【国際課税Q&A】eスポーツ選手に対する報酬の 源泉徴収及び確定申告の要否 Vol.2(法人経由)
2024年5月15日
質問
前回コラム(【国際課税Q&A】eスポーツ選手に対する報酬の源泉徴収及び確定申告の要否 | RSM汐留パートナーズ)に引き続き、韓国人のeスポーツ選手が日本で活動し、それに対する報酬を韓国のマネジメント会社から受け取る場合、日本での源泉徴収と確定申告の要否について教えて下さい。
【前提条件】
①韓国のマネジメント会社は、日本に支店(PE)を有していない。
②報酬の支払いの流れは、日本法人から韓国のマネジメント会社を経由し、韓国人eスポーツ選手へと行われる。
回答
1. 日本法人から韓国法人への報酬
韓国のマネジメント会社は、所得税法第161条1項6号の人的役務提供事業を担っていると判断でき、所属する韓国人のeスポーツ選手が日韓租税条約上の運動家に該当する場合、日韓租税条約17条においても、日本での課税権を認めているため、日本での20.42%の源泉徴収が必要となります。
2. 韓国法人から韓国人eスポーツ選手への報酬
①eスポーツ選手が非居住者の場合、追加の源泉徴収は不要となり、確定申告も不要と考えられます。
②eスポーツ選手が居住者の場合、源泉徴収は不要となりますが、確定申告は必要になると考えられます。
根拠
1. 日本法人から韓国法人への報酬
①国内法(所得税法)による判定
韓国のマネジメント会社は、eスポーツ選手を派遣することを事業としていると考えられることから、本件の日本法人から韓国法人へのeスポーツ選手の国内での活動に関する報酬は、eスポーツ選手を職業運動家と考える場合、所得税法第161条1項6号の「国内において人的役務の提供を主たる内容とする事業で政令で定めるものを行う者が受ける当該人的役務の提供に係る対価」に該当するものと考えられます。よって、国内源泉所得として日本での源泉徴収の対象となります。
②租税条約による判定
eスポーツ選手は、前回コラムで検討した通り、日韓租税条約の第14条(自由職業所得)ではなく、第17条(芸能人)と考えるものと判断できるため、それに係る韓国法人の事業に係る報酬も、通常の事業所得を規定する第7条としてではなく、第17条(芸能人)2項に従って考えるものと判断できます。
日韓租税条約第17条2項aを参照すると、以下の通りです。
日韓租税条約
第17条(芸能人)
2(a) 一方の締約国(注:本件の場合は日本)内で行う芸能人又は運動家としての個人的活動に関する所得が当該芸能人又は運動家以外の他方の締約国(韓国)の居住者である者に帰属する場合には、当該所得に対しては、第7条、第14条及び第15条の規定にかかわらず、当該芸能人又は運動家の活動が行われる当該一方の締約国(日本)において租税を課することができる。
よって、日韓租税条約を考慮しても、日本に課税権があるものと判断できます。ここでは税率軽減に関する記載もないため、国内法の原則に従って、税率20.42%が適用されることとなります。
その上で、本件のように日本にPEを有しない外国法人においても、人的役務提供事業については、原則として、法人税の確定申告において徴収された源泉徴収税について、その法人から所属するeスポーツ選手に支払われる報酬に係る源泉所得税とみなされる金額を除き、精算ができるものと考えれます(法人税法第141条2号、第144条、第144条の6 第2項)。
2. 韓国法人から韓国人eスポーツ選手への報酬
韓国のマネジメント会社から報酬を受ける韓国人eスポーツ選手が、日本の税法上の非居住者であるか、居住者であるかで日本での課税の取扱いは異なります。
①eスポーツ選手が非居住者の場合
eスポーツ選手に対する報酬は、所得税法第161条1項12号イの「人的役務の提供に対する報酬」に該当するものと考えられます(前回コラム参照)。
その上で、本件では、eスポーツ選手が韓国法人から報酬を受領する前に、韓国法人が日本法人から報酬を受領する段階で、既に源泉徴収がされているとみなす規定が存在しています。よって韓国法人からeスポーツ選手に報酬が支払われる際には、所得税法第215条(以下参照)の規定により、追加での源泉徴収は不要と判断できます。また、日本での確定申告も不要と判断できます(所得税法第164条2項、169条)。
所得税法
第215条 非居住者の人的役務の提供による給与等に係る源泉徴収の特例
国内において第161条第1項第6号(国内源泉所得)に規定する事業を行う非居住者又は外国法人が同号に掲げる対価につき第212条第1項(源泉徴収義務)の規定により所得を徴収された場合には、政令で定めるところにより、当該非居住者又は外国法人が当該所得税を徴収された対価のうちから当該事業のために人的役務の提供をする非居住者に対して、その人的役務の提供につき支払う第161条第1項第12号イ又はハに掲げる給与又は報酬について、その支払の際、第212条第1項の規定による所得税の徴収が行われたものとみなす。
②eスポーツ選手が居住者の場合
国内法上、国内源泉所得に該当し、非居住者に対する報酬が日本での課税対象となった場合にも、租税条約による軽減・免除がなされる場合が相当程度あるため、個々の租税条約を確認する必要があります。
所得税法第215条は条文的には「当該事業のために人的役務の提供をする非居住者に対してその人的役務の提供につき支払う第161条第1項第12号イ又はハに掲げる給与又は報酬」を払う場合の取り扱いなので、eスポーツ選手が居住者である場合には、第215条の適用とはならないと考えられます。
一方で、前回コラムで検討した通り、eスポーツ選手という職業に基づき得る報酬は、所得税法第204条1項4号(職業運動家:プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金)又は5号(芸能人:映画、演劇その他芸能、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金)に該当する可能性があり、この場合、本来は源泉徴収が必要になると考えられます(所得税法第205条)。
しかしながら、韓国法人が日本の居住者に報酬を払う場合は、国外支払いとなり、204条の対象外と整理することが可能と考えます。それゆえ、韓国法人が日本居住者に対して報酬を支払う際には、日本の源泉徴収は不要であると解釈できるものといえます。
ただし、韓国法人から受領した報酬であったとしても、eスポーツ選手が居住者である場合には、当然、日本における確定申告による納税が必要となります。