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前川 研吾 Kengo Maekawa

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前川 研吾 Kengo Maekawa

ファウンダー&CEO  / 公認会計士(日本・米国) , 税理士 , 行政書士 , 経営学修士(EMBA)

日本初のサステナビリティ開示(SSBJ)基準を紐解く・その2:柱1「適用基準」

2025年4月2日

ポイント

前回のコラム「日本初のサステナビリティ開示(SSBJ)基準を紐解く・その1:枠組みと位置づけ」に続いて、本コラムはその2として、SSBJを構成する3本柱の1つ、サステナビリティ開示ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」(「適用基準」)を紐解いていきます。

「適用基準」は、基本的な事項によって構成されている一方、「質的特性」「つながりのある情報」「測定の不確実性」など、即座には捉え難い用語も使われていますが、そうした用語は本基準のキーワードとも捉えることができます。なぜその用語が使われているのか、その本質を見極めると、決して特異な用語ではなく、逆にSSBJの意義とも密接に結びついた、合理的で本質を突いた用語であるとも捉えることができるでしょう。

全体を通して、自動的に聞かれたことだけ数字を入手して情報を提供すればよいということではなく、企業の全体(ガバナンス)と部分(戦略、リスク管理並びに指標及び目標など)の両方を見渡し、そのつながりを精査した上で抽出されるエッセンスを記述するような基準となっている、ということに留意が必要かと思われます。

目的・範囲

まず「適用基準」の目的は、「サステナビリティ関連財務開示を作成し、報告する場合において、基本となる事項を示すこと」(適用基準1項)にあり、その範囲として、SSBJ基準に従って「サステナビリティ関連財務開示を作成し、報告するにあたり、適用しなければならない」(適用基準2項)として、サステナビリティ関連財務開示全般に関わる、基本的でありながら必須事項として位置付けられています。

概念的基礎:「有用なサステナビリティ関連財務情報の質的特性」

「適用基準」の中の主なる構成の1つに、「有用なサステナビリティ関連財務情報の質的特性」があります。この中に含まれる幾つかの鍵となる用語に着目しながら、その概念的基礎をここで示したいと思います。

その「質的特性」の基本的な説明として、サステナビリティ関連財務情報は「関連性があり、表現しようとしている対象を忠実に表現するものでなければならない」(適用基準17項)とし、また「比較可能で、検証可能で、適時で、理解可能であれば、その有用性が補強される」(適用基準18項)と言及されています。

つまり「関連性及び忠実な表現」を重視することによって、有用なサステナビリティ関連財務情報の基本的な質的特性を担保することができ、さらに「比較可能性、検証可能性、適時性及び理解可能性」を重視することによって、質的特性をさらに補強することができることを示しています。

「関連性」

では、上記でいう「関連性」とは何でしょうか?それに関して「重要性は、関連性の企業固有の一側面であり、当該企業のサステナビリティ関連財務開示の文脈において、その情報が関連する項目の性質若しくは規模(又はその両方)に基づくものである。」と規定されています(適用基準25項)。

「重要性」

上記にある「重要性」について、「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)」基準を参照して確認してみると、英語でいうMateriality(マテリアリティ)に相当します。尚、その「マテリアリティ」について、国際会計基準IFRSを参照すると、ある「情報が意思決定に影響を与えること」を指して、「Materialityマテリアリティ」を用いており、日本語ではそれが「重要性」と訳されています。

その上で、適用基準28項では、「重要性がある情報を重要性がない情報で不明瞭にしたり、類似していない重要性がある項目を集約したりすることによって、サステナビリティ関連財務開示の理解可能性を低下させてはならない」ことが述べられています。

「予測価値」/「確認価値」

さらに、上述の「関連性」について、「サステナビリティ関連財務情報は、予測価値、確認価値又はこれら両方を有する場合に、利用者の意思決定に相違を生じさせることができる」(「適用基準」別紙A6**この別紙も、上記「適用基準」17項及び18項の詳細を説明するもので、「適用基準」を構成**)とし、「予測価値」、「確認価値」が投資家などの意思決定に影響を及ぼすことになり得ることを示唆しています。

その「予測価値」「確認価値」の詳細について、下記のように説明されています。

  • 「予測価値」:「主要な利用者が将来の結果を予測するために用いるプロセスへのインプットとして使用できる場合に、予測価値を有する」(A7)
  • 「確認価値」:「過去の評価に関するフィードバックを提供する(確認する又は変更する)場合には、確認価値を有する」(A8)

