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藤井 淳平 Jumpei Fujii

この記事の著者

藤井 淳平 Jumpei Fujii

ディレクター  / 税理士

【税務Q&A】税制適格ストックオプションに係る事例 ②

2024年9月17日

質問

A社は設立5年未満の非上場会社であり、B社の株式を100%保有しています(B社はA社の100%子会社 ) 。この度、A社がB社の取締役に対して税制適格ストックオプションを付与しました。これについて、以下の3つの個別論点について教えてください。

個別論点①

設立5年未満のストックオプションの税制適格要件

A社が設立5年未満であることを踏まえ、ストックオプションの権利行使期間を「付与決議日後2年~15年」とし、権利行使限度額を年間2,400万円を上限とした場合、税制適格要件を満たすことができるでしょうか。

個別論点②

吸収合併後の税制適格要件の適用

ストックオプション付与後、B社がA社を吸収合併する予定です。その場合、個別論点①で示した設立5年未満に関する税制適格要件は、引き続き適用されるでしょうか。

個別論点③

吸収合併後の権利行使価額の見直し

個別論点②にて、吸収合併が行われた場合、ストックオプションの権利行使価額の見直しが必要となるのでしょうか。

回答

個別論点①

A社が設立5年未満の非上場会社であることから、令和5年度税制改正による権利行使期間の延長及び令和6年度税制改正による権利行使限度額の上限引き上げにより、本条件にて税制適格要件を満たすものと判断できます。

個別論点②

ストックオプション付与決議日に契約を締結したのがA社である場合、A社が設立5年未満である限り、税制適格要件は継続して適用されるものと判断できます。

個別論点③

吸収合併が発生した場合でも、権利行使価額の見直しは必要ないものと判断されます。

ストックオプション税制に関する税制改正内容

税制適格ストックオプションとして認められるためには、租税特別措置法第29条の2の要件を満たす必要があります。当該税制適格要件の主なものについては、前回コラム「税制適格ストックオプションに係る事例①」で確認しました。

今回の個別論点①は、その要件のうち、令和5年度及び令和6年度の税制改正によって変更された部分に関係するため、当該税制改正について少し詳細を掘り下げていきます。これらの改正は、企業がストックオプションを付与する際の条件を緩和し、より多くの企業が制度を活用できるようにすることを目的としています。主な変更点は以下の通りです。

令和5年度税制改正の主な変更点

権利行使期間の延長

設立5年未満の非上場会社の場合、権利行使期間が「付与決議日後2年を経過した日から付与決議日後10年を経過する日まで」から、「付与決議日後2年を経過した日から付与決議日後15年を経過する日まで」に延長されました。これにより、従業員がより長期的な視点で企業に貢献でき環境が整い、人材の定着促進が期待されます。

令和6年度税制改正の主な変更点

権利行使限度額の引き上げ

権利行使限度額が、設立5年未満の会社は1,200万円から2,400万円に、設立後5年以上20年未満の非上場会社・上場後5年未満の会社は3,600万円に引き上げられました。これにより、特にスタートアップ企業における人材獲得力の向上が期待されます。

株式の保管・管理に関する要件の緩和

譲渡制限付株式について、発行会社と一定の要件を満たす株式管理契約を締結することで、証券会社等への保管委託が不要となり、非上場会社でも活用の幅が拡大します。

社外高度人材の付与要件の緩和・認定手続の軽減又は撤廃

社外高度人材に対する要件が緩和され、より幅広い人材にストックオプションを付与できるようになりました。

質問に関する判断

個別論点①

令和6年度改正後の租税特別措置法第29条の2に基づき、設立5年未満の非上場会社が新株予約権を発行する場合、以下の条件を満たす必要があります。

  • 権利行使期間が付与決議日後2年から15年の間であること
  • 権利行使限度額が年間2,400万円を超えないこと

従って、本件では、A社が上記の条件を満たした上でストックオプションを発行する場合、税制適格要件を満たすと考えられます。

個別論点②

税制適格ストックオプションを発行した会社が吸収合併により消滅した場合、国税庁の質疑応答事例(源泉所得税)「吸収合併により消滅会社のストックオプションに代えて存続会社から交付されるストックオプションについて権利行使価額等の調整が行われる場合」では、以下のように示されています。

「吸収合併が行われた場合、消滅会社のストックオプションは吸収合併の効力が生ずる日において消滅し、その消滅会社のストックオプションに代えて、存続会社のストックオプションが交付されたとしても、存続会社において新たに交付するストックオプションに係る株主総会の決議(会社法第238条第2項)が行われるものではなく、消滅会社における付与決議に基づくストックオプションの内容に従って交付されるものであることから、その新株予約権の行使は当初の付与契約の内容に従って行使するものと認められます。」

即ち、本件において付与決議日に契約を締結したのはA社であり、存続会社であるB社は合併に伴い、消滅会社であるA社のストックオプションに代えてB社のストックオプションを交付したに過ぎず、新たな付与決議が行われたわけではありません。よって、A社が付与決議時点で設立5年未満であった場合、存続会社であるB社のストックオプションも継続して税制適格要件を満たすと考えられます。

個別論点③

租税特別措置法第29条の2第3項において「新株予約権の行使に係る1株当たりの権利行使価額は、当該新株予約権に係る契約を締結した株式会社の株式の当該契約の締結の時における1株当たりの価額に相当する金額以上であること」と規定されています。

このため、吸収合併があった場合でも、権利行使価額の見直しは認められないものと考えられます。また、個別論点②で確認した国税庁の質疑応答事例(源泉所得税)においても、以下の記載がなされています。

「吸収合併に当たってストックオプションの付与株数及び権利行使価額を合併比率によって調整することは、ストックオプションの権利者に対してのみ有利になるような恣意的なものでなければ、株式分割等の場合の権利行使価額の調整と同様に、経済的価値を同額にするための付与株式数と権利行使価額の数字上の調整に過ぎませんので、引き続き税制適格要件を満たすものとして差し支えありません。」

つまり、吸収合併に伴い、合併比率に基づいてストックオプションの付与株数及び権利行使価額を調整することは、経済的価値を同額に保つための調整に過ぎないため、税制適格要件を引き続き満たすことを意味します。従って、吸収合併後にストックオプションの権利行使価額の見直しは不要と判断できます。

国内税務Q&A_税制適格ストックオプションに係る事例②

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