外国企業の日本進出時に検討すべき資金拠出形態(資本金・貸付と過少資本税制)
2024年5月20日
はじめに
外国企業が日本に進出する際、子会社を日本に設立するというのが最もオーソドックスな進出形態となります。その際、日本現地子会社の経営において資金が必要となるため、親会社による資本金拠出や貸付による資金調達が行われます。一見、いずれの資金拠出形態においても優劣はないと感じられますが、税務上の優劣などでその後の経営上の違いが生じます。そのため、本記事においては資本拠出形態について決定するにあたって考慮すべき事項を解説いたします。
資金拠出形態と税金
先に述べたように資本金として拠出した場合、拠出した外国企業は株主として子会社より配当金を受け取ることになります。一方、貸付金として資金拠出した場合、外国企業は貸付金に対する利息を子会社より受け取ることになります。子会社にフォーカスすると、支払配当金については、税務上損金算入はできませんが、支払利息については、損金算入が可能です。そのため、多くの国で借入金により資金拠出を受け支払利息により還元する方が税務上有利となります。そこで、資金拠出形態の割合を調整することで子会社の納税額を調整することにより不当に税金逃れができてしまうスキームを制限するために、多くの国では過少資本税制を導入しており、日本も例外ではありません。
過少資本税制
過少資本税制は基本的な考え方、目的は貸付による資金拠出によっての税金逃れを規制することですが、国によって具体的な規定内容は異なります。日本における過少資本税制について規制内容を解説させていただきます。
日本における過少資本税制計算方法(規制対象判定)
日本における過少資本税制では、国外親会社からの借入金額が資本金額の3倍を超える場合に規制対象となります。つまりデット・エクイティ・レシオ(負債資本比率)が3:1を超えて負債比率が高い場合に子会社における利息の支払額損金算入に制限がかかってくることになります。
反対に、全負債額(外国親会社に対する負債のみではない)と純資産額を用いたデット・エクイティ・レシオが3:1を超えない場合は規制免除となります。この場合の資本については、子会社の純資産額において計算されます。そのため、子会社の業績によって毎期規制対象となるか否か変動してくることとなります。過年度規制対象外であっても日本子会社の業績悪化に伴い急に規制対象となる可能性があるので留意が必要です。
なお、デット・エクイティ・レシオ計算時には負債・資本いずれも期中平均額を使用します。
日本における過少資本税制計算方法(損金不算入金額算定)
日本において過少資本税制の対象となった場合、原則として外国親会社に支払う利息のうち、デット・エクイティ・レシオが3:1を超える部分に該当する利息分が損金不算入となります。具体的な計算式は以下の通りです。
損金不算入額=外国親会社への支払利息×平均超過額/外国親会社からの平均借入額
※平均超過額=外国親会社からの平均借入額-外国親会社からの資本金額×3
※規制対象判定、損金不算入金額算定いずれも個別の状況により若干計算方法は変わってきますが基本の考え方、計算ロジックは上記の通りとなります。
資金拠出形態とバランス決定における考慮事項と対策
日本進出の際、過少資本税制による税務上の論点のみならず、会社法、ビザなど資本金額に対する規制は多岐にわたるため、総合的に検討していく必要があります。このうち過少資本税制については規制対象になったとしても規制違反というわけではないため検討せずとも会社設立自体は可能ですが、設立後の会社経営に大きく影響してくるので設立段階より検討することを推奨します。
日本進出後の過少資本税制への対策
日本子会社設立時に過少資本税制の対象から外れるよう資金拠出形態の割合を調整したとしても、日本子会社の業績が芳しくなく過少資本税制の規制にかかることが見込まれる場合、対策を打たなければ支払利息の一部が日本の法人税計算上損金不算入処理されてしまいます。借入金の割合を減らすことでデット・エクイティ・レシオを規制の範囲内に調整することも一つ対策としてありますが、多くのケースで子会社の業績が芳しくない中での返済は現実的ではありません。そこで効果的な対策として検討されることをおすすめしたいのは「増資」、もしくは「デット・エクイティ・スワップ(DES)」です。デット・エクイティ・スワップ(DES)は借入金を資本金に振り替える処理で、その結果、負債資本比率が低下します。
まず増資・DESに共通して注意すべき点としては、外資規制との兼ね合いです。税務面での過少資本税制を回避するためにこれらを資本再編検討する際には、会社法など法務面の調査も必要となります。たとえば外資規制で外資比率が規制されているケースなどは多くの国で見受けられますが、資本再編により外資比率が増すため、この点税務法務両側面での評価が必要となります。また何かしらの恩典を受けており、当該恩典の条件に外資比率が指定されているなどのケースもあります。過少資本税制への対策は資本構成の変動が伴うため、多方面への影響に気を配りながら慎重に考える必要があります。
さらに、日本においては過大支払利子税制の規制が別途存在し、資本再編によって過少資本税制の規定内のデット・エクイティ・レシオ(負債資本比率)に調整したとしても支払利息が損金不算入となるケースもあります。そのため、会社法などの法務面や外資規制、過少資本税制以外の税制との兼ね合いを総合的に評価したうえで、資本再編により過少資本税制対策の効果を検討していく必要もあります。
おわりに
外国企業が日本進出する際の重要な論点となってくる資金拠出の形態について主に税務面との関連性について解説をさせていただきました。日本子会社設立時のみならずその後の日本子会社経営においても資金注入方法を検討する必要があります。さらに日本子会社サイドの法務面、税務面のみならず親会社居住国における取り扱いも含めて総合的に検討・判断する必要があり、それらを包括的・継続的にアドバイスできるコンサルティング会社に委託することが重要になります。そして、コンサルティング会社に任せると同時に貴社グループ内でもポイントを抑えてグループ会社全体の経営上のベストソリューションを導き出していくことも重要です。