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前川 研吾 Kengo Maekawa

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前川 研吾 Kengo Maekawa

ファウンダー&CEO  / 公認会計士(日本・米国) , 税理士 , 行政書士 , 経営学修士(EMBA)

IPO準備会社の創業オーナーの株式を資産管理会社に移転させる際の税務上の留意点

2023年9月5日

IPO準備会社のオーナーが保有する株式は、自身が経営する会社が急成長するにつれ、その財産的価値は急激に上昇します。IPO後に至っては創業時の数百倍になる可能性も十分にあり得ます。このため、オーナーが保有する株式に関してその価値の高さから税務上の問題が発生します。

当該税務上の問題が厄介な点は、経営者の死後、相続時において発生する相続税の問題を含んでいる点です。相続税は、オーナー死後のことであり遠い将来の事になる可能性もありますが、対策のためには、なるべく早い段階から事前準備をしておく必要があります。具体例な対策としては、まず資産管理会社を設立し、当該会社にオーナーが保有する株式を移転させることから始まります。以下ではその具体的な解説を行っていきます。また、会社が配当を実施する場合、配当に関する税務上の問題も大きいことからこれについても解説します。

資産管理会社とは

資産管理会社とは、設立目的を不動産や株式等の所有及び管理として設立された法人を指します。IPO上場準備会社のオーナーの場合、その多くが資産管理会社を設立しています。その最たる理由が、オーナー創業家の相続税及び配当金の節税対策にあります。オーナーが亡くなった場合、資産管理会社を設立せずに、そのまま当該企業の株式を相続した場合、莫大な相続税がかかります。相続税は10か月以内に現金納付が要求されることから資金繰りに窮する可能性が高くなります。

こういった状況を避けるため、多くの創業者は資産管理会社を設立しています。また、配当についても資産管理会社に株式を移転せずに、個人のまま保有し配当を受け取った場合適用される税率が異なり税制上、有利になります。

資産管理会社を設立するメリット

(1)相続税の節税

企業オーナーが所有する株式については、その企業が所有する資産の価値に対して相続税が計算されます。企業オーナーの相続税の算出の流れは下記のとおりです。(純資産価額方式を仮定)

  1. 保有している株式を時価評価します(時価と帳簿価額との差額が含み益となります)。
  2. ①に法人税率を乗じて、仮にその株式を売却したとしたら課税される法人税(法人税等相当額)を算出します。
  3. ①から②を差し引いた金額に、その他の財産を足した金額を評価額として、相続税を算出します。

なお①における時価評価については、下記「株価算定の必要性」にて詳細を解説します。

具体例

  1. 創業者であるA氏が資産管理会社B社を設立。B社の資本金は100万円。A氏は上場準備会社X社の創業者。
  2. A氏がB社にX社株式を売却。売却価額は株価算定を実施した結果3億円と算定され、当該金額で売却。
    結果、B社の貸借対照表は下記のとおりとなった。
    資産:X社株式3億円 負債:2.99億円(借入金) 資本金100万円(0.01億円)
    X社はIPOを達成。株価は順調に上昇。その後創業者が死去。相続発生。
  3. 相続発生時のX社株式時価100億円。含み益は100億円-3億円=97億円。当該金額に対する法人税37.0%相当額→97億円×37%=35.89億円。

含み益97億円から法人税等相当額35.89億円を差し引いた金額(37%控除。)61.11億円にX社株式購入額3億円を加算し、A氏が持つ本来の財産である約64億円を算出します。これが相続税を計算する上での評価額となります。もしもA氏が資産管理会社B社を持たずX社株式を持ち続けていた場合は、X社株式の含み益である約100億円がそのまま評価額となります。相続税はA氏の財産に対して最大55%の税金がかかります。

財産が100億円なら相続税は55億円、財産が64億円なら相続税約35億円ですので、資産管理会社を活用することで、この差額である約20億円を節税できることになります。上記の例では資産管理会社の株主は創業者であるA氏本人ですが、創業者に子供がいる場合には子供を資産管理会社の株主にすることも検討する必要があります。オーナー本人を株主とする場合に比べて、さらなる相続税の節税メリットが得られます。

ただし、子供を株主とする場合には、財産権と経営権を切り離して財産権のみ子供に渡し、経営権はオーナーが持ち続ける仕組みを採用するかどうか、子供が株主として会社を設立する手続きを具体的にどうするのか、など検討すべき項目が多岐にわたりますので慎重に検討する必要があります。

(2)配当金に関する税金の節税

まず、配当金に関する税金の取扱いについて、上場株式とIPO準備会社等の非上場会社では下記表のとおり、取扱いに差異があることに留意する必要があります。

配当所得は、配当等の支払の際に次に掲げる株式等の区分に応じて所得税等が源泉徴収されます。源泉徴収された所得税等は、原則として、その年分の納付すべき所得税額等を計算する際に差し引きます。

