 智史 Satoshi Sekiguchi

パートナー  / 社会保険労務士

建設業における具体的な働き方改革の支援策の紹介及びその実際の労働状況からみる支援の経緯並びにその経緯をもたらした働き方改革関連法の改正点

2023年11月15日

はじめに

働き方改革関連法案が2019年4月から順次施行され、“働き方改革”という言葉は広く認知されるようになりました。厚生労働省によると働き方改革は、「働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすること」を目指しているとしています。そしてこの改革の目的は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの課題の解決としています。

この改革により建設業の現場でどういった変化があったのか確認します。そして、働き方改革への取り組みを支援する助成金をご紹介します。

働き方改革関連法

はじめに、働き方改革関連法で改正された点を確認していきます。この改正は業界問わず適用されるため、日本の労働環境にとって基準となるものです。

①フレックスタイム制の見直し

フレックスタイム制の「清算期間」の上限を1か月から3か月に延長する。

②時間外労働の上限規制の導入

36協定の特別条項について上限規制を設ける。繁忙期であっても年間720時間、単月100時間未満、複数月平均80時間を上限とする。これを超過すると刑事罰が適用される場合がある。

③年次有給休暇取得の一部義務化

年10日以上の有給休暇が発生している労働者に対して、会社は必ず5日の有給休暇を取得させる義務を負う。

④高度プロフェッショナル制度の創設

職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1,000万円以上)を有する労働者が、高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、年間104日の休日取得や健康確保措置を講じること、本人の同意等を要件として、 労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする。

⑤割増賃金率の中小企業猶予措置

月の残業時間が60時間を超過した場合、割増賃金の割増率を50%以上にしなければならないという制度が中小企業にも適用となる。

⑥労働条件の明示の方法

明示された労働条件と事実が異なるものではあってはならず、労働者が希望した場合は電子メールの送信等による明示を求めることができる。

⑦過半数代表者の選任

36協定では労働組合がない場合、労働者の過半数を代表する者との協定が必要になるが、その選任について使用者の指名によるものではないこと等が求められる。

⑧その他

勤務時間インターバル制度の導入や、産業医・産業保健機能の強化、取引先に対する著しい短納期発注や発注内容の頻繁な変更を行わないよう配慮すること等が定められた。

実際の労働状況

これらの法改正は建設業の職場環境にどのような変化をもたらしたのでしょうか。働き方改革関連法案はさまざまな論点を含みますが、本稿では建設業において大きな問題点の一つである年間休日の少なさに注目していきます。

建設産業専門団体連合会による調査結果を下記に示します。この調査は2021年10月~11月にかけて、同連合の正会員(34団体)を対象に実施されたものです。

調査によると、就業規則で「4週6休程度」と定める企業が36%程度と最も多いことは過去3年と比較しても変わらないようです。週休6休~8休以上とする企業は2018年と比較して増加していますが、2020年とはほとんど差が見られません。

図1 就業規則等による休日設定

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(出典:令和3年度 働き方改革における週休二日制、 専門工事業の適正な評価に関する調査結果

また、実際に取得できている休日は「4週8日以上」は約10%と、就業規則で「4週8日以上」と定めている企業の割合を大きく下回っています。

図2 実際に取得できている休日

holidays

(出典:令和3年度 働き方改革における週休二日制、 専門工事業の適正な評価に関する調査結果

同連合に加入していない事業者もいて、また、休日の規定もさまざまであるため、同調査結果だけで全ての実態がわかるわけでありませんが、労働環境が著しく改善されているとはいいがたい状態です。

働き方改革の支援策

これらの現状をみると、働き方改革にコミットできていない企業も少なくないようです。これから取り組もうという事業者も多いかと思いますので、働き方改革の支援策として働き方改革補助金9種をご紹介します。

働き方改革補助金

以下の取組みを行った中小企業事業主について、取組みに使った費用の一部を成果目標の達成状況に応じて支給されます。

  1. 労務管理担当者に対する研修
  2. 労働者に対する研修、周知・啓発
  3. 外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など) によるコンサルティング
  4. 就業規則・労使協定等の作成・変更
  5. 人材確保に向けた取組
  6. 労務管理用ソフトウェアの導入・更新
  7. 労務管理用機器の導入・更新
  8. デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新
  9. 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新

(小売業のPOS装置、自動車修理業の自動車リフト、運送業の洗車機など)

詳細は厚生労働省HPでご確認ください。
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)

このほかにも各自治体で実施している補助金や助成金事業等もあります。ただ、助成金事業については予算が有限なため、申込み期限前に受付停止となることもあります。スピード感のある対応が必要でしょう。

おわりに

ご紹介した働き方改革関連法案の中には罰則付きで義務化されたもの以外に、努力義務や任意の制度もあります。しかし、他業界と比べて人材不足の問題が深刻な建設業では、働きやすい職場作りが非常に重要です。現在の建設業界は、人材不足が深刻で業務的余裕が無くなるために休日が減り、さらに人が集まらなくなり状況が深刻になるという負の連鎖に陥っています。

そのため、先々の各企業・業界の存続には、実行による損失回避を目的と考えることが適切でしょう。原材料価格の高騰、部材調達難といった問題の中、職場環境の改善を図るのは簡単ではありませんが、新しい取り組みのきっかけになれれば幸いです。

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