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松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

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松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

パートナー  / 税理士

外資系企業の日本における会計基準の適用について

2024年7月8日

はじめに

外資系企業が日本に子会社等を設立した際に、当該子会社は日々発生した取引について会計処理をおこない財務報告を行う必要がありますが、その会計処理は具体的にどの基準に準拠するのかが問題となります。本稿では、日本進出を考慮している外資系企業が日本において準拠すべき会計基準及びその具体的内容、さらに税務との関係も含めて解説していきます。

外資系企業が日本において採用できる会計基準について

日本の上場会社の場合適用可能な会計基準は下記のとおりです。一方上場会社等でない法人等の場合、自国基準において財務報告を行うことが可能です。

  • JGAAP(Japan Generally Accepted Accounting Principles:日本において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準)
  • USGAAP(USA Generally Accepted Accounting Principles:米国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準)
  • IFRS(International Financial Reporting Standards:国際会計基準)
  • JMIS(Japan’s Modified International Standards:修正国際基準)

ⅰ. 日本会計基準(JGAAP)

日本会計基準は、日本国内で広く一般的に使われている会計基準です。1949年に制定された企業会計原則をベースに作られており、「一般原則」「損益計算書原則」「貸借対照表原則」の3つの原則から成り立っています。財務諸表の損益計算書は損益計算書原則、貸借対照表は貸借対照表原則に準拠します。

ⅱ. 米国会計基準(USGAAP)

米国会計基準は国際会計基準と並ぶ世界的な会計基準であり、日本の会計基準も米国を参考としています。そのため両者は基本的に類似している傾向があります。日本の企業で、かつ、米国SECの登録企業についてはUSGAAPによって財務諸表を公表することが認められています。

ⅲ. 国際会計基準(IFRS)

国際会計基準は世界110以上の国と地域で用いられている会計基準です。非常に多くの国で採用されており、原則主義、貸借対照表重視、注記が多いなどの特徴がみられます。2009年に金融庁は「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」を発表しました。これは日本のIFRS導入に向け、2010年3月から国際的な活動を行う上場企業の連結財務諸表にIFRSを任意適用することを認めました。

ⅳ. 修正国際会計基準(JMIS)

修正国際会計基準とは、国際会計基準審議会(IASB)が作成、公表した会計基準(国際会計基準)に、日本の会計実務を加味して一部「削除又は修正」を行った会計基準です。一定の要件を充足する上場会社等は「修正国際基準特定会社」として、修正国際基準により連結財務諸表を作成することができます。

(1)外資系企業が日本の上場会社を取得し子会社化することにより日本に進出する場合

この場合、当該子会社は当然に日本基準を採用することができます。またIFRSは任意適用が認められているため、IFRSも採用することができます。ただし、現在IFRSに基づいて財務報告が可能なのは連結財務諸表のみであり、単体財務諸表は日本基準に基づいて財務報告が必要です。また、当該日本子会社が米国SECに登録している場合、IFRSと同様に連結財務諸表に限り米国基準により財務諸表を作成し財務報告をすることが可能です。修正国際基準は、一定の要件を充足した企業の場合適用が可能ですが、2023年3月末時点において適用企業は存在しないため一般に採用することはないものと考えられます。

JGAAPIFRSUSGAAPJMIS
会計単体財務諸表該当なし
連結財務諸表✓(米SEC登録企業)該当なし
税務申告Local book → JGAAP → 法人税法 (調整必要)

(2)外資系企業が、日本において子会社等を新規設立する又は非上場会社を取得する場合

新会社の設立及び非上場会社の場合は、上記4つの会計基準に準拠しての財務報告が可能で、かつ、自国の会計基準に基づいて財務報告を行うことも可能です。

しかし、日本国に所在する法人である以上、日本国で税務申告する必要あり、当該税務申告は日本の法人税法等に準拠する必要があります。日本の税法上、法人税申告書は日本基準による計算書類の税後利益から調整を実施し課税所得を計算する確定決算主義の考え方を採用しています。そのため、まずはIFRSや米国基準又はその他自国の会計基準を採用しLocal bookを作成している外資系企業は、それらの会計基準から日本基準に変換するGAAP調整が必要となります。

