日本独自の法人形態「合同会社」とは?外資系企業の事例も紹介
2025年8月5日
日本における合同会社の基本概要
合同会社は、2006年の会社法改正によって導入された法人形態となります。この合同会社は株式会社と同様に法人格を持ち、出資者全員が有限責任社員(出資額を限度に責任を負う)となる点が特徴です。株式会社と異なる点としては、会社に出資をする人と会社を経営する人が一致している、いわゆる「所有と経営の一致」が挙げられます。
また、合同会社の設立にあたっては定款を作成し、所轄の法務局に登記申請することで設立できます。設立する際は、株式会社のように公証人による定款認証が不要であり、最低資本金の制限もないため1円から設立可能です。また出資者が1名でも会社を設立でき、スモールスタートに適した柔軟な制度となっています。
法的な位置づけとしては株式会社と同じ「会社」であり、税務上も原則として株式会社と同様に扱われます。ただし、組織構造や運営ルールに関して株式会社とは異なるシンプルな特徴を有しています。次に、その日本独自の制度的特徴と背景について見ていきます。
日本独自の会社形態とは
日本の合同会社は、米国で一般的なLLC(Limited Liability Company)をモデルに導入されました。しかし、日本独自の制度であり、米国のLLCと完全に同一ではありません。
まず税制面では、米国のLLCが採用しているようなパススルー課税(事業体では課税せず構成員に課税する仕組み)は日本の法人税法上は適用されません。合同会社も株式会社と同様に法人として課税対象となり、日本での納税義務が発生します。
また組織運営という観点で見ると、日本の合同会社は会社法の定める範囲内で定款自治が認められている会社形態です。日本の法制度下では合同会社も法人格を持つ会社でありながら、株式会社よりは柔軟な運営が許容されています。
このように、合同会社は日本版のLLCといえますが、法的には日本固有の会社形態です。米国のLLCと名称が似ているため混同されがちですが、日本で合同会社を設立する際は国内法に基づく手続き・ルールに従う必要があります。外資系企業のCFOや経理責任者にとっては、日本の合同会社制度を正しく理解し、自社のニーズに適合するかを見極めることが重要です。
合同会社の主なメリット
合同会社には、日本で子会社を設立・運営するうえで多くのメリットがあります。その代表的な点は次のとおりです。
設立・運営コストの低さ
株式会社に比べ合同会社は初期費用を大幅に抑えられます。さらに役員任期や決算公告の義務も無いため、設立後の維持コストや事務負担も軽減されます。
ガバナンスの簡素化と迅速な意思決定
出資者(社員)が直接経営に当たるため、株主総会や取締役会を経ずに重要事項を決定できます。親会社が100%出資する場合、親会社の意向をダイレクトに反映でき、グローバルな方針を迅速に実行可能な会社形態となります。
親会社側での税務メリット
日本国内の法人税は株式会社と同じですが、例えば米国企業が親会社の場合、日本子会社を合同会社にすることで親会社においてパススルー課税を適用できるケースがあります。これにより、日本で発生した損益に対する課税を親会社側に一本化し、グループ全体で税負担の最適化が期待できます。
合同会社のデメリットと注意点
一方で、合同会社には留意すべきデメリットも存在します。具体的には以下の点が挙げられます。
知名度と信用力
合同会社は増加傾向にありますが、株式会社ほどは浸透していません。日本では株式会社の知名度が圧倒的に高い傾向にあります。法律上は株式会社と同じ法人格も持ちながらも、社名が「○○合同会社」であることで小規模企業のイメージを持たれ、取引先や金融機関から信用面で不利に見られる可能性もあります。
株式会社と合同会社に違いについては、以下の記事にて詳しく説明しておりますので、参考にしてください。
株式会社と合同会社の違い | RSM汐留パートナーズ司法書士法人
株式公開が不可
合同会社は株式を発行しないため、株式上場による資金調達ができません。将来的にIPOを計画する場合は、最初から株式会社を選択する必要があります。会社設立後に合同会社から株式会社への組織変更も可能ではあるものの、その際には追加の手続きやコストが発生します。
外部からの資金調達にかかる制約
株式発行による増資ができないため、大規模な第三者からの出資受入には不向きです。新規出資者を迎える場合も全社員の同意や持分譲渡の手続きが必要となり煩雑となります。また優先株式など多様なスキームが使えないため、ベンチャー投資家から敬遠されることもあります。
出資者が経営者ゆえのリスク
出資者全員が経営に携わるため、共同出資者間の対立が発生した場合にそのまま経営の停滞につながる恐れがあります。少数株主としての受け入れ形態がないに等しく、メンバー間の信頼関係が株式会社に比べて重要となるでしょう。
有名企業が合同会社を選んだ事例
事例1.
アマゾンの日本法人であるアマゾンジャパン株式会社は、2016年にアマゾンジャパン・ロジスティクス株式会社との吸収合併で合同会社に組織変更し、アマゾンジャパン合同会社になりました。
事例2.
日本の小売大手・西友は、米ウォルマート傘下で経営改革を進める中で2009年に株式会社から合同会社へ組織変更しました(※2022年に再度、株式会社へ組織変更を行った)。
外資企業が合同会社を選ぶ理由とは?
企業が合同会社を選ぶ理由として、迅速な意思決定や親会社主導の運営実現・ガバナンスの簡素化・税負担の最適化などが挙げられます。
例えば米国からの参入の場合、株主総会や取締役会を持たない合同会社を日本に設立することで、米国本社の意思決定を迅速に日本事業へ反映でき、本社主導で機動的な経営が可能です。また税務面では、米国本社とのパススルー課税の適用によりグループ全体の課税効率を最適化できます。
さらに、本部と店舗の組織を簡素化することで、業務プロセスの効率化や毎日低価格(EDLP)戦略の徹底など、親会社の方針を迅速に現場へ浸透させる体制を整えることができます。完全子会社となることで上場企業としての複雑な機関設計や開示義務が不要になり、合同会社化によってガバナンスを本社に集中できることも魅力の1つです。
外資系企業への適用性
以上の特徴を踏まえ、外資系企業が日本で子会社形態として合同会社を選ぶべきかどうかは、会社の目的や状況によります。一般的に、親会社の完全子会社として機動的に運営したい場合や将来上場を必要としない場合には、合同会社のメリット(コスト低減・ガバナンスの自由度)が有効に活かせます。一方、現地での信用力が重要な業種や第三者からの資金調達・上場を視野に入れる場合には、株式会社の方が適しているでしょう。
税務面では、日本国内では両形態で差はありませんが、米国企業などでは合同会社とすることによって親会社側でパススルー課税を利用できるといった利点があります。外資系企業のCFOが日本に子会社を設立する際は、このような点を比較しながら慎重に会社形態を選択することが求められるでしょう。
まとめ
日本における合同会社は、外資系企業の子会社形態としてコスト面・運営面で多くのメリットを提供します。特に、設立のしやすさ・経営の自由度・親会社との一体運営といった点で優れ、Amazonや西友などの事例が示すように、戦略次第では日本市場での成功を強力にサポートしてくれる器となりえます。一方で、将来の資金調達や上場の可能性といった観点では注意も必要で、すべての企業に万能とは言えません。
本記事で挙げたメリット・デメリットや事例を参考に、自社の日本戦略に照らして最適な法人形態を判断する材料としていただければ幸いです。適切な会社形態を選ぶことで、外資企業の日本展開はよりスムーズかつ強固なものとなるでしょう。