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新地 皓貴 Hiroki Shinchi

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新地 皓貴 Hiroki Shinchi

パートナー  / 公認会計士 , 税理士

地域企業の付加価値を向上させるためのローカルベンチマークの概要と活用方法

2023年12月5日

はじめに

ローカルベンチマーク(通称:ロカベン)は地域企業の付加価値を向上させるための手段として、2021年6月に経済産業省が公表しました。自社の分析を行い、現状把握を促進することを目的としています。経済産業省のページからダウンロードできるExcelを使用し、自社の情報を入力することで分析を行うことができます。

元々は2015年に地域産業の活性化を目指す「ローカル・アベノミクス」を推進する施策として、「中小企業団体、地域金融機関等による地域企業に対する経営支援等の参考となる評価指標・評価手法(ローカルベンチマーク)」の策定が盛り込まれました。その後、検討を経て公表されました。

ローカルベンチマークが従来の財務分析評価指標と異なる特徴は、財務情報だけでなく非財務情報も洗い出し、企業の実態を把握する点です。今回はローカルベンチマークの概要と活用について説明します。

知的資産経営

企業活動において、現状や自社の強みを把握していることは非常に重要です。

2010年代の中頃からは、インターネット活用が拡大や、今まで以上に進展するグローバル化等で世界的に変化が激しくなっています。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取り、「VUCA(ブカ)の時代」と表現されるまでになりました。

また、現状の変化に関してはコロナ禍や、コロナウィルスとの共存といった事柄も外すことはできません。

現在は未来予測が難しい時代で、さらに、コロナ禍のような突発的な事象が重なっています。その中で、現状把握や自社の強みを時代や状況に合わせて方向転換をすることは重要であり、その重要性は増し続けています。

経済産業省は、会社の強みを把握し、それを活かして業績に結びつける経営を「知的資産経営」と定義しています。「知的資産経営」のメリットとして以下の5つが掲げられています。

  • 経営者や従業員が自社の強みに気づくきっかけになる。
  • 従業員が会社の戦略を理解することに繋がり、一体感が向上する。
  • 外部の人(金融機関・取引先・地域など)に対して会社の強みを明確に説明できる。
  • 会社の魅力と方向性を伝えやすくなり、会社のマッチする人材の確保に繋がる。
  • 後継者に会社の全容を伝えることができ、事業承継が円滑になる。

(引用:https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/pdf/kigyo.pdf

ローカルベンチマークにおける財務情報分析

ローカルベンチマークでは3枚のシートを入力します。そのうちで財務情報を入力するのは1枚のみになります。財務情報分析は売上や営業利益などの項目を入力する作業となるため、直近三期分の決算書があれば時間はほとんどかからずに作成できます。

(図①)

図①にある黄色部分に入力を行うと、自動で業種や事業規模に応じた業界基準値と比較され、評価点が割り出されます。また、売上持続性、収益性、生産性、健全性、効率性、安全性については過去3期分までの推移を分析できます。

(図②)(経済産業省HPロカベンシート現物より抜粋)

ローカルベンチマークにおける非財務情報分析

ローカルベンチマークの全部で3枚あるシートのうち残り2枚は非財務情報になります。入力する情報量の違いから分かりますが、ローカルベンチマークは財務情報よりも非財務情報の分析を重要視しています。実際にローカルベンチマーク活用例では、財務分析を見たときには平均よりも良いとはいえない状況であっても、非財務情報の分析により自社の強みや対応施策が明確になる事例もあります。その結果、金融機関と自社の強みを共有できたことで、新たな資金調達ができています。

非財務情報は以下の図③にある【商流・業務フロー】と図④で示した【4つの視点】の2枚に入力を行います。

(図③)【商流・業務フロー】

(図④)【4つの視点】

(出典:https://www.kiryucci.or.jp/saposute/download/man_01/locaben_manual.pdf

ただし、非財務情報は客観的な判断を行うのは難しいものです。経営者だけで客観的で納得感のある分析をするのは簡単ではありません。可能であれば、従業員や社外の専門家、金融機関担当者を交えて取り組むことが望ましいでしょう。経済産業省から公表されているローカルベンチマークガイドブックでは、他者と共に取り組むファシリテートのコツや企業の魅力を再発見するための対話のコツなども掲載されているため参考になるでしょう。

地域経済分析

事業には地域性が大きく関係しているため、経済産業省は、自社分析の前提に地域経済の現状を把握する重要性を強調しています。地域経済を考慮することでより正確に強みと弱みを分析することができます。ローカルベンチマークの紹介でも、作成を行う際にRESASというサイトを併用ツールとして紹介しています。RESASとはRegional Economy Society Analyzing Systemの略で、日本語では地域経済分析システムと表されています。このツールには、官公庁のデータとともに民間企業のデータも提供されており、9種のマップ・81メニューを無料で利用することができます。

RESASは地方公共団体の地方創生支援を目的に作成されたデータベースですが、民間企業でも高い利用価値があります。このようなツールは、地域の産業構造や自社が属する産業の現状・先行きを分析するために非常に有効な手段です。


おわりに

コロナ禍やコロナウィルスとの共存などにより現状維持が非常に難しくなりました。経済や業界把握の重要性の再認識や、新たな解決策の模索をしている企業も多いでしょう。業務フロー、販路の見直し、新規事業創出およびデジタルトランスフォーメーション(DX)のようなIT活用など、解決策は様々なものがあります。優先順位の判別や策を機能させる検討を行う場合に、重要なのは正確な現状把握といえます。

ローカルベンチマークは金融機関での認知度は94%となっており、活用割合でも4割に上るといわれています。また金融庁でも、担保や保証に依存せず、非財務情報を含めた事業性評価に基づく融資を促進しています。そのため、ローカルベンチマークは企業と取引金融機関との意思疎通とともに共有ツールとしての役割が期待されています。さらに、補助金等を受ける際にもローカルベンチマークで分析を行っていると申請がよりスムーズになる、といったケースが一層増加すると考えられます。

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