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関口 智史 Satoshi Sekiguchi

この記事の著者

関口 智史 Satoshi Sekiguchi

パートナー  / 社会保険労務士

日本の年金制度の仕組みとその一部を構成する現在の企業年金制度の種類、概要、メリット・デメリット

2023年10月2日

本記事では、企業年金を始めとした年金制度について詳しく紹介します。年金の仕組みについて知りたい方、企業で年金を取り扱う部署の方はぜひ参考にしてください。

日本における年金制度の仕組み(階層)

日本では現在、年金制度は一般的に「3階建て」と表現されます。1階層が「国民年金」、2階層が「厚生年金」、3階層が「企業年金」や「年金払い退職給付」です。各年金の詳細を以下に示します。

3階部分年払い退職給付企業年金
公務員が加入する年金。公務員であれば例外なく加入される。一部の企業に属する会社員が加入する年金。会社が何らかの企業年金制度を導入しているときに例外なく加入する。
2階部分厚生年金
会社員や公務員が加入する年金。加入期間の所得に応じて受取額が変わる。
1階部分国民年金
日本に住む20歳以上であれば原則として加入する年金。受給額はある程度固定されている。

1階層目は日本に住む国民すべてが加入する国民年金です。日本に居住する20歳以上であれば加入が原則義務付けられます。続いて、会社員や公務員が加入するのが2階部分の厚生年金です。厚生年金は所得金額に応じて支払金額が変わる一方で、年金受取額もそれに応じて増加します。そして最後の3階部分が企業年金や都市払い退職給付です。一部の会社員や公務員が加入します。

上の階層に行くほど、年金受給額は増加します。しかし、企業年金は企業にとっても負担が大きいことから、導入している企業は一部に限定されます。国は企業年金制度が多くの企業に導入しやすいものになるよう、時代の変化に合わせて随時変更を行っています。

年金の受取金額のしくみ

受給対象者となった場合には、加入していた部分からの給付のみを受け取ります。階層構造となっていることからもわかるように、2階層に加入している人は「1階層+2階層」、3階層に加入している人は「1階層+2階層+3階層」から年金を受け取ります。つまり、上に行けばいくほど、将来受け取れる額は増える仕組みです。そのため、勤務予定の企業が企業年金を取り扱っているかどうかは求職者の大きな関心となります。

また、これまでの年金制度は受給権の保護が十分にされなかったり、原資を拠出する企業の負担が大きくなったりといった問題がありました。これらを変えるべく、新たな企業年金の仕組みが定められました。平成13年には、掛け金を拠出した段階で企業の責任が完結する「 確定拠出年金 」が、平成14年には受給権の保護が厳しく規定された「 確定給付企業年金 」が創設されるなど、年金に関する制度に様々な変化が加えられています。

現在の企業年金制度

現在の企業年金には、従来からあった「厚生年金基金」に、上記で紹介した「確定拠出年金」と「確定給付企業年金」が加わりました。それぞれについて詳しく紹介します。

厚生年金基金

厚生年金基金は、企業が厚生労働大臣からの認可を受けて法人を設立し、年金の運用を行っていく制度です。2階層目の厚生年金において支給される報酬比例部分(在職中の報酬に比例して支給額が決定する部分)をこの厚生年金基金において代行し、それに加えて企業独自の年金を上乗せ支給します。本来であれば報酬比例部分を国に納付する必要が生じますが、厚生年金基金を実施することによりその義務が免除されます。

昭和41年に始まった古い制度ですが、運用環境の悪化によりその継続が難しくなり、代行している報酬比例部分を国に返納する「代行返上」をしたうえで確定拠出年金、確定給付企業年金への移行をする企業が増えてきています。さらに、2014年4月以降からの新規設立が認められなくなったため、いずれは廃止となることが想定されます。

確定拠出年金

確定拠出年金はその名の通り、 拠出額があらかじめ確定している年金制度です。企業が拠出を行う「企業型」と、個人事業者などが利用する「個人型」に分かれますが、企業としてこの制度を導入する際は「企業型」に該当していくこととなります。企業の定める規定によっては、従業員が独自に個人型を利用し、企業型と個人型を併用することもできます。制度の発足にあたっては厚生労働大臣の承認を受ける必要があります。