なお留意したいのは、サステナビリティ関連財務情報が予測価値を有するためには、予測又は予想される必要はないという点です。つまり、「予測価値のあるサステナビリティ関連財務情報は、主要な利用者が自らの予測を行うにあたり」(A7)その予測過程のインプットとして使用されることが想定されている点にあります。

また、予測価値と確認価値の相互関連性についても触れられています。「予測価値を有する情報は、確認価値も有することが多い」(A9)とし、意思決定者(利用者)が予測するための基礎となる情報は、過去の予測と比較することもでき、そうした現在と過去の比較の結果は、過去の予測に使用されたプロセスを利用者が修正し改善することにも役立つことが、示唆されています。

つながりのある情報

さらに「適用基準」の主なる構成の一つであり、キーワードとしても捉えられる「つながりのある情報」について見ていきます。まず、その「つながり」の意味合いについて、「次の種類のつながりを理解できるように情報を開示しなければならない」として、適用基準29項で以下のように示されています。

「つながりのある情報」とは

  1. その情報が関連する項目の間のつながり(企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得る、さまざまなサステナビリティ関連のリスク及び機会の間のつながりなど)
  2. サステナビリティ関連財務開示内の開示の間のつながり(ガバナンス、戦略、リスク管理並びに指標及び目標に関する開示の間のつながりなど)
  3. サステナビリティ関連財務開示と、その他の財務報告書(関連する財務諸表など)の情報との間のつながり

さらに別紙BC53および56をみると、次のような詳細がうかがえます。

  • 記述的な情報と定量的な情報との間のつながり(関連する指標及び目標並びに関連する財務諸表に含まれる情報などを想定)も含む。
  • 上記(1)のさまざまなサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する開示の間のつながりについて、例えば、サステナビリティ関連のリスク及び機会のそれぞれについての個別の開示ではなく、統合されたガバナンスの開示を提供することが考えられる。
  • 企業のサステナビリティ関連のリスク及び機会並びに企業の戦略が、短期、中期及び長期にわたり企業の財政状態、財務業績及びキャッシュ・フローに与える複合的な影響についての説明も含まれる。
  • サステナビリティ関連のリスク及び機会に対応する戦略を策定するにあたり、企業が評価した代替案の記述も含まれる。

このように、一言で「つながり」といっても、項目間のつながりから時間的つながりに至るまで、様々なレベルにおける縦横のつながりに関する情報開示が求められることになります。また多様なつながりを単に示すだけでなく、そのつながり同士が、どのようにガバナンスにつながっているかを必要があります。つまり「木を見て森も見る」のイメージです。

また上記(3)については、あらためて適用基準30項で「サステナビリティ関連財務開示の作成に用いるデータ及び仮定は、関連する財務諸表の作成にあたり準拠した会計基準を考慮したうえで、可能な限り、関連する財務諸表の作成に用いるデータ及び仮定と整合させなければならない」と強調しています。

「つながりのある情報」の提供方法

さらに、そうした整合をとる方法も含めて、「つながりのある情報を提供するにあたり、次のことを行わなければならない」として、具体的な方法について述べています(適用基準31項)。

  1. 開示の間のつながりを明瞭かつ簡潔に説明する。
  2. サステナビリティ開示基準が共通の情報項目の開示を要求する場合、不必要な繰り返しを避ける。
  3. サステナビリティ関連財務開示を作成するにあたり用いたデータ及び仮定と、関連する財務諸表を作成するにあたり用いたデータ及び仮定との間の重大な差異に関する情報を開示する。

「つながりのある情報」を重視する理由

なぜ「つながりのある情報」を重視するのでしょうか?別紙BC54~55にその理由が示されています。

  1. 企業が特定のサステナビリティ関連の機会を追求し、その結果、企業の売上高が増加した場合、つながりのある情報は、企業の戦略と財務業績との間の関係を描写する。
  2. 企業が、自身がさらされている2つのサステナビリティ関連のリスクの間にトレードオフを識別し、当該トレードオフの評価を基礎として行動した場合、つながりのある情報は、それらのリスクと企業の戦略との間の関係を描写する。
  3. 企業が特定のサステナビリティ関連の目標の達成を約束しているが、財務諸表の作成にあたり準拠した会計基準における認識規準を満たしていないため、当該約束がまだ企業の財政状態又は財務業績に影響を与えていない場合、つながりのある情報は、その関係を描写する。

サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報の開示

既に、「つながりのある情報」の中に何度も出てきている「リスクおよび機会に関する情報」について、適用基準のもう一つの主なる構成になっていることから、ここで詳細のポイントを見ていきたいと思います。

まず、適用基準34項で「サステナビリティ関連財務開示は、企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得るサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報を開示しなければならない」と示されています。

次に、適用基準35項で、「企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得るサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報を開示するにあたり、次のことを行わなければならない」としています。

  1. 企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得るサステナビリティ関連のリスク及び機会の識別
  2. バリュー・チェーンの範囲の決定
  3. 識別したリスク及び機会に関する重要性がある情報の識別

さらに、上記の「識別」と「バリュー・チェーン」の意味合いは、次のように示されています。

識別

  • 「企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得るサステナビリティ関連のリスク及び機会を識別しなければならない」(適用基準36項)

    ※上記「企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得るサステナビリティ関連のリスク及び機会を識別する」にあたり、「合理的で裏付け可能な情報を用いなければならない」(適用基準38項)。

    ※その「合理的で裏付け可能な情報」について、「外部環境の一般的な状況のみならず、企業に固有の要因も対象としなければならず、これには、過去の事象、現在の状況及び将来の状況の予想に関する情報が含まれる。サステナビリティ開示基準において、何が合理的で裏付け可能な情報であるかを具体的に定めている場合、当該定めに従わなければならない」(適用基準33項)。

    ※なお「第36項に従い企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得るサステナビリティ関連のリスク及び機会を識別するにあたり、情報の網羅的な探索を行う必要はない。」(適用基準39項)

バリュー・チェーン(適用基準46~47項)

  • 「識別したサステナビリティ関連のリスク及び機会のそれぞれに関連して、バリュー・チェーンの範囲(その幅広さ及び構成を含む)を決定しなければならない。」
  • そのバリュー・チェーンの範囲を決定するにあたり、「合理的で裏付け可能な情報」(上記参照)を用いなければならない。

測定の不確実性

最後に、適用基準の主なる構成要素のもう一つ、適用基準83項「サステナビリティ関連財務開示で報告される数値に影響を与える最も重大な不確実性に関する情報を開示しなければならない」について、見ていきたいと思います。

不確実性情報の開示とは、どのようなことを指すのでしょうか。次のことが適用基準84項に、不確実性情報開示にあたり「しなければならないこと」として、リストアップされています。

  1. 開示された数値のうち、測定の不確実性の程度が高いものを識別する。
  2. (1)のそれぞれの数値に関連して、次の事項を開示する。
    1. 測定の不確実性の源泉。例えば、将来の事象の結果、測定技法又は企業のバリュー・チェーンからのデータの利用可能性及び品質に数値が依存していること
    2. 数値を測定するにあたり行った仮定、概算及び判断

上記に関連して、別紙BC161に、「変数及び仮定の数が多くなれば、それらの判断はより主観的で複雑となり、それに応じてサステナビリティ関連財務開示で報告される数値に影響を与える不確実性も増大すると考えられる」として、様々な変数や仮定の数が多くなればなるほど、複雑性と不確実性は、連動して増大することを、説いています。

さらに、BC162に、「開示しなければならない可能性がある情報の種類及び範囲は、サステナビリティ関連財務開示で報告される数値の性質に応じて異なることが考えられる」として、次のような開示を行う必要がある場合があるとして、例が示されています。

  1. 仮定又はその他の測定の不確実性の源泉の性質
  2. 開示された数値の、その計算の基礎となる手法、仮定及び見積りに対する感応度(その感応度の理由を含む。)
  3. 不確実性について見込まれる解消方法及び開示された数値に対して合理的に考えられる結果の範囲
  4. 開示された数値に関する過去の仮定について行った変更の説明(その不確実性が未解消のままである場合)

まとめ

総じて、SSBJ「適用基準」は基本といえども、かなり「つながり」に着目しており、不確実性の詳細も含めて、忠実かつ合理的なサステナビリティ情報開示が求められる、大体的且つ包括的なものとなっています。一方そうした情報については網羅性よりむしろ、重要なものに絞って投資家がその情報開示を基に判断できるように、という趣旨も忘れてはならないように思われます。

こうした基準を経営全体の中でハンドリングしていくには、適用基準の核ともいえる「つながり」要件に向き合い、企業全体を通して、つながり思考、別の言葉でいえばシステム思考が重視される必要がある、といっても過言ではないのではないでしょうか。

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