日本における年間の税務業務とスケジュール:外資系日本法人特有の留意点とは
2024年5月31日
はじめに
外資系日本法人が事業を開始する際、親会社居住国の制度との違いで日常的なオペレーションに苦労するケースが多々あります。日本での事業・オペレーションは日本人を雇用し対応している会社も多いようですが、親会社サイドで日本のオペレーションを把握していないことによる弊害が生じる場合があります。例えば連結財務諸表作成時に日本のオペレーションが親会社サイドにも影響を及ぼす可能性や、親会社が進出意思決定をした際に想定していた以上の業務負担などが生じ、当初の想定から変更せざるを得なくなる可能性もあります。
日本進出においては、オペレーションに直結する主な制度を親会社サイドでも理解しておくことが非常に重要です。そこで本記事では、外資系企業が日本進出時に年間で対応すべき税務の主な事項や業務、スケジュールについて解説します。
日本における基本的な税務業務スケジュール
日本においては個人にかかる税務業務スケジュールは法人の決算期の影響を受けませんが、法人にかかる税務業務スケジュールは法人の決算期によりスケジュールが変わってきます。日本では法人の会計決算期は自由に設定ができ、多くの内資日本法人は3月決算を選択します。一方、外資系日本法人の多くは連結親会社の決算期に合わせ12月を決算期として設定するのが一般的です。そのため、本記事では12月を決算期として設定している外資系日本法人の税務業務スケジュールを解説します。
【法人税関連】
日本では、会計上の利益に加算調整、減算調整を入れ、税務上の所得である課税所得を算出し、法人税率を乗じて法人税額が算定されます。法人確定申告・納税のタイミングで法人税に加え、法人住民税、地方法人税、法人事業税、特別法人事業税の申告納税が必要です。そのため、法人税等と表現することもあります。以下、法人税等に関連する申告・納税スケジュールです。特に確定申告については期末日後2か月以内に申告・納税する必要があり、国際的にみても比較的タイトなスケジュールといえます。また、日本では国内取引に関し源泉所得税の対象となる取引は国際的にみると多くありませんが、海外取引については配当金、支払利息、使用料当の国際支払いなどについて源泉所得税の対象となってくるケースがあります。外資系日本法人の場合、海外取引が多く生じると想定されるため、源泉所得税の申告納税期日や租税条約の適用申請タイミング(後述)について該当取引が多数発生する可能性があり留意が必要です。
法人税等確定申告および納税:2月末期限(年1回)※申告については、1か月の延長可能
源泉所得税の納付:翌月10日期限(年12回)
法人税等中間申告および納税:8月末期限(年1回)※1
※1:日本においては中間法人税は前期法人税額が20万円を超えている場合に必要となります。
【消費税関連】
日本においては、消費税は課税事業者登録した事業者に対して申告・納税が課せられます。一定の条件を満たした会社は予定申告・納付も必要となります。以下、消費税に関連する申告・納税スケジュールです。
消費税確定申告および納税:2月末期限(年1回)※※申告については、1か月の延長可能
消費税予定申告および納付(A会社):8月末期限(年1回)
消費税予定申告および納付(B会社):5月末、8月末、11月末期限(年3回)
消費税予定申告および納付(C会社):確定申告月以外の毎月末期限(年11回)
※消費税の予定申告および納付の頻度については以下の会社分類に応じ上記のスケジュールが適用されます。
A会社:前期の課税期間の税額が48万円超、400万円以下の会社
B会社:前期の課税期間の税額が400万円超、4,800万円以下の会社
C会社:前期の課税期間の税額が4,800万円超の会社
(補足)日本ではインボイス制度が2023年10月以降導入されており、非課税事業者への支払いについて仕入税額控除が認められなくなりました。取引相手が課税事業者か否かで意思決定や事務処理、会計処理が変わってくるなどオペレーションへの影響も大きい新制度導入です。そのため、インボイス制度を熟知しているバックオフィススタッフが必要になるなど、人員の面でも留意する必要があります。
【その他税金】
固定資産税の納税:年4回※2
※2:日本では、固定資産税は毎年1月1日時点で対象資産(土地や家屋)を所有している個人・法人に課される税金であり、毎年4~5月ころに市町村から届く納税通知書をもとに納税します。納税期日は自治体によって異なりますが、多くの場合以下の通りです。
4月(第1期)、7月(第2期)、12月(第3期)、2月(第4期)
外資系日本法人特有の税務業務
【法人税確定申告関連】
移転価格文書作成・提出
移転価格税制とは、法人が国外取引により所得を他の国に移転させることを防止するために設けられた制度です。多国籍企業においては、親子会社間や兄弟会社間で取引を行うケースも多く、そのような取引では取引価格を自由に決めることも可能です。そのように第三者間で行われる取引価格とは異なる価格で取引を行うことにより、不当に所得を他の国に移転させることができてしまいます。