拠出額は確定していますが、 給付額については運用の成果により変動します。拠出をした時点で企業側の責任は果たされたこととなり、運用は加入者個人が指図をして行うため、加入者個人が金融商品や経済全般について学びを深める必要があります。企業の責任は拠出のみとなりますが、加入する従業員に対する投資教育は最低限果たすべき努力義務です。

加入者は企業から投資教育や制度に関する説明を十分に受けたうえで、投資信託や保険商品などの運用商品を選び、運用指図を行います。給付金は以下の4種類があり、それぞれの条件を満たした際に支給されます。

☆☆以下のサイトから表移行:https://www.uchida-it.co.jp/column/20180120/☆☆

(※1)個人型との併用が可能な場合は、35,000円
(※2)個人型との併用が可能な場合は、15,500円

確定拠出年金の主なメリットとデメリット

確定拠出年金の主なメリットとデメリットは以下の通りです。

(メリット)

  • 企業において、拠出額を全額損金に算入できる
  • 従業員において、拠出額が所得税における所得控除の対象となる
  • 運用が好調であれば受給額の増額に繋がる
  • 各加入者が常に残高を確認できる
  • 拠出額が確定しているため、予測がつきやすく、計画が立てやすい

(デメリット)

  • 投資リスクを加入者個人が負う(運用が好調でなければ受給額が減る)
  • 給付額が事前に確定しない
  • 原則60歳まで受給ができない

確定給付企業年金

確定給付企業年金はその名の通り、従業員が受け取 給付額があらかじめ確定している企業年金制度です。給付額が確定しているという点において厚生年金基金と似ていますが、報酬比例部分の代行がありません。厚生年金基金の移行先として利用されることが多く、 現在もっとも普及している企業年金制度です。確定拠出年金とは異なり、その運用は企業側で行われ、運用状況を加入者に対して開示することが求められており、従来の制度に比べ受給者の権利が厳しく保護されています。

企業と契約を交わした受託金融機関等が運用・給付を行う「規約型」と、企業が設立した企業年金基金が運用・給付を行う「基金型」とに分かれており、それぞれ手続き等が異なります。なお、どちらの制度においても 企業の外部に年金用の資産を積み立てることにより、企業に万が一のことがあっても 受給者の資産が守られます。

受給金は以下の2種類があります。

☆☆以下のサイトから表移行:https://www.uchida-it.co.jp/column/20180120/☆☆

規約型

規約型の企業年金制度を創設する場合、企業は従業員と制度設立の労使合意を交わし、厚生労働大臣の承認を受け、 生命保険会社、信託銀行または投資顧問会社に年金用の資産の運用・給付を委託 します。受託した金融機関等は企業からの定期的な拠出を受け、それを管理・運用し、必要に応じて企業の従業員に対して支給します。

理事会や代議員会の設置が必要ではない分、企業と労働者との間で定期的に運用状況等を報告することなどを定め、必要に応じて労働者側からの意見を反映できるような体制作りが必要となります。

基金型

基金型の企業年金制度を創設する場合、企業は従業員と制度設立の労使合意を交わし、厚生労働大臣の承認を受け、企業年金基金として特別法人を設立します。設立した企業年金基金は企業からの定期的な拠出を受け、それを管理・運用し、必要に応じて企業の従業員に対して支給します。現在運用されているのはほとんどが厚生年金基金からの移行であり、ゼロから基金型の確定給付企業年金を創設するケースはほとんどありません。

基金の運営には 理事会・代議員会の設置が必要 であり、その構成員については企業側および労働者側からそれぞれ同数を選出し、労働者側からも意見を述べる機会が増えるよう配慮されています。

確定給付企業年金の主なメリットとデメリット

確定給付企業年金の主なメリットとデメリットは以下の通りです。

(メリット)

  • 企業において、拠出額を全額損金に算入できる
  • 従業員において、拠出額が所得税における所得控除の対象となる
  • 受給権が厳重に保護される
  • 約束された金額の給付を受けることができる
  • 確定拠出年金とは異なり、60歳に満たない場合でも受け取りやすい

(デメリット)

  • 企業側で債務認識をする必要があり、貸借対照表に負債として計上される
  • 各加入者が年金資産の残高を確認できない
  • 積み立て不足が発生した場合は、 掛金の追加拠出がある

おわりに

今回は企業年金について詳しく説明しました。企業年金の仕組みや制度は今後も変化していくと予想されます。もし企業年金を効果的に活用したいとお考えでしたら、弊社までお気軽にお問い合わせください。

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