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山岡 正和 Masakazu Yamaoka

この記事の著者

山岡 正和 Masakazu Yamaoka

パートナー  / 社会保険労務士

外資系企業が知るべき日本の労働時間制度について

2024年5月10日

労働時間制度は、労働法の遵守や報酬体系の作成などにおいて、人事労務管理の最も重要な要素の一つです。実際、日本の労働時間制度は諸外国と似ており様々な選択肢があります。日本の労働時間制度を理解し適法性を担保しながら上手に活用することで、企業・従業員双方の満足度を大きく高め労使WinWinの実現が可能となります。今回は、日本の労働時間制度についてご紹介します。

本稿の内容は以下の通りです。

日本の労働時間制度の概要

日本の労働時間制度は、標準労働時間制と特殊な労働時間制度の2つに大別されます。

標準労働時間制とは、法定労働時間制とも呼ばれ、労働基準法第32条に規定されている、1日8時間、週40時間(休憩時間を除く)の労働時間制のことです。標準労働時間制では、法定労働時間を超える部分は時間外労働として法的に認められ、企業は法律に従って残業手当を支払う必要があります。この労働時間制度はシンプルで統一的であり、生産リズムや事業リズムがあまり変わらない企業にとっては人員管理の面で都合がよいのです。

しかし、閑散期と繁忙期の差があったり、季節的な影響を受けたり、さらには業務内容によって勤務形態が決まったりと、客観的には標準労働時間制の適用範囲を超えて運用されている企業もまだまだ多くあります。そこで、標準労働時間制よりも柔軟な変形労働時間制や、従業員に自主性の要望に応えるみなし労働時間制など、特殊な労働時間制度が設けられています。以下、日本の労働法におけるこれらの特殊な労働時間制度について紹介します。

日本の特殊な労働時間制度

日本の特殊な労働時間制度を簡単に分類すると、(1)変形労働時間制(一定期間内変形労働時間制、フレックスタイム制)、(2)みなし労働時間制(事業場外みなし労働時間制、裁量労働制(専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制))、および(3)高度プロフェッショナル制度の3つに大別されます。

1. 変形労働時間制

変形労働時間制とは、主に、ある一定期間の労働時間を繁忙期と閑散期に応じて調整することにより、その期間全体の労働時間を法定労働時間の要求に合致させる労働時間制のことです。具体的には、特定期間を週単位の変形労働時間制、月単位の変形労働時間制、年単位の変形労働時間制、フレックスタイム制に分けることができます。1週間単位の変形労働時間制が適用される企業の範囲は限定的であるため、以下では主に1ヶ月単位、1年単位の変形労働時間制とフレックスタイム制について説明します。

厚生労働省の「令和4年就労条件総合調査」[1]1によると、変形労働時間制を導入している日本企業の割合は64%に達し、中でも1年単位の変形労働時間制が最も多く、導入企業の34.3%を占めています。同時に、日本の政府部門も変形労働時間制を積極的に推進しています。

(1) 1年単位の変形労働時間制

1年を単位として導入された変形労働時間制では、繁忙期に法定労働時間の上限を変更することができます。1日の労働時間の上限は10時間、1週間の労働時間の上限は52時間であり、同時に、上記変更後の労働時間の後、従業員は最大6日間連続して働くことができます。 この6日間は労使協定の特定期間でもあり、特別な規定を設ける必要があります。実際には、連続する2週間の休日を期間の最初と最後に配置した場合、従業員の連続労働時間の上限は12日と理解することができ、これも上記労働時間の上限を超えて労働時間制度を変形することになり、結果として残業代の支払い義務が生じます。

また、変形労働時間制が適用される3ヶ月を超える期間については、その期間の労働日数が1年間に280日を超えてはならず、1週間当たり48時間を超える連続した労働週の上限は3週間であることが法的に義務付けられています。変形労働時間制が適用される3ヶ月単位の変形労働時間制では、各3ヶ月単位で48時間を超える労働週は3週間以内でなければなりません。

(2) 1ヶ月単位の変形労働時間制

1ヶ月以内の特定の期間に短期間の繁忙期と閑散期が存在するために変形労働時間制を導入する場合、適用期間中の1週間の平均労働時間が法定労働時間(週40時間、特例適用事業の場合は週44時間)を超えないことが法的に義務付けられています。同時に、週1日または4週4日の休日を確保しなければなりません。

(3) フレックスタイム制

フレックスタイム制とは、3ヶ月以内の総労働時間を定め、従業員が出社・退社時間を自主的に決定する労働時間制度です。通常企業は、フレックスタイム制では従業員が同時に勤務することで会社の正常な運営を確保するため、コアタイムを定めることができます。

3ヶ月以内の週平均労働時間は40時間を超えてはならず、清算期間が1ヶ月に満たない場合は清算期間中の週平均労働時間は52時間を超えてはいけません。

名称1ヶ月単位の変形労働時間制1年単位の変形労働時間制フレックスタイム制
労使協定の締結必須*必須必須
労働基準監督署への労使協定の報告必須必須1か月を超える場合は必須
就業規則変更届の提出必須**必須必須
休日週休1日または4週4休週休1日週休1日または4週4休
1日の労働時間の上限10時間
1週の労働時間の上限52時間***
週平均労働時間40時間(特別な場合は44時間)40時間40時間(特別な場合は44時間)
出勤・退勤時間企業による指定従業員による決定
連続労働日数の上限6日(特定期間は12日)

備考

*労使協定または就業規則の規定によることができる。
**従業員10人未満の場合は、同様の社内規程を提出する必要がある。
***対象期間が3ヶ月を超える場合は、労働日数を年間労働日数の上限280日に基づいて換算して算出する。

