建設業における人手不足の現状並びに人手不足対応の為に活用すべきガイドライン、「ミラサポPlus」公表事例及び助成金
2023年11月8日
はじめに
建設業界は長い間人手不足であり、いまだ改善することができていません。日本の産業界全体で人手不足の傾向がありますが、中でも建設業では緊急性の高い課題です。すでに建設業ではコロナ前と同水準の人手不足に直面しています。
そこで、今回は人手不足の現状と、これに対する国の施策等をご紹介します。
人手不足の現状
2022年7月の帝国データバンクによる調査では、人手不足だとしている企業の割合は全業種で47.7%と半数近くにのぼります。この数値はコロナ前の2019年7月の48.5%と同水準であり、コロナ流行初期での数値である30.4%から大きく上昇しています。コロナによる消費活動の停滞から回復しつつあり、旅館・ホテル、飲食業等、緊急事態宣言で人手が過剰となっていた業界で再び人手が不足しているものとみられます。
このように、コロナは幅広い業種で人材市場に大きな影響をもたらしました。建設業界で人手不足と答えた企業の割合は、コロナ前の2019年7月の調査では67.5%、2020年7月は51.9%、2022年の調査で62.7%となっており、全業種での調査とは動向が異なることがわかります。有効求人倍率についても、建設業では平均で6倍近い値となっています。この値に示されている通り、コロナによる影響はありつつも、それ以前から長期にわたって全業種平均を大きく超える人材不足が生じている状況です。
社会全体としての人手不足に加え、大企業との賃金格差や、若者の根強い大企業志向などの背景から、特に中小企業が厳しい状況です。
ステップ1.経営課題を見つめ直す
ステップ2.経営課題を解決するための方策を検討する
ステップ3.求人像や人材の調達方法を明確化する
ステップ4.求人・採用/登用・育成(人材に関する取組の実施)
ステップ5.人材の活躍や定着に向けたフォローアップ
まず、ステップ1の経営課題の見直しです。この見直しが重要なのは、経営課題が何であるかによって、必要な人材や人員数が変わるからです。
人手不足を感じる理由の1つとして、ガイドラインでは退職や離職による欠員といった純粋な従業員の減少を挙げています。従業員が減少してしまったといっても、そのまま欠けた人員を補充するのではなく、会社の方針や考え方によって補充する人材を検討する必要があります。
例えば、当該離職者の関与していた事業について検討すると、現状の業務を継続する場合と業務フロー等を見直す場合とで、採用する人材が変わることはもちろん、人材を補充すべきかどうかも変わるでしょう。
人材を補充する場合にも、離職者と同様の職能の人材の募集をするか、更なる離職を防ぐ為に人材マネジメントに長けた人材の募集をしつつ業務フローを見直すのか、といった選択があると思います。このように細かく分析・検討することで、今までとは違った人材の採用が有効だとわかるかもしれません。
また、離職者の関与していた事業の規模についてイノベーションを伴う拡大を狙うときにも、そのイノベーションを生み出すような人材はどのような人材なのか検討しなおすといったことが重要になるでしょう。
ステップ2の方策を検討する際は、どの業務で人手が不足しているかを分析し、業務の細分化・切り出しを行います。この検討では、人員の補充に加え、外部化や機械化等も考える必要があります。
ステップ3では、人員補充が必要になったとき、固定観念にとらわれない人材調達方法を検討することが重要です。今まで「フルタイム・正社員・若年層の社員」が担当していた業務も、細分化することで「時短勤務者・非正規社員」に任せられることがあります。このように採用対象を広げられないか検討することは極めて有益です。また、外部調達だけでなく、研修制度等を設けて内部調達(育成)することも手法の1つとして考えておくことが重要でしょう。
ステップ4の人材に関する取組みとしては、「働き手の目線に立った魅力発信」や「人事評価を通じた人材育成」が推奨されています。特に若手人材の採用では、SNSでの発信は大きな効果を発揮する場合があります。昨今、社内の様子や経営層が考えている将来像等を発信することは、自社の実像や魅力に気づいてもらうためにも、有効な手段として認知されてきています。他にも、社員のやる気を向上させるために人事評価制度を利用する、といった取り組みも広く行われています。
ステップ5の人材の活躍や定着に向けたフォローアップは建設業界において特に重要です。建設業の労働環境は、「きつい・汚い・危険」が3Kと総称されるなど、過酷なイメージが定着しています。社会全体として人手不足で、労働市場が売手優位である昨今では、人材の獲得・定着のために残業の有無や休暇の取得のしやすさ等の待遇を改善することが重要でしょう。また、働き手のスキルアップや働き手同士のコミュニケーションの活性化に取り組むことも人材の定着をはかるために有効な手段です。
建設業での人手不足対応事例
前節ではガイドラインの内容をご紹介しましたが、実際にガイドラインのみで自社の課題に対応するのは不安があるかもしれません。そこでガイドラインと共に活用できるのが中小企業庁の「ミラサポPlus」です。ミラサポPlusでは様々な業界の人手不足対応事例が公表されています。これら事例においては取組前の状態と取組内容、取組の効果が記載されているほか、業種や人員数、資本金などでソートして検索することもできます。これにより、自社に近しい課題を解決した企業の事例を探しやすくなっています。
建設業の事例としては、長時間労働による離職に悩んでいた事業者で社内の受注基準を見直したものなどがあります。高利益・高効率な案件を選別して受注することで、少ない人員・時間で取組前と同水準の利益を実現しているとのことです。また、高齢層には紙媒体、若年層にはweb・SNS、といったように採用したい人材に合わせて調達方法を変えることで応募者が増加したといった事例もあります。
(参考:ミラサポPlus)
助成金の活用
人手不足への対応に際しては、助成金の活用も有効です。目的や管轄によって条件等が異なります。管轄による違いについては、人材領域なので厚生労働省が管轄する助成金が多いものの、自治体が独自で設けている助成金制度もあります。
目的による違いで分類すると、
- 人材を採用するともらえる助成金
- 職場環境を整えるための助成金
- 雇用調整のための助成金
の3つに大別できます。本稿では3つの目的別に代表的な助成金をご紹介します。
①人材を採用するともらえる助成金
- 中途採用等支援助成金
- 特定求職者雇用開発助成金
- トライアル雇用助成金
②職場環境を整えるための助成金
- 人材確保等支援助成金
- 両立支援等助成金
③雇用調整のための助成金
- 雇用調整助成金
- 労働移動支援助成金
ここに示したものだけでなく、自治体独自のUIJターン採用に関する補助金等もあります。まずは用途を決めた上で、一度調べてみることをおすすめします。
おわりに
今回は建設業界の人材不足の現状と、その対策について説明しました。建設業界は他の業界と比べて慢性的に人手不足が続いています。5~10年以内に60歳以上の職人が一気に離職することも考えると、今後ますます人材不足が深刻化することは間違いありません。
ガイドラインで紹介されている現状整理や要件の再定義などは、実際にどこまで適用できるかは会社によって変わってきます。まずはミラサポPlusで自社の課題に近い事例を探すことが1つの手でしょう。それによって自社の進むべき方向性を定め、取り組みの実施検討に当たってガイドラインを参考にする、といった方法が効果的かもしれません。