①上場株式等の配当等(大口株主等除く)15.315パーセント(他に地方税5パーセント)の税率により所得税および復興特別所得税が源泉徴収
②上場株式等の配当等(大口株主等)(発行済株式の総数等の3パーセント以上に相当する数または金額の株式等を有する個人)20.42パーセント(地方税なし)の税率により所得税および復興特別所得税が源泉徴収
③上場株式等以外の配当等の場合20.42パーセント(地方税なし)の税率により所得税および復興特別所得税が源泉徴収

(所法24、181、182、措法8の2、8の4、8の5、9の3、37の11の6、復興確法28)

次に税額の計算方法について見てみると下記のとおりとなります。

①上場株式等の配当等(大口株主等除く)申告分離課税を選択可能
②上場株式等の配当等(大口株主等)(発行済株式の総数等の3パーセント以上に相当する数または金額の株式等を有する個人)総合課税の対象。申告分離課税や確定申告不要制度選択は不可。
③上場株式等以外の配当等の場合総合課税の対象。申告分離課税や確定申告不要制度の選択不可※1

※1一回に支払を受けるべき配当等の金額が、次により計算した金額以下である場合(少額配当である場合)には、確定申告不要。10万円×配当計算期間の月数÷12(所法24、181、182、措法8の2、8の4、8の5、9の3、37の11の6、復興確法28)

上記よりIPO準備会社のオーナーが受け取る配当金は、総合課税対象の配当所得となり最大で55%程度の税金がかかることになります。資産管理会社に対しては法人税が課されることになりますが、株式保有割合に応じて全部又は一部が非課税となります。株式保有割合が5%超3分の1以下の場合は約50%が非課税となりますので、法人税の税率を約30%と仮定すると、受け取る配当金に課せられる税金は約15%となります。

具体例

1億円の配当金をオーナー個人で受ける場合を仮定する。
資産管理会社を設立しない場合の税金:1億円×55%=5,500万円。手元残高4,500万円。
資産管理会社設立した場合の税金:1億円×15%=1,500万円。手元残高8,500万円。
→資産管理会社設立による節税額:4,000万円。

スキームを実行する上での税務上の留意点

(1)株価算定の必要性

資産管理会社を利用して主に相続税及び配当金について節税メリットをオーナーが享受するには、まず自身の保有株式を資産管理会社に売却する必要があります。売却する場合、その時点の時価で売却する必要があります。ここで問題になるの売却対象である株式が非上場株式であるため、上場会社のように客観的に観察可能な時価が存在しないことです。

このため、当該時価についての算定プロセスを明確化し、税務調査が入った場合などでも理路整然と説明ができる必要があります。このため、当該時価としての株価をどのように算定する必要があるのかが問題となります。

(2)株価の算定方法

株価の算定方法については、確定的な方法はなく、現況の会社の財政状態、経営成績、成長性、株主構成、過去における売買事例など様々な事項を考慮のうえ総合的に判断し、主に下記の方法から最適なものを選択することになります。

  1. 類似業種比準方式
  2. 純資産価額方式
  3. 配当還元方式
  4. 収益(または利益)還元法
  5. DCF法

(3)税務上の留意点

株価次第では、当該株価が本来あるべき理論値より低額であるとして、「低額譲渡」に該当するとみなされるリスクに留意する必要があります。ここで「低額譲渡」とは、時価の2分の1未満の著しく低い価額で株式を譲渡した場合を指します。

仮に低額譲渡とみなされた場合、譲渡側であるオーナーは、時価により譲渡があったものとみなして所得税が課税されることになります(所法59条①二・所令169条)。一方で受領者側の法人は、時価と取得価額との差額が受贈益となり、法人税が課税されることなります(法法22条②)。

法人側の具体例

  1. 時価1000の株式を400で取得した場合
    有価証券 1000  /  現金預金  400
    受贈益   600→法人税課税対象
  2. 仮に無償で株式を譲り受けた(贈与を受けた)場合
    有価証券 1000  /  受贈益  1000→法人税課税対象

IPO準備会社のオーナーには、資産管理会社への株式売却時に発生する譲渡所得課税額を減額したい誘惑にかられ不当に算定株価を低くするリスクが存在します。資産管理会社への株式売却時期が遅れてしまい、IPO準備会社が成長した後では算定株価が相当高額になり多額の譲渡所得が発生する場合には、特にそのリスクが高くなります。仮に株価を意図的に低い水準で算定し、譲渡を実施した場合、税務調査で当該事項が判明した場合、重加算税の処分リスクも否定できません。

IPO準備会社は売上・利益ともに急拡大している傾向が多く、他の非上場会社と比べると税務調査が入る可能性は高い傾向になります。仮に重加算税の追徴課税処分を受けた場合、上場審査において大きな問題となることが多く、最悪上場延期又は中止という可能性も否定でないこととなります。IPO準備会社のオーナーはこのことを十分に留意しておく必要があります。

まとめ

IPO準備会社のオーナーは、上場後のことさらには、自身の死後のことまで見据えて事前準備を入念にしておくことが求められます。創業者オーナーが、構築した経営基盤を相続税など税務上の問題で揺るがすことがないように、なるべく早い段階から専門家に相談し万全の対策を講じておく必要があります。

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