建設業許可の取得動向と6つの許可要件
2024年9月19日
はじめに
建設業界は建設投資のピークを迎えた平成4年度から投資が冷え込み、平成22年度に底を打った後、現在まで緩やかに回復してきています。一方で回復とともに、日本の社会情勢等の状況も変化しています。技能者数や日本人口の減少、建設業就業者の高齢化、働き方改革の推進、資材価格の高騰といった課題を抱えるようになりました。建設業就業者について見ると、55歳以上の割合が35.9%、29歳以下が11.7%と高齢化が進み、次世代への事業承継が大きな課題となっています。
このような中、建設業許可件数についても緩やかに回復しています。今回は建設業許可業者の現状と、今後、建設許可を取得するために必要な建設業許可要件について説明します。
建設業許可業者の現状
国土交通省の発表では、令和6年3月末現在の建設業許可業者の件数は479,383業者とされています。前年同月と比べると4,435業者(0.9%)増加しています。しかし、最も建設業許可業者が多かった平成12年3月末時点と比較すると、約20%減少しています。建設業許可業者の内訳は、都道府県別の分布で見てみると東京都が全体の9.2%、次いで大阪府8.6%、神奈川県6.1%となっています。また、一般、特定別許可業者数を比較すると、一般建設業を取得している業者は454,163業者、特定建設業を取得している業者は49,029業者となっています。
業種別に比較した場合、取得している業者が多い3業種は、「とび・土工工事業」の181,234業者(許可業者の37.8%)、「建築工事業」の144,239業者(許可業者の30.1%)、「土木工事業」の131,523業者(許可業者の27.4%)です。一方で許可を取得している業者が少ない3業種は「清掃施設工事業」390業者(許可業者の0.1%)、「さく井工事業」2,261業者(許可業者の0.5%)、「消防施設工事業」15,838業者(許可業者の3.3%)となっています。また、複数業種の許可を受けている事業者の割合は53.9%と、半数以上となっています。
建設業許可について
建設業法によると建設業とは、「元請、下請その他いかなる名義をもってするかを問わず、建設工事の完成を請け負う営業」を指しています。建設業を営む者は建設業の種類ごとに、国土交通大臣又は都道府県知事の許可を受ける必要があります。ただし、建築一式以外の建設工事では1件の請負代金が税込500万円未満の工事において、建築一式工事では1件の請負代金が税込1500万円未満の工事において、そして請負代金の額にかかわらず木造工事かつ延べ面積が150㎡未満の工事では許可を得ずして、建設業を営むことが可能です。
請負代金については、1つの工事を2以上の契約に分割して請け負う場合は、各契約請負代金額の合計額となります。建設業法は日本国内でのみ適用されるため、外国の工事等には適用されません。
複数の都道府県に営業所を設けようとする場合は国土交通大臣許可、1の都道府県のみに営業所がある場合は知事許可がそれぞれ必要です。営業所は必ずしも本店所在地を指すものではなく、見積や入札や契約といった請負契約の締結について実体的な行為を行う事務所をいいます。知事から許可を受けた建設業者は許可を受けた都道府県に限らず、他の都道府県でも工事を行うことが可能です。
一般建設業、特定建設業は、工事の全部または一部を下請けに出す場合の下請負契約金額によって分類されます。つまり、下請負契約金額が4,500万円以上(建築一式工事は7,000万円以上/複数の下請業者に出す場合は、その合計額)の場合は特定建設業に、4,500万円未満(建築一式の場合は7,000万円未満)または工事の全てを自社で施工する場合は一般事業者に分類されます。
建設業許可の要件
建設業許可を取得するには、大きく分けて6つの要件が必要とされています。
- 経営業務の管理を適正に行うに足りる能力
- 専任技術者に関する要件
- 財産的基礎に関する要件
- 誠実性に関する要件
- 欠格要件等
- 社会保険への加入
6つの要件の中で、①②③⑥について簡潔に説明します。
① 経営業務の管理を適正に行うに足りる能力
これまでは「経営業務の管理責任者」という要件を満たした常勤役員1名で「経営能力」を証明していました。2020年10月1日以降は、常勤役員1名での証明に加えて要件を満たした常勤役員を直接に補佐する複数名で「経営業務の管理を適正に行うに足りる能力」の要件を満たすことができる、と変更されています。常勤役員1名での証明は「常勤役員が建設業に関し5年以上の経営業務の管理責任者としての経験を有すること等」です。
また常勤役員1名に加え常勤役員を直接補佐する複数名の場合の一例としては、常勤役員1名が「建設業に関し、2年以上役員等としての経験を有し、かつ5年以上役員等または役員に次ぐ職制上の地位にある者」に加え「直接に補佐する者については財務管理経験、労務管理経験、運営業務経験について建設業者または建設業を営む者において5年以上の経験を有する者」の要件を満たす必要があります。
② 専任技術者に関する要件
営業所に配置しなければならない専任技術者については一般建設業許可、特定建設業許可それぞれで要件が異なります。つまり、一般建設業許可、特定建設業許可ともに共通している要件としての「取得する業種について定められた資格取得者」に加え、一般建設業許可では当該業種に関する実務経験が10年以上ある者といった一定の実務経験者についても専任技術者となることが認められています。そして特定建設業許可については、一定の要件を満たした建設工事で2年以上の指導監督的な実務の経験を有する者が定められています。
ここにおいて専任技術者は、営業所に常勤して、専らその職務に従事する者のことを指します。そのため、同一法人内であっても他の営業所の専任技術者を兼任することはできません。
③ 財産的基礎等に関する要件
【一般建設業許可の財産的基礎】
次のいずれかに該当すること。
- 自己資本の額が500万円以上あること
- 500万円以上の資本金調達能力があること
- 直前5年間東京都知事許可をうけて継続して営業した実績があること
【特定建設業の財産的基礎】
次の全ての要件に該当すること。
- 欠損金の額が資本金の額の20%を超えないこと
- 流動比率が75%以上であること
- 資本金の額が2,000万円以上であること
- 自己資本の額が4,000万円以上であること
ここで自己資本とは、法人では貸借対照表における「純資産の部」の「純資産合計」の額をいいます。
⑥ 社会保険への加入
健康保険、厚生年金、雇用保険など適切な社会保険の加入が建設業許可の要件となっています。
おわりに
建設業許可業者を取り巻く状況は、社会情勢の変化等の影響によってめまぐるしく変化しています。建設業就業者の高齢化や、高齢化による後継者不足などから業界内のM&Aや事業承継が進むため、令和2年10月1日から円滑に事業承継できる仕組みが整備されました。また「経営業務の管理を適正に行うに足りる能力」が設置された理由も、建設業界の人材不足のためであると推察されます。
建設業界を取り巻く環境では、人材不足から、「特定技能」の在留資格を取得した外国人材の雇用も促進されています。このように急ピッチで法整備も行われているなかで、有用な制度などを大いに活用することが重要となるでしょう。