インボイス制度における経過措置や特例の適用方法について -税抜経理時の注意点や保存要件について仕訳例や具体的な取引例を用いてご紹介-
2025年2月10日
はじめに
令和5年10月よりインボイス制度がはじまり、多くの事業者が経過措置や特例を利用していることでしょう。その多くは適用可能期間が定められているもの、適用可能対象が決められているもの、記帳の条件が決められているものがあります。今回はその中でも最も影響額が大きい仕入税額控除の経過措置について確認していきます。
仕入税額控除の経過措置
仕入税額控除の経過措置では、適格請求書発行事業者以外の事業者からの仕入を行った場合、本来はその仕入にかかる消費税は全額仕入税額控除が認められませんが、救済措置として以下のように暫定的に控除されます。
適用期間 | 仕入税額控除適用割合 |
---|---|
令和5年10月1日~令和8年9月30日 | 仕入税額控除相当額×80% |
令和8年10月1日~令和11年9月30日 | 仕入税額控除相当額×50% |
経過措置を適用するためには、以下の①~⑦の記載事項に加え、個々の取引ごとに「80%控除対象」というように、この経過措置を受ける取引であることを記録する必要があります。
≪区分記載請求書等保存方式における記載事項≫
- 発行者の氏名または名称
- 取引年月日
- 取引内容
- 取引金額
- 交付を受ける者の氏名または名称
- 軽減税率の対象品目である旨
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込)
また、上記の経過措置に関して令和6年10月1日から見直しがされています。具体的には、適格請求書発行事業者以外の事業者からの税込課税仕入額の合計がその事業年度で10億円を超える場合、その超過分についてはこの経過措置が認められません。
税抜経理時の注意点
税抜経理で仕入税額控除を適用するとき、同じ1,100,000円の資産として購入した場合でも、適用期間に応じて以下のような違いが生まれます。
ケースA【適格請求書発行事業者からの仕入】
→全額控除
貸方 | 借方 |
---|---|
(資産)1,000,000円 | (現金)1,100,000円 |
(仮払消費税)100,000円 |
ケースB【非適格請求書発行事業者からの仕入 令和5年10月1日~令和8年9月30日】
→80%控除
貸方 | 借方 |
---|---|
(資産)1,020,000円 | (現金)1,100,000円 |
(仮払消費税)80,000円 |
ケースC【非適格請求書発行事業者からの仕入 令和8年10月1日~令和11年9月30日】
→50%控除
貸方 | 借方 |
---|---|
(資産)1,050,000円 | (現金)1,100,000円 |
(仮払消費税)50,000円 |
ケースD【非適格請求書発行事業者からの仕入 令和11年10月1日以降】
→全額控除不可
貸方 | 借方 |
---|---|
(資産)1,100,000円 | (現金)1,100,000円 |
このように、仕入先のインボイス登録状況、仕入れ時期によって資産計上額が変わります。このときの処理として雑損失を使う方法があり、例えば仕入税額控除80%のときは以下のようになります。
(資産取得時)
貸方 | 借方 |
---|---|
(資産)1,000,000円 | (現金)1,100,000円 |
(仮払消費税)100,000円 |
(決算時)
貸方 | 借方 |
---|---|
(雑損失)20,000円 | (仮払消費税)20,000円 |
(減価償却費)200,000円 | (減価償却累計額)200,000円 |
※5年定額法であると仮定して減価償却計算
この場合の減価償却費ですが、法人税法上の資産取得価額はあくまで1,020,000円となります。そのため、減価償却限度額が204,000円(1,020,000÷5年)であるのに対して、損金計上している金額が20,000+200,000=220,000円なので、この差額16,000円(220,000-204,000=16,000)は減価償却超過額として加算調整が必要です。このように、企業会計と税務会計の数値が異なると管理の負担が増えることにもなりますので、その兼ね合いを考えて処理方法を決定するとよいでしょう。
帳簿のみの保存で保存要件を満たす取引
インボイス制度の下では、原則適格請求書の保存が必要になりますが、以下に挙げる取引については、書類の交付が困難であるため帳簿への保存のみで適用が認められます。
- 税込価額3万円未満の公共交通機関(船舶、バス、鉄道)による旅客の運送
- 税込価額3万円未満の自動販売機又は自動サービス機による商品の購入等
- 郵便切手を対価とする郵便サービス(ポストに投函されたものに限ります。)
- 簡易インボイスの必要事項が記載された入場券等が、その使用の際に回収されてしまう取引
- 古物営業、質屋又は宅地建物取引業を営む事業者が、適格請求書発行事業者でない者から、古物、質物又は建物を棚卸資産として取得する取引
- 事業者が、適格請求書発行事業者でない者から、再生資源又は再生部品を棚卸資産として購入する取引
- 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費、宿泊費、日当等及び通勤手当ただし下記については適格請求書を保存しない場合、帳簿に記載すべき追記事項があります。
■上記の①~⑦の取引の内、どれに該当するかを記載する(「○○への入場券」)
■次の取引にかかる相手方の住所又は所在地
- 上記⑤の取引のうち、古物台帳など、その業務に関する帳簿等へ「相手方の氏名及び住所」を記載する必要があるもの(税込 1 万円以上の買取等)
- 上記⑥の取引のうち、事業者から購入するもの
おわりに
今回は、令和5年10月から適用開始となったインボイス制度について、間違えやすい点、令和6年度より変更になった点を中心にご紹介しました。
消費税はインボイス制度の下でさらに複雑化していますので、特例を適用するときには要件の確認を慎重に行い、処理するよう注意しましょう。