JGAAPIFRSUSGAAPJMIS
会計単体財務諸表
連結財務諸表
税務申告Local book → JGAAP → 法人税法 (調整必要)

日本基準とIFRS、USGAAPにおける相違点について

(1)日本基準とIFRSについて

日本基準とIFRSとの相違については非常に多岐にわたるため、相違ある論点を列挙するにとどめます。

一般的論点財政状態計算書関連個別論点金融商品
  1. 財務諸表の表示について
  2. 公正価値の測定
  3. 連結
  4. 企業結合
  5. 外貨換算
  6. 会計方針、見積理の変更及び誤謬
  7. 後発事象
  1. 有形固定資産
  2. 無形資産
  3. 投資不動産
  4. 関連会社に対する投資
  5. 共同支配の取決め
  6. 棚卸資産
  7. 生物資産
  8. 資産の減損
  9. 引当金及び偶発負債
  10. 法人所得税
  1. リース
  2. 1株あたり利益
  3. 売却目非流動資産及び非継続事業
  4. 期中財務報告
  5. 鉱物資産・剥土コスト
  6. サービス委譲契約
  1. ヘッジ会計
  2. 表示及び開示
  3. 金融収益費用

(2)日本基準と米国基準について

米国基準と日本基準の主な相違点としては、無形資産の評価、特に「のれん」の評価方法があります。日本基準では20年以内の毎期定期償却を原則としていますが、米国基準(IFRSも同様)では定期償却は実施せずに毎期減損テストを実施することが要求されています。また研究開発費でも相違があり、日本基準では発生時に全額費用処理されますが、米国基準(IFRSも同様)では、研究部分は発生時に費用処理をする一方で、開発部分は資産計上を行い毎期償却することが求められています。なおその他の論点においても多くの相違点が存在するため、包括的に日本基準との相違点を把握しておく必要があります。そのうえで、前述のとおり税務申告を行う際には日本の会計基準に合わせて調整(GAAP調整)する必要があります。

(3)日本における法人税法の所得計算規定と企業会計の関係について

日本では、法人税法における所得金額の計算規定は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」が補完する構造となっており、両者は完全に一致するものではないことになります。そのため、GAAP調整したとしても、それだけでは日本の法人税等の申告書を作成することはできません。

具体的には、交際費、寄附金、役員給与などは企業会計上の費用又は損失とされていても、法人税法上損金に算入されないことが多々あります。このため日本進出時には、日本の企業会計基準に精通するだけでなく、日本の企業会計基準と法人税法等との相違項目にも精通しておく必要があります。

その他日本進出時における税務上の論点について

企業の所得の計算上、支払利子が損金に算入されることを利用して、関連者間の借入れを恣意的に設定し、過大な支払利子を損金に計上することで、税負担を減少させることが可能です。これらの租税回避行為を封じる措置として、以下の3つの制度が整備されています。

  • 過大な利率設定の制限(移転価格税制)
  • 資本に比べ過大な負債(過少資本税制)
  • 所得の金額に比して過大な支払利子の損金算入制限(過大支払利子税制)

(1)過少資本税制

上記ⅱ.の過少資本税制とは、外国企業の日本子会社の資本構成に関して、利子の損金算入につき一定の制限を課す制度です。過少資本税制は、Thin capitalizationと呼ばれ、オーストラリアや英国でも同様の税制が導入されています。

外資系日本法人が資本金を低くすれば地方税の均等割を抑えられます。さらに、資金が資本金の代わりに借入金で供与されると、この法人が支払う利息は費用になり日本子会社の利益を抑えることが可能となります。こうした租税回避行為を防止するために過少資本税制が適用され、利息の損金算入が制限されます。

なお、過少資本税制は、負債の額が資本の額の3倍を超える場合に適用され、資本持分の3倍を超える金額に対応する支払利子等の損金算入は認められません。

適用に当たっては、計算過程がかなり複雑であるため、決算前に過少資本税制に該当するかどうか再確認することが望まれます。

(2)過大支払利子税制

過大支払利子税制はⅲ.の租税回避に対する措置であり、関連者への純支払利子等の額のうち調整所得金額の一定割合(50%)を超える部分の金額について、当期の損金の額に算入できません。

