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松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

この記事の著者

松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

パートナー  / 税理士

【国際課税Q&A】eスポーツ選手に対する報酬の​源泉徴収及び確定申告の要否

2024年4月16日

質問

韓国人のeスポーツ選手が日本で活動して日本の法人から報酬を得る場合、その報酬に対する日本での源泉徴収及び確定申告の要否について教えてください。

回答

日本での課税は、当該韓国人eスポーツ選手が日本の税法上の「居住者」又は「非居住者」であるかによって異なります。

  1. 居住者である場合、その報酬が所得税法第204条1項各号のいずれかに挙げられる報酬に該当する場合には、源泉徴収が必要となります。また、税額の過不足を調整すべく、確定申告が必要となります。
  2. 非居住者である場合、所得税法第161条1項12号イの「人的役務の提供に対する報酬」に該当し、eスポーツ選手を運動家と税務上考える場合には、日韓租税条約17条においても、日本での課税権を認めているため、20.42%の源泉徴収が必要となります。これについては源泉分離課税となり、日本での確定申告は不要となります(所得税法第169条)。

居住者と非居住者

質問及び回答で登場している「居住者」及び「非居住者」について簡単に述べると、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人を「居住者」といい、居住者以外の個人を「非居住者」といいます(所得税法第2条1項三、五)。これについては、以前のコラム、【国際税務Q&A】非居住者に対する報酬の源泉徴収の要否 | RSM汐留パートナーズ もご参照ください。

根拠

1. 韓国人eスポーツ選手が居住者である場合

居住者に対しては、原則として全世界で生じた所得に対して日本で課税がなされ、源泉徴収が必要な報酬の種類については所得税法第204条1項各号に列挙されています(下表参照)。

源泉徴収が必要な報酬・料金等(所得税法第204条1項)
1原稿料や講演料など
2弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
3社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
4プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
5映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
6ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
7プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
8広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金

所得税法第204条1項4号の「プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手…」というカテゴリーがあり、これらは限定列挙と一般的には考えられていますが、eスポーツ選手はこのカテゴリーには列挙されていません。

しかし、eスポーツ選手という職業が4号に該当しないとしてもeスポーツ選手の活動が他のカテゴリー(5号のテレビ出演料や8号の広告宣伝目的の賞金等)に該当する可能性があり、この場合は報酬金額に応じて10.21%又は20.42%の源泉徴収が必要になると考えられます(所得税法第205条)。

その上で、翌年の確定申告期限までに確定申告を行い、必要に応じて追加の納税又は過払分の還付を受けることとなります。

2. 韓国人eスポーツ選手が非居住者である場合

①国内法(所得税法)による判定

非居住者に対しては、所得税法第161条1項に規定される国内 源泉所得だけに課税されますが、eスポーツ選手に対する報酬は、所得税法第161条1項12号イの「人的役務の提供に対する報酬」に該当するものと考えられます。

人的役務の提供に関しては、国内において行われたもののみが国内源泉所得として認められますが、本件の場合は、eスポーツ選手の日本での活動に対する報酬であることから、国内において行われたものであり、国内源泉所得として日本での源泉徴収の対象となります。

②租税条約による判定

国内法上、国内源泉所得に該当し、非居住者に対する報酬が日本での課税対象となった場合にも、租税条約による軽減・免除がなされる場合が相当程度あるため、個々の租税条約を確認する必要があります。

本件の場合、日韓租税条約において、eスポーツ選手という職業が、第14条の自由職業所得とみるか、第17条の運動家・芸能人でみるかという点で論点となります。この点、日韓租税条約自体の解説ではないものの、日韓租税条約17条に対応するOECD条約第17条に関するコメンタリーにビリヤードやチェスのような娯楽要素がある活動も運動家に該当するという記載があることを参照すると、eスポーツ選手も運動家に該当し、日韓租税条約第17条の運動家・芸能人のカテゴリーに含まれる可能性が高いのではないかと考えられます。

この場合、日韓租税条約第17条は、滞在日数に関わらず日本での課税権を認めています。よって、20.42%の源泉徴収の対象とされますが、この部分については、源泉分離課税となるため、後日、日本での確定申告は不要となります。

リバースチャージ方式による消費税の申告

韓国人eスポーツ選手が非居住者である場合の報酬に関しては、消費税についてはリバースチャージ方式の申告が必要となる点にも留意が必要です。

リバースチャージ方式(逆課税制度)とは、通常、商品やサービスの売り手が納付する消費税を、買い手が直接納税するシステムをいいます。この方式は国際的なサービス取引や、特定業界における取引、電子サービス取引などに対して適用されます。リバースチャージの主な目的は、税逃れを防ぎ、税制の公平性を保つことにあります。

リバースチャージ方式が適用される取引の一つに、「特定役務の提供」があります。「特定役務の提供」に該当するものとしては、具体的に以下のものが挙げられます。

国外事業者が、対価を得て他の事業者に対して行う

  1. 芸能人としての映画の撮影、テレビへの出演
  2. 俳優、音楽家としての演劇、演奏
  3. スポーツ競技の大会等への出場

それゆえ、本ケースの韓国人eスポーツ選手の活動が上記のいずれかに該当する場合には「特定役務の提供」に該当するものといえます。

特定役務の提供を受けた課税事業者は、リバースチャージ方式による申告納税を行うこととなります。その際には、特定課税仕入れに係る支払対価(受けた特定役務の提供の対価の額)が消費税の課税標準となり、特定課税仕入れは通常の課税仕入れと同様に、仕入控除税額の計算の基礎にもなります(国外事業者が行う芸能・スポーツ等に係る消費税の課税方式の見直しについて | 国税庁 参照)。

なお、特定役務の提供を受けた課税事業者の課税売上割合が95%以上である場合等は、リバースチャージは適用されません。

国際税務Q&A_eスポーツ選手に対する報酬の源泉徴収及び確定申告の要否 (PDF)

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