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長谷川 祐哉 Yuya Hasegawa

この記事の著者

長谷川 祐哉 Yuya Hasegawa

パートナー  / 税理士

国際税務とは?国際税務の重要な概念・規定・制度について

2022年10月5日

国際税務とは、国境を越えて取引を行うなどの国際間の税務全般をいいます。企業が国境を越えて取引を行う場合には、その取引は「国際取引」となります。国際取引から生じた利益に対してどちらの国で課税されるのか、あるいは両国で課税され二重に課税されることとなるのかなど、国際取引だから生じるさまざまな税制を管理し、正しく手続きするのが国際税務です。

昨今、グローバル化の波に乗り、多くの企業が海外進出を果たしています。ある統計によれば年間で1,000社が海外進出を行っているとのこと。そのような企業がつまづくのが国際税務への理解です。居住者・非居住者の区分、課税地の判定、二重課税の問題、租税条約など国際税務特有の知識が必要となります。しかしながらほとんどの企業が国際税務に関する知識を持ちません。

国際税務は国内の税務に比べても非常に煩雑で、海外子会社との取引によって予期せぬ多額の追徴課税をされてしまうケースもあります。さらには税金の滞納などにより、事業自体がストップしてしまうこともあります。海外展開を図るには国際税務に関する知識や制度を事前にしっかり把握することが必要です。

国際税務の分野は多岐にわたりますが、最低限このコラムにある概念、規定、制度については覚えてことをおすすめします。居住地国課税・源泉地国課税、租税条約・外国税額控除、外国子会社配当益金不算入制度、タックスヘイブン対策税制、移転価格税制、過少資本税制などについて一定の理解がある事により、自社が海外取引や海外進出を行う際に、リスクに感知することができたり、専門化との議論がより深く活発に行えます。

国際税務に関する重要な概念・規定・制度

国際税務の分野は多岐にわたりますが、以下の概念や規定、制度については最低限覚えておく必要があります。

(1)居住地国課税・源泉地国課税

国際取引から得られた所得に対して課税する際には「居住地国課税」と「源泉地国課税」という2つの課税方式があります。「居住地国課税」とは、国内だけでなく、海外で得た所得も課税の対象となることを指します。「源泉地国課税」とは、たとえ外国人であっても国内で得た所得に課税を行うことを指します。国際税務では、この2つの課税方式が関係してくるため、居住地国と源泉地国の2カ国で課税されるという「二重課税」が生じてしまうケースがあります。

(2)租税条約・外国税額控除

居住地国課税と源泉地国課税により発生する二重課税を排除することを目的として「租税条約」と「外国税額控除」という制度が存在します。

「租税条約」とは、2国間または多国間で締結する条約で、居住地国と源泉地国の二重課税を調整するために、所得に対する税率に上限を設けたり、一定の税金を免除する規定が設けられたりしています。なお、「租税条約」は締結している国の間で自動的に適用されるわけではなく、「租税条約に関する届出書」を提出する必要があります。日本は現在約70か国との間で租税条約を締結しています。

「外国税額控除」とは、2つの国で課税された場合に外国で納付した外国税額を一定の範囲で自国の税額から控除する制度です。国際取引を行う際には、外国税額控除の適用を受けつつ、二重課税を排除していく必要があります。

(3)外国子会社配当益金不算入制度

外国子会社配当益金不算入制度とは、内国法人が外国子会社から受ける配当のうち一定の要件を満たすものは、益金不算入にできる制度です。平成21年度税制改正により導入されました。

日本企業が海外子会社から配当を受ける場合には、その配当金額の95%が益金不算入となります。ただし、この制度の対象となる配当に係る源泉税については、外国税額控除の対象外となり損金の額にも算入されません。また、適用となる外国子会社とは、出資比率が25%以上でかつ、株式保有要件が6ヶ月以上であるという要件を満たす必要があります。

(4)タックスヘイブン対策税制

タックスヘイブン対策税制とは、日本では昭和53年度税制改正により導入された、タックスヘイブン(軽課税国)の利用により国際的な租税回避を図る行為を排除する制度となります。

タックスヘイブンに移転した所得は現地の低い税率により課税されるため、配当等を行わない限りは日本よりも多くの利益を留保することが可能です。そこで、ペーパーカンパニーの設立などにより日本の法人税負担に比べ税負担が著しく低い国の外国子会社等に利益を留保しようした場合に、一定の要件により日本の株主の所得に合算し日本で課税し、租税回避を防ぐ制度がタックスヘイブン対策税制です。タックスヘイブン対策税制の対象となる法人及び個人は、外国関係会社(外国法人で日本資本の割合が50%超であるもの)のうち、法人の所得に対する税負担が20%以下である法人(特定外国子会社等という)の株式を単独又は同族で10%以上保有している株主となります。