注意すべき点として、上記の変形労働時間制を実施するためには、登録手続き(労使協定の締結、就業規則の変更等)を行う必要があり、変形労働時間制の下でも残業が発生する場合には、三六協定に関する手続きを行う必要があります。詳しくは、社会保険労務士に確認することをお勧めします。

2. みなし労働時間制

前述のとおり、みなし労働時間制には事業場外みなし労働時間制と裁量労働制(専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制)があります。このうち、事業場外みなし労働時間制とは、職場外で業務を行う場合労働時間の算定が困難であることから、原則として所定労働時間により労働時間を認定する制度です。

裁量労働制は、主にその性質上、従業員の裁量で行う必要がある業務に適用されます。この制度は、会社と労働者との間の労使協定または労働委員会の決議に基づいてみなし労働時間を定め、従業員の書面による同意を得て適用されます。裁量労働制は、企画業務型裁量労働制と専門業務型裁量労働制に分けられます。

以下、裁量労働制を中心に、日本のみなし労働時間制について解説します。

(1) 定義と適用範囲

企画業務型裁量労働制とは、業務の性質上、会社の運営に関わる業務の企画、立案、調査、分析について労働者の裁量を大きくする必要があることから、会社の労働委員会の決議と労働基準監督署への届出によって実施される裁量労働制です。

専門業務型裁量労働制は、業務の専門性から、その性質上働き方や労働時間の取り決めについて具体的な指示を行うことは客観的に困難で労働者の裁量に委ねざるを得ない特殊な労働時間制度です。この点、労使協定により実際に労働者が労働を提供した場合には、協定で定められた労働時間内に労働したものとみなされます。

2024年の法改正により、専門業務型裁量労働制の適用業種・職種は、(1)新製品・新技術の研究開発、(2)情報処理システムの分析・設計、(3)報道・出版業、ラジオ・テレビジョン放送法(放送法)の取材・編集・番組制作、(4)アパレル、インテリア、工業製品、広告などのクリエイティブ職、(5)ラジオ・テレビ番組、映画制作などの演出・脚本職、(6)広告などのコピーライター職、(7)情報システムコンサルティング業、(8)インテリアデザイン、(9)ゲームソフト制作、(10)証券アナリスト業、(11)金融商品開発業、(12)高等教育機関における科学研究職、(13)M&Aコンサルタント(2024年新設)、(14)会計士、(15)弁護士、(16)建築士(一級、二級建築士および木造建築士)、(17)不動産鑑定士、(18)弁理士、(19)税理士、(20)中小企業診断士の20種類となりました。

(2) 手続的要素

日本の法律では裁量労働制を適用するための手続要件も厳格に規定されています。自社で企画業務型裁量労働制を適用しようとする場合、この特殊な労働時間制度の合法性と有効性を確保するために手続要件を理解し遵守する必要があります。

企画業務型裁量労働制を適用するためには、対象となる職種に関して、労働委員会の5分の4以上の決議と労働基準監督署への届出手続きが必要です。専門業務型裁量労働制の場合は、企業は労働者の過半数からなる労働組合または労働者代表と労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出ることが義務付けられています。また、当該制度の適用を受ける従業員との間で就業規則や労働契約を改善する必要があります。

なお、企画業務型裁量労働制と専門業務型裁量労働制の両制度の適用には注意が必要です:

1従業員から書面による同意を得なければなりません。同意は書面で行わなければならず、従業員は書面で同意を撤回することができます。したがって、企業の就業規則の規定は従業員の書面による同意に優先するものではありません。
2従業員の裁量の信憑性。企業が作業方法や時間のスケジュールに指示を出す場合、それは自由裁量と見なされません。
3労働時間とみなされる規定は、1日単位の労働時間に関する規定に限られます。同時に、裁量労働制の適用は、労働基準法の休憩時間、休日、休日勤務、深夜労働に関する規定を排除するものではありません。
4裁量労働制の適用を拒否した従業員には、不利益な措置は行うことは出来ません。
5労使協定または労働委員会の決議の有効期間は3年以内が望まれます。
6企業は、労働衛生法に基づく労働者の健康と福祉の保護のための措置を遵守しなければなりません。
7会社は、裁量労働制の適用に関する内部の意見を処理する社内メカニズムを確立しなければならなりません。
8企業は、法律に従い、関連書類の保管義務を果たさなければなりません。

3. 高度プロフェッショナル制度

高収入の専門職のための特別な労働時間制度として、日本の労働法にも「高度プロフェッショナル制度」が定められています。年収1,075万円の高度専門職員に適用されます。この特殊な労働時間制度の下では、労働基準法上の労働時間、休憩、時間外労働に関する規定は原則として適用されなくなります。ただし、労働者の心身の健康を保護する観点から、高度プロフェッショナル制度が適用される従業員には、年間104日の休日と4週間ごとに4日の休日を確保する必要があります。また、高度プロフェッショナル制度の適用には、従業員の書面による同意が必要です。同時に、職務以外の業務に常態として従事してはなりません。

手続き的要素として、高度プロフェッショナル制度の適用には、労働委員会の決議と、労働基準監督署への報告手続きの完了が必要です。

まとめ

以上、日本の特殊な労働時間制度について紹介しました。在日外資系企業の担当者が日本の特殊な労働時間制度を正しく理解し、企業内部の人事管理に合理的に適用することができれば、人件費の低減と人材のパフォーマンスの向上を両立しやすくなるでしょう。

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