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松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

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松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

パートナー  / 税理士

【国際税務Q&A】非居住者に対する報酬の源泉徴収の要否

2023年6月9日

質問

非居住者に対するデザイン・ブランディング業務に係る報酬について、源泉徴収は必要でしょうか。

回答

PEがないことを前提として、源泉徴収は不要と判断できます。

重要用語

質問及び回答にて使用されている「非居住者」及び「PE」という用語は、国際税務の最重要用語であるため、今一度ここで確認したいと思います。

非居住者

所得税法では、「非居住者」の対になる「居住者」を定義し、「非居住者」は「居住者以外の個人」と定義しています(所得税法2条1項三、五)。

「居住者」とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人とされています(所得税法2条 1項三)。

所得税法における「住所」とは生活の本拠のことをいい、客観的事実によって判定され、「居所」とは、生活の本拠というまでには至らないものの、相当期間継続して居住している場所をいいます。

また、「居住者」も更に「非永住者以外の居住者」と「非永住者」に区分され、各区分によって、課税対象となる所得の範囲や税率が異なります。居住者・非居住者の定義及び課税対象となる所得の範囲についてまとめると《図表1》の通りです。

《図表1》

納税義務者の区分定義 ・課税所得の範囲
居住者非永住者以外定義 ▼
居住者のうち、非永住者以外の個人
課税所得の範囲 ▼
全世界所得(国内外で生じた全所得)
非永住者定義 ▼
居住者のうち、「日本国籍を有していない」且つ「過去10年以内において日本国内に住所又は居住を有していた期間の合計が5年以下である」個人
課税所得の範囲 ▼
全ての国内源泉所得及びそれ以外の所得で日本国内において支払われ又は国外から送金されたもの
非居住者定義 ▼
居住者以外の個人
課税所得の範囲 ▼
国内源泉所得

PE

PE(Permanent Establishment、恒久的施設)とは、事業を行う一定の場所等をいい、非居住者や外国法人の課税関係を決める上での重要な指標となります。非居住者や外国法人が自国内で事業を行っていても、自国内にPEを有していない場合には、その非居住者や外国法人の事業所得が自国で課税されることはない(「PEなければ課税なし」)という国際課税の原則があります。

PEの範囲は国内法、租税条約の各々に規定があり、国内法上は《図表2》の通り3種類に区分されています。(No.2883 恒久的施設(PE)|国税庁参照)租税条約において、国内法上のPEの範囲と異なる定めがある場合には、租税条約が国内法に優先されます。

《図表2》

種類
支店PE事業の管理を行う場所、支店、事務所、工場、作業場、鉱山、その他の天然資源を採取する場所又はその他事業を行う一定の場所
建設PE建設、裾付け又はこれらの作業の指揮監督の役務の提供を1年を超えて行う場所
代理人PE代理人等で、その事業に関し、反復して契約を締結する権限を有し又は契約締結のために反復して主要な役割を果たす者等の一定の者

根拠

1. 国内法(所得税法)による判定

非居住者は、所得税法161条1項に規定される17種類の収入、即ち、国内源泉所得だけに課税されます。よって当該報酬が、所得税法161条1項に規定される収入に該当するか否かが 第一の判断ポイントとなります(No.2878 国内源泉所得の範囲(平成29年分以降)|国税庁参照)。

本件については、デザイン・ブランディング業務に係る報酬ということで、著作権の使用料又はその譲渡対価(所得税法161条1項十一ロ)、もしくは個人による人的役務の提供(所得税法161条1項十二イ)に該当するか否かが論点となります。

著作権に関しては著作権法に規定する著作物に該当するか 否かの確認が必要となりますが、著作物に該当する場合、当該著作権の使用料又はその譲渡対価は国内源泉所得となり、課税対象となります。

国内源泉所得の課税方法には、総合課税(所得税法164条1項)と分離課税(所得税法164条2項)の2つの方法があり、分離課税の場合は源泉徴収の方法にて行われます(所得税法169条、212条)。

本件の著作権の使用料又はその譲渡対価が課税される場合は、分離課税(源泉徴収)による課税がなされます(所得税法164条2項二)。

一方、人的役務の提供に関しては、国内において行われたもののみが国内源泉所得として認められますので、非居住者によるデザイン・ブランディング業務が、国外にて行われた場合は、国内源泉所得には該当せず、日本での源泉徴収は不要となります。

仮に国内において行われたものがあり、国内源泉所得に該当すると判断された場合には、上記の著作権の使用料又はその譲渡対価と同様に、分離課税(源泉徴収)による課税がなされることとなります(所得税法164条、2項二)。

ここまでは、国内法からの課税の要否を見てきましたが、日本の所得税法上、国内源泉所得に該当し、課税対象となった場合にも、租税条約による軽減・免除がなされる場合が相当程度あります。この減免については租税条約毎に異なるため、個々の租税条約を確認する必要があります。

2. 租税条約(日本対ドイツ)による判定

PEが存在しない場合、それぞれ以下のように判断されます。

①当該報酬を著作権の使用料によるものと考える場合、租税条約第12条(使用料)にて、著作権の使用の対価の支払を受ける者の居住地国(この場合ドイツ)においてのみ課税できる旨の記載があり、日本においては免税となります。

②当該報酬を著作権の譲渡対価によるものと考える場合、租税条約第13条(譲渡収益)にて、居住者(この場合ドイツ)が財産の譲渡によって取得する収益については、日本での課税を免除する旨の記載があります。

③当該報酬を人的役務提供によるものと考える場合、租税条約第7条(事業利得)にて、利得を得た国(この場合 ドイツ)において課税され、日本での課税を免除する旨の記載があります。

以上より、いずれの場合においても、結果的に日本とドイツの租税条約により、免税措置が取られるため、当該非居住者に対するデザイン・ブランディング業務に係る報酬については、源泉徴収は不要と判断できます。ただし、免税措置の適用については、所定の手続きが必要となる点、留意が必要です。

国際税務Q&A_非居住者に対する報酬の源泉徴収の要否(PDF)

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