建設分野で注目される省エネ対策、物流インフラの整備、老朽化インフラ対策とは
2023年12月5日
はじめに
今回は概算要求に含まれている内容の中で、特に今後注目される点について、建設業界の動向などを踏まえ説明していきます。
グリーン社会の実現に向けた省エネ対策の強化
2020年10月に菅政権は「2050年カーボンニュートラル」を宣言しています。それに伴い「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を掲げました。その中では、電力部門の脱炭素化を大前提とした上で、他の産業でもビジネスモデルを根本的に転換し成長の機会とすることを目的とした枠組みを制定しています。財務省から示された「予算編成の基本的な考え方」においても「グリーン社会の実現」は重点となる項目です。
国土交通省の予算の面からも省エネ対策に関係する要求予算は増額しています。「2050年カーボンニュートラル等グリーン社会の実現に向けた施策の展開」の項目の中で、最も予算額の大きい施策に「ZEH・ZEBの普及や木材活用、ストックの省エネ化など住宅・建築物の省エネ対策等の強化」があります。ZEHはネット・ゼロ・エネルギー・ハウス、ZEBとはネット・ゼロ・エネルギー・ビルディングの略称です。
環境省ではZEH・ZEBを「快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のこと」と位置付けています。使用するエネルギーを削減するだけでなくエネルギーを新しく生み出すことで、建物のエネルギー収支が0になることを目標としています。以下で図解しています。
(引用:環境省HP https://www.env.go.jp/earth/zeb/about/index.html)
省エネ基準に関する改正も行われています。この分野では需要拡大が見込まれますが、同時に、省エネにかかる高断熱技術など住宅メーカーの技術向上も求められます。
物流ネットワークの強化
国土交通省では迅速・円滑で競争力の高い物流ネットワークの実現を目指しています。その実現のために、大都市圏環状道路等の整備やピンポイント渋滞対策等を併せて推進しています。
背景には供給連鎖がグローバル化している点が挙げられます。具体的には、円高や人件費高等の影響で企業の海外進出が進んでいます。そして、国内生産される製品も、海外から部品調達を行い国内で生産後に製品を輸出するケースが増加しています。また、急速に勢いが伸びている供給連鎖のグローバル化に対応し、海外に進出する日本の物流企業も増加しています。
その流れを受けて、物流において重要な道路ネットワークの再設定が重要な課題であるとして、国土交通省は以下の図のようなイメージを公表しています。重要な拠点間を大型車両もスムーズに移動できるよう端末のアクセスルートの整備が進められ、主要な湾岸などの拠点への移動をスムーズに行なえるよう、走行距離の短縮につながる橋梁補強などの整備が実施される予定です。
(引用:国土交通省HP https://www.mlit.go.jp/common/000987229.pdf)
また、物流業界でも建設業界と同様に人材不足が切迫した問題です。2台分の荷物を運べるダブル連結トラックを使用するなど、人員を減らす取り組みも進められています。また、45フィートコンテナを積んだ車両の走行支障解消に向けた取り組みも検討されています。大型車両は橋梁に負荷がかかるため、道路の整備だけでなく、インフラ老朽化の対策も合わせて行うことが必要となるでしょう。
インフラ老朽化対策
国民の安全・安心を支えるインフラは、その多くが高度経済成長期以降の一定期間に整備されました。インフラの耐用年数の一つの目安は50年とされています。この点、建設後50年以上経過する施設が加速度的に増加していくことが予想できます。
(引用:国土交通白書2021より)
2018年より前では、施設の機能や性能に不具合が生じてから修繕等の対策を講じる事後保全が基本でした。しかし2018年に、不具合が発生する前に対策を行なう予防保全の方が効率的であると発表されています。そこで、予防保全を基本として国土交通省所管分野における維持管理・更新費の推計結果が公表されました。
(引用:国土交通省HP https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/_pdf/research01_02_pdf02.pdf)
この推計では2044年まで予防保全費は増加していきます。発表時の2018年との比較で最大で1.4倍の7.1兆円まで増加した後、緩やかに減少へ転じると推定されています。新技術やデータを積極的に活用するなどして、実効性、持続性のあるインフラメンテナンスの実現が目指されています。
インフラ老朽化対策については、この先約25年間は手堅い増加が見込まれています。そのため、建設業界のこれからを最低限サポートする領域と言えるでしょう。
今後の動向
以上のことから建設業では、カーボンニュートラルや物流ネットワークといった時代の先端テーマの対応と、各種インフラ老朽化への対応が両輪となっていくことが考えられます。特に、インフラ老朽化は物流ネットワークの構築にも関わります。これまでは統計数値でしかなかったインフラの修繕が、実際の案件として急速に明らかになっていくことが予想されています。
このようにニーズが明らかになっていくと、いくつかの問題点が浮き彫りになります。
- 従来からの人手不足や働き方改革
- IT技術浸透の遅れ
- ダンピング(公正ではない取引方法)など
そのため、業界のある特定の箇所にしわ寄せが偏らないよう取り組みが必要です。国や自治体だけでなく現場の個々人など立場に関係なく、今現在から行なえる取り組みを積み重ねていく必要性が増していくでしょう。
おわりに
今回は、建設分野で注目される省エネ対策、物流インフラの整備、老朽化インフラ対策について説明しました。
概算要求の内容を知り今後の建設業界の大きな流れを掴むとともに、予算額を比較することで注力されている度合いも掴むことができます。概算要求は毎年更新されていくため、過年度分と比較しながら目を通していくと参考になるでしょう。