(3)留保金課税

留保金課税とは、同族関係者1グループで株式等の50%を超えて保有している会社(特定同族会社)が内部留保した金額に対して追加的に課税される制度です。

中小法人等(通常資本金1億円以下の法人)は留保金課税の適用が免除されています。ただし、親会社の資本金及び出資構成などにより非中小法人等に該当し、かつ、特定同族会社に該当した場合は、留保金課税が適用されるケースもあります。親会社が非上場会社の場合は、決算前に親会社に確認をとるなど注意が必要です。

なお、留保金課税金額の計算方法は、通常の法人税の額に課税留保金額に一定の割合を乗じて計算した金額を通常の法人税に加算します。

留保金課税額=〔{(所得-社外流出)-法人税等}-留保控除額〕× 特別税率

(4)源泉所得税(国内源泉所得の源泉徴収)

外資系企業の場合、関連会社との取引や外国ベンダーとの取引が多くなるため、非居住者・外国法人に支払う国内源泉所得に該当する取引が往々に見受けられます。

日本国外の企業が受け取ることになる「使用料」、「配当」、「利息」などは受取る外国企業にとっても通常の所得になり、本国で課税されると同時に日本においても源泉徴収されます。これは、日本で発生した所得、つまり「国内源泉所得」となるためです。

上記の典型的な国内源泉所得とは別に、日本国外の会社が所有するソフトウェアを利用しそのロイヤリティを支払うケースや、日本国外の経営コンサルタントが来日しコンサルティング報酬を支払うケースなど、支払先企業が外国企業である場合には源泉徴収義務が生ずる可能性があり、慎重に課税関係を確認する必要があります。

「租税条約に関する届出書」をあらかじめ日本の税務署へ提出することで、源泉徴収の減免や免除を受けることができる場合がありますので、節税の観点からも租税条約の確認が必要です。

日本の上場会社に求められる開示制度について

日本の企業が上場会社であれば、金融商品取引法や会社法において法定開示が求められます。また有価証券上場規程、同施行規則等により、適時開示も求められます。

企業は金融商品取引法に基づく法定開示書類として、有価証券報告書、四半期報告書、半期報告書、臨時報告書、親会社等状況報告書、公開買付届出書、大量保有報告書など、各々一定の期間内において開示が必要です。これらの開示が適切な期間内おいてなされなかった場合、当該企業には上場廃止等極めて重い厳罰が課されることもあります。これが法定開示です。

一方で、適時開示は、タイムリー・ディスクロージャーと呼ばれる証券取引所のルールであり、「決定情報」、「発生情報」、「決算情報」の3つからなります。「決定情報」とは新株式の発行や他社との合併など企業自らが意思決定を行ったことに関する情報で、これに対し「発生情報」とは工場の火災や大株主の異動など企業の意思決定によらず企業外で発生したことに関する情報となります。また、「決算情報」とは、売上高や利益の額などを集計した決算の内容を開示するもので、企業にとっての「成績表」ともいえます。

なお、「決定情報」に該当する決定事実には新株の発行、合併、新規事業の開始等があります。「発生情報」に該当する発生事実としては工場の火災、大株主の移動、重要な訴訟の提起等が挙げられます。また「決算情報」は、決算内容や業績、業績予想の修正等になります。これらについても、取引所が規定する期間内においてすみやかに開示することが求められています。

この点、外資系企業が日本に進出した場合、進出する形態によってはこれらの日本における開示制度にも適時適切に対応することが求められます。

おわりに

日本進出を検討する外資系企業にとって、日本における会計基準に準拠して税務申告等を実施することは容易なことではなく、さらに上場企業であった場合には開示制度にも適時適切に対応することが要求されます。このため日本進出にあたり、自国で採用する会計基準に加えてローカルな日本基準、さらにローカルな日本の法人税法、場合によっては日本の開示制度にまで精通しておく必要があります。

これらについて、自社内のリソースのみで対応することは多くの場合困難です。スムーズな日本進出を図り日本でのビジネスを円滑に遂行するためにも、現地日本の会計・税務に精通したプロフェッショナルファームにサポートをしてもらうことは非常に有意義な選択と考えられます。

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