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松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

この記事の著者

松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

パートナー  / 税理士

【国際課税Q&A】自由職業者(弁護士)に対する報酬の源泉徴収の要否

2024年1月15日

質問

弁護士に対する報酬の支払いにあたっては、源泉徴収は必要でしょうか。弁護士が、①居住者である場合と、②非居住者である場合に分けて教えてください。

回答

①居住者である場合、所得税法第204条1項に挙げられる報酬に該当するため、源泉徴収が必要となります。
②非居住者である場合、所得税法第161条十二項イに該当し、源泉徴収の対象となりますが、租税条約の適用により免税となるケースが多いと言えます。

重要用語

居住者と非居住者

質問及び回答で登場している「居住者」及び「非居住者」について簡単に説明しますと、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人を「居住者」といい、居住者以外の個人を「非居住者」といいます(所得税法2条1項三、五)。これらの定義及び各々の課税所得の範囲については、以前のコラムにて説明していますので、【国際税務Q&A】非居住者に対する報酬の源泉徴収の要否|RSM汐留パートナーズをご参照ください。

根拠

1. 弁護士が居住者である場合

居住者に対しては、原則として全世界で生じた所得に対して日本で課税がなされていて(全世界所得課税)、源泉徴収が必要な報酬の種類については所得税法第204条1項にて列挙されています。

報酬の種類をまとめると次の通りで、居住者である弁護士に対して支払う報酬に対しては、10.21%の源泉徴収が必要となります(所得税法第204条1項2号、205条:100万円を超える部分の金額については、源泉徴収率は20.42%)。

源泉徴収が必要な報酬・料金等(所得税法204条)
1原稿料や講演料など
2弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
3社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
4プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
5映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
6ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
7プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
8広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金

2. 弁護士が非居住者である場合

  1. 国内法(所得税法)による判定非居住者に対しては、所得税法161条1項に規定される17種類の国内源泉所得だけに課税されます。本件については、弁護士に対する報酬ということで、所得税法161条1項十二イの「人的役務の提供」に該当するものと考えられます。

    人的役務の提供に関しては、国内において行われたもののみが国内源泉所得として認められるため、非居住者である弁護士による業務が国外にて行われた場合には、国内源泉所得には該当せず、日本での源泉徴収は不要となります。

    逆に、当該弁護士業務が国内にて行われた場合には、国内源泉所得として、日本で源泉徴収の対象となります。

    昨今は、国外から弁護士等の専門家を招き、講演等を依頼するケースも少なくないと思われます。このような場合には、非居住者である弁護士に対する支払報酬は、国内法上は源泉徴収の対象となることにご留意下さい。

  2. 租税条約による判定国内法上、国内源泉所得に該当し、非居住者に対する報酬が日本での課税対象となった場合にも、租税条約による軽減・免除がなされる場合が相当程度あります。よって、必ず個々の租税条約を確認する必要があります。

    一般的なOECDモデルの租税条約において、弁護士という職業は、「自由職業」に該当するものと判断できます。

    そして、多くの場合は租税条約上、自由職業者に対しては免税規定があり、「租税条約に関する届出書」をその報酬の支払者を経由して所轄税務署に提出している場合には、源泉徴収が不要となるケースがほとんどです。

    以下、例示として(1)韓国と(2)アメリカとの租税条約について見てみます。

    (1) 韓国

    日本と韓国との租税条約には、第14条(自由職業所得)が規定されており、第14条に【韓国】と【日本】という国を読み替えてわかりやすく示すと以下の通りです。

    第14条(自由職業所得)

    1. 【韓国】の居住者が自由職業その他の独立の性格を有する活動について取得する所得に対しては、次の⒜又は⒝に該当する場合を除くほか、【韓国】においてのみ租税を課することができる。

    (a) その者が自己の活動を行うため通常その用に供している固定的施設を【日本】に有する場合

    (b) その者が当該暦年を通じて合計183日以上の期間【日本】に滞在する場合以上より、韓国居住者の弁護士が日本国内で業務を行った場合の報酬に対しては、当該弁護士が日本国内にPEを有しておらず、且つ日本滞在日数が183日以内であれば、日本での課税が免除されるものと判断できます。

    (2) アメリカ

    韓国のケースとは異なり、日本とアメリカとの租税条約には、自由職業所得に係る条項は設けられていません。しかし、第3条(一般的定義)第1項(I)にて「『事業』には自由職業その他の独立の性格を有する活動を含む。」といった定義がなされており、自由職業所得については、第7条(事業利得)を参照できるものと解されます。

    よって、第7条の事業所得条項では、PEなれけば課税なしの規定となっているため、アメリカ居住者の弁護士が日本国内で業務を行った場合の報酬に対しても、最終的に日本では課税が免除されると解されます。

    以上より、非居住者である弁護士が日本国内で行った業務に対して報酬を支払う場合、国内法上は所得税法161条1項に規定される国内源泉所得に該当し、課税対象となりますが、租税条約により、免税扱いにすることができる場合が多いと解されます。

    参考:【自由職業所得に係るOECDモデル租税条約の変遷】

    従来、OECDモデル租税条約では、自由職業所得についての 規定が設けられていましたが、2000年のOECDモデル租税条約の改正で、当該規定は削除されました。そして、自由職業その他の独立の性格を有する活動は「企業」及び「事業」に含まれ、自由職業所得には事業所得条項が適用されることになりました。

    日本の租税条約では、2004年日米租税条約改正前の租税条約においては、原則として、自由職業所得条項を設けていますが、それ以後の租税条約はOECDモデル改正後の形式のものが多くなっています(相手国の要請により、本条項を規定するものもあり)。

国際税務Q&A_自由職業者(弁護士)に対する報酬の源泉徴収の要否_20240109 (PDF)

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