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松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

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松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

パートナー  / 税理士

日本の法人形態がもたらす税務上の影響について:株式会社と合同会社の違いやアメリカのLLCとパススルー課税もまとめて解説

2024年12月23日

株式会社と合同会社の基本的な違い

日本で事業を始める際、法人形態の選択は重要なステップです。

特に「株式会社(Kabushiki Kaisha, KK)」と「合同会社(Gōdō Kaisha, GK)」は、多くの企業が検討する主要な選択肢です。両者には法的に違いがあり、それが事業運営に影響を与える場合があります。

まず株式会社は、日本で最も一般的な法人形態であり、特に大企業や上場企業が採用する形態です。

株式会社の特徴は以下の通りです

【株式会社の特徴】

  • 信頼性: 株式会社は取引先や金融機関からの信用を得やすく、特に株式発行による資金調達を目指す企業に適しています。
  • 設立コスト: 定款認証が必要で、公証人手数料や登録免許税などの設立費用が高めです。
  • 所有と経営の分離: 株主が所有権を持つ一方、取締役が経営を行います。これにより、資本と経営が分離し、明確な責任分担が可能です。
  • 運営の透明性: 株主総会の開催義務や決算公告義務があり、ガバナンスが重視されます。

一方、合同会社は2006年の会社法改正により導入された法人形態で、柔軟な運営が可能です。

合同会社の特徴は以下の通りです。

【合同会社の特徴】

  • 設立コスト: 定款認証が不要であり、設立費用が抑えられるため、スタートアップ企業や中小規模のビジネスで用いられる傾向があります。
  • 所有と経営の一致: 出資者(社員)が直接経営に関与することができるため、迅速な意思決定が可能です。
  • 柔軟な内部規則: 定款に自由なルールを設定できるため、利益配分や業務執行権限を柔軟に定められます。
  • ガバナンス要件の軽減: 株主総会の義務がなく、決算公告も不要なため、運営コストが低いです。

総合すると、株式会社は規模の大きなビジネスや信用力を重視する場合に適しているのに対して、合同会社はコストを抑え柔軟な運営を目指す、中小企業やスタートアップ企業に適していると考えられます。

なお、選択した法人形態は後から変更することも可能ですが、その際には定款の変更や登記手続きなどが必要となるため、初期段階で十分に検討しておくことが望ましいでしょう。

これら2つの法人形態は法的には異なりますが、日本では税務処理の観点で見ると、基本的に同じルールが適用されます。

アメリカのLLCと日本の合同会社の比較

日本の法人形態のうち、合同会社はアメリカのLLC(Limited Liability Company)と呼ばれる法人形態にならって導入されました。

したがって、アメリカのLLCと日本の合同会社はそれぞれ似た特徴を持つ法人形態になります。

両者の主な共通点は以下の通りです。

  • 出資者は有限責任:LLCも合同会社も、出資者(LLCではメンバー、合同会社では社員)の責任は出資額に限定され、個人資産がビジネスの債務に対して保護されます。
  • 設立の容易さ:両社とも設立コストが比較的低く、運営規則が柔軟に定められるため、小規模ビジネスやスタートアップに向いています。

反対に、相違点として最も大きなものとして両者の税務処理が挙げられます。

  • アメリカのLLC:アメリカのLLCでは「パススルー課税(Pass-Through Taxation)」と呼ばれる課税方法を選択することで、節税効果を得ることができます。
  • 日本の合同会社:日本の合同会社には法人税法が適用され、通常の法人と同じように課税されます。

このパススルー課税についてもう少し詳しく解説します。

パススルー課税の仕組みとその利点

アメリカで広く利用されているパススルー課税(Pass-Through Taxation)は、法人レベルでの課税を回避し、利益を直接個人に配分する仕組みです。

この仕組みにより、二重課税を回避できるという大きな利点があります。

具体的には、C Corporation(C Corp)のような通常の株式会社の場合、企業レベルで法人税が課税された後、株主への配当にも課税されるため、二重課税が発生します。