そこで、日本法人が国外関連者(親子関係や兄弟関係のある外国法人又は実質的な支配関係のある外国法人など)と取引を行った場合に、国外関連者から支払いを受ける対価の額が独立企業間価格に満たないとき、又は国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは、その取引は独立企業間価格で行われたものとみなすことにより、所得の移転を防止する制度となります。
作成が必要となる主な文書として、国別報告書(CbCR)、マスターファイル、ローカルファイルがあり、日本では以下の条件により提出が求められます。
- 国別報告書(CbCR):多国籍企業グループの直前会計年度の連結総収入金額が1,000億円以上の場合、最終親会社の会計年度終了の日の翌日から1年以内にe-Tax(※3)により税務署に提出が必要となります。※3:日本における国税庁が運営する、国税にかかる申告・申請・納税にかかるオンラインサービスの愛称です。
- マスターファイル:多国籍企業グループの直前会計年度の連結総収入金額が1,000億円以上の場合、最終親会社の会計年度終了の日の翌日から1年以内にe-Taxにより税務署に提出が必要となります。
- ローカルファイル:国外関連者との間の前事業年度の取引金額が50億円以上、かつ無形資産取引金額が3億円以上の場合、法人税確定申告書の期限までに作成し、税務当局より提出を求められた日より45日以内の税務署指定の日までに提出が必要となります。それ以外の会社は同時文書化義務が免除されますが、その場合でも税務当局より提出を求められた日より60日以内の税務署指定の日までに提出が必要となります。
過少資本税制
過少資本税制とは、内国法人が国外支配株主等から資金提供を受ける場合に、出資金に比較して多額の借入を行うことにより、租税回避を行うことを防止するために設けられた制度です。日本における過少資本税制では、国外親会社からの借入金額が資本金額の3倍を超える場合に規制対象となります。つまりデット・エクイティ・レシオ(負債資本比率)が3:1を超えて負債比率が高い場合に日本子会社における国外親会社への利息の支払額損金算入に制限がかかってくることになります。この過少資本税制の制限にかかる場合、法人税申告の際に当該税制の影響を考慮し課税所得額・法人税額を計算し申告・納税する必要があります。
【源泉所得税関連】
海外取引にかかる源泉所得税と租税条約の適用申請
日本では源泉所得税は翌月の10日が申告納税期限となりますが、海外取引にかかる源泉所得税に関しても当該期日は同様です。海外取引にかかる源泉所得税は租税条約を適用することにより、日本国内法と租税条約それぞれに規定されている税率のうちいずれか低い方が適用されます。海外取引の相手居住国との租税条約内容によりますが、多くのケースで租税条約を適用することにより源泉所得税率が低減されるため、租税条約を適用することは経営上重要です。注意すべき点として、当該租税条約は自動的に適用されるわけではないという点で、以下の対応が必要となります。
支払いを受ける外国居住者(法人)が、源泉徴収をおこなう日本企業(支払い側)を通じて日本の税務署へ租税条約適用に関する申請書を提出する必要がございます。具体的には支払い者の所轄税務署に提出することとなります。申請タイミングとしては適用申請したい取引にかかる支払日の前日までとなります。適用を受ける所得の種類(サービス料、配当、利子、使用料など)によって届出が必要な書類が異なりますのでご注意ください。各所得における届出に必要となる書類は下記国税庁ホームページより確認・取得できます。
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/joyaku/mokuji2.htm
届出が必要な書類の中で特に重要な書類が居住者証明書です。これは外国居住者(法人)が当該外国の居住者であることを証明するための書類となります。日本とどこの国との取引かによって適用する租税条約が変わります。そのため、租税条約適用申請する外国居住者(法人)がどこの国の居住者なのかを証明することによって適用する租税条約が特定されます。この居住者証明書については国によっては発行に数ヶ月を要することもあるため、余裕をもって準備するようにしてください。
まとめ
日本における一般的な法人に関連する税務スケジュールおよび外資系日本法人が留意すべき税務スケジュールについて大枠を解説しました。日本法人サイドの担当者は当然把握しておく必要がありますが、親会社担当者においても最低限押さえておいていただきたい内容となります。ぜひ本記事をご活用いただき、日本の税務業務、スケジュールの大枠を把握していただけると幸いです。