この制度はペーパーカンパニー等の利用による租税回避を防止するために設けられているため、特定外国子会社等が独立企業としての実体を備え、かつ、その国で事業を行うことにつき十分な経済合理性がある場合にはタックスヘイブン対策税制の適用除外となります。適用除外となる場合は、具体的には、①事業基準、②実体基準、③管理支配基準、④非関連者基準又は所在地国基準の要件をすべて満たす場合となります。ただし、上記の要件をすべて満たす場合であっても、資産性所得(特定の配当、利子、ロイヤルティなど)を有する場合には、その資産性所得については日本の株主の所得に合算して課税されるため注意が必要です。

また、タックスヘイブン対策税制に類似したコーポレート・インバージョン対策税制というものがあります。この制度は、三角合併が可能になったことによりタックスヘイブンに所在する外国法人を親会社とし、日本法人を子会社とすることによりタックスヘイブン対策税制の適用を逃れ、租税回避を行うことを防止するためのものです。一定の要件を満たす場合にはタックスヘイブン対策税制と同様に外国法人の所得を日本の所得に合算して課税されることとなります。なお、タックスヘイブン対策税制とコーポレート・インバージョン対策税制のどちらも適用となるケースでは、タックスヘイブン対策税制が優先して適用されることとなります。

(5)移転価格税制

移転価格税制とは、法人が国外取引により所得を他の国に移転させることを防止するために設けられた制度です。多国籍企業においては、親子会社間や兄弟会社間で取引を行うケースも多く、そのような取引では取引価格を自由に決めることも可能です。そのように第三者間で行われる取引価格とは異なる価格で取引を行うことにより、不当に所得を他の国に移転させることができてしまいます。

そこで、日本法人が国外関連者(親子関係や兄弟関係のある外国法人又は実質的な支配関係のある外国法人など)と取引を行った場合に、国外関連者から支払いを受ける対価の額が独立企業間価格に満たないとき、又は国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは、その取引は独立企業間価格で行われたものとみなすことにより、所得の移転を防止する制度となります。

なお、独立企業間価格とは、第三者間において通常取引されるであろう価格であり、独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法などにより算定することとなります。移転価格税制においては、この独立企業間価格の算定が難しく、十分に検討し取引価格を設定しなければなりません。

(6)過少資本税制

過少資本税制とは、内国法人が国外支配株主等(株式の50%以上を保有する外国法人など)から資金提供を受ける場合に、出資金に比較して多額の借入を行うことにより、租税回避を行うことを防止するために設けられた制度です。

出資により調達した場合には出資者に対し見返りとして配当金を支払うため配当金は内国法人の損金に算入されません。しかしながら借入により調達した場合にはその見返りとして利息を支払うため、利息は内国法人の損金に算入されます。

このように効果は同じでも調達方法の違いにより意図的に租税回避を行うことができてしまいます。そこで、①国外支配株主等に係る平均負債残高が、その国外支配株主等の資本持分の3倍を超える場合、②総負債に係る平均負債残高が自己資本の額の3倍を超える場合の2つの要件を満たすときは、国外支配株主等へ支払う利息のうち一定の金額を損金の額に算入しないことにより租税回避を防ぐことが可能です。

(7)日本の中堅・中小企業の国際税務への対応状況

近年、大企業のみならず中堅・中小企業の海外進出も増加傾向にあります。中堅・中小企業も、外資系企業との激しい価格競争の影響により、製造コスト削減や安価な人件費確保のため海外に拠点を求めるようになりました。また、国内市場の限界により新たな市場を開拓するために海外に進出するケースもあります。

海外進出には、様々なリスクがあり、また、国際税務に関する十分な知識が必要となります。国際税務に関する知識が不足したまま海外進出をしてしまうと、思わぬ問題に直面し海外進出自体が失敗に終わってしまうケースもあります。そのような事態を防ぐため、海外進出の際には、しっかりとした国際税務の知識を持ち事前準備をしっかりと行った上で事業戦略を立てる必要があります。

中小企業では税務担当を雇えないことが多いため、外部の会計事務所・税理士事務所などの専門家に依頼するケースが一般的です。ただし、海外進出が一般的になってきたとはいえ、通常会計事務所は国内の税務業務がメインであるため国際税務については対応していないことが多々あります。

おわりに

国際取引で必須となる国際税務について説明しました。海外進出を行う際には国際税務の知識が必要不可欠です。もし自社内だけでは対応できない場合は、外部に依頼することを考えるとよいでしょう。

弊社では、海外に複数の拠点を持ち、海外進出をお考えの企業のサポートを数多く実施してきました。予算面に関しても相談に応じられます。海外進出・国際税務について興味のある方は、お気軽にRSM汐留パートナーズまでご相談ください。

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