一方、LLCやS Corporation(S Corp)のような小規模株式会社の場合、企業の利益にたいして法人税は課税されずに出資者に対して所得税のみが課税されます。

この仕組みは中小企業や家族経営のビジネスにとって、特に有利とされています。

日本の合同会社の場合には、このパススルー課税の制度がないため、通常の法人と同じように法人税が課税され、利益の分配があれば出資者に対して所得税も課税されることになります。

株式会社と合同会社の税務処理の共通点

日本の株式会社(KK)と合同会社(GK)は、税務上はほとんど同じルールが適用されます。法人税の計算方法、消費税の申告義務、地方税の課税基準などにおいて、大きな違いはありません。

主な共通点として、以下のような事項が挙げられます:

  • 法人税:課税所得に対して一律の法人税率が適用。
  • 消費税:一定の条件下で課税事業者となる。
  • 地方税:法人住民税や法人事業税が課される。

これにより、日本国内での法人形態の選択は、主に経営戦略や運営の柔軟性に基づくものとなっています。

親会社がアメリカ企業の場合の税務上の注意点

アメリカ企業の親会社が日本の子会社を持つ場合、税務の観点から子会社の法人形態を注意する必要があります。

日本の子会社の法人形態が合同会社である場合、アメリカの親会社は先ほどのパススルー課税を利用して節税効果を得ることができます。

日本の合同会社はアメリカの税制上、パススルー課税の対象外には挙げられていないため、アメリカの親会社は税務上のメリットを享受できます。

例えば、日本で子会社を設立し数年は利益がでずに損失が続くことが見込まれるのであれば、法人形態として合同会社を選択しパススルー課税を適用することで、アメリカの親会社の利益と日本の子会社の損失を相殺して節税効果を得ることが可能です。

ただし、アメリカの親会社がパススルー課税を適用するかどうかにかかわらず、日本国内では日本の税制に基づき、子会社である合同会社の利益に対して法人税が課される点には留意する必要があります。

国際税務ルールが与える影響

アメリカ企業が日本に子会社を設立する際、国際税務ルールの影響を考慮することが重要です。特に注意すべきポイントとして、以下が挙げられます。

まず、移転価格税制では、親子会社間の取引に独立企業間価格を適用する必要があります。これを遵守しないと、課税所得の修正や二重課税のリスクがあります。

次に、アメリカと日本の租税条約により、配当や利子、ロイヤルティに対する源泉徴収税率が軽減され、二重課税の回避が図られています。一方、アメリカのCFCルールでは、日本子会社の所得が一定条件下で親会社の課税対象となる可能性があります。

また、OECDのBEPSプロジェクトやグローバル最低税率の導入は、国際課税環境にさらなる透明性と統一性を求めています。これにより、日本での税務処理が親会社の追加課税を招く場合があります。

これらの影響を最小化するためには、移転価格文書の整備や租税条約の適用手続きを適切に行うことが必要です。

国際税務の専門家と連携し、日米の税務ルールを踏まえた対応が不可欠です。

法人形態選択のための実務ポイント

法人形態を選択する際には、以下の実務的なポイントを検討することが重要です:

  • 運営コスト:株式会社の設立費用は高いが、信頼性が高い。
  • 柔軟性:合同会社は定款変更や運営方針の柔軟性が高い。
  • 税務メリット:パススルー課税、法人税率や控除制度を考慮。
  • 国際取引:移転価格税制や租税条約の影響を評価。

アメリカの親会社のCFOや経理部門は、新たに子会社を設立する場合、これらの要因を総合的に評価し、日本の法人形態を選択する必要があります。

まとめ

日本の株式会社(KK)と合同会社(GK)は、法的な違いはあるものの、税務処理においては共通点が多いです。

一方で、アメリカに本社を持つ企業が日本で法人設立を行う場合、税務上の影響が大きく、慎重な対応が求められます。

アメリカの本社のCFOや経理部門の方々が、子会社の設立を検討する際は、まずアメリカと日本の税制の違いを理解し、適切な法人形態を選択することが重要になるでしょう。

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