副業における企業側の対応と税務申告上の留意点
2023年12月4日
はじめに
近年「働き方改革」やコロナ禍によって残業の削減や勤務形態の柔軟化などが急速に普及してきており、企業側も対応することが求められます。一方で、会社側から残業を制限されるなどの事情から残業代といった収入が減ることになります。こうした収入が減少するなどの事情やコロナ禍では休日に外出を控える巣籠りが増加した背景から、副業を行う人も増加しました。このような事情に伴い、懸念されるのは副業収入に関する無申告です。
今回は、副業に関する現状や、副業収入により確定申告が必要になる場合、副業にかかる確定申告の手続で改正された点について説明します。
副業とは?
副業には様々な定義が存在しています。現在は唯一の定義といえる明確な基準は存在せず、個人や企業によって様々な判断がされています。
時間や収入の額について、契約締結の後先や、働き手自身の認識だけでなく、「兼業」という言葉との区別の有無など様々な定義があります。
また国・経団連でも下記にまとめたように、定義にばらつきがある状況です。
総務省 | 主な仕事以外に就いている仕事 |
---|---|
中小企業庁 | 一般的に、収入を得るために携わる本業以外の仕事 |
厚生労働省 | 二つ以上の仕事を掛けもつこと |
経団連 | 単なる収入補填を目的とした働き方は(中略)、副業・兼業に含めていない |
副業を認める企業の割合
新型コロナウィルスの流行に伴いリモートワークが促進され、削減できた通勤時間を副業・兼業にあてているという人も少なくありません。中には、勤めている企業には何も伝えず副業を行っている場合もあるようです。
経団連が2020年に実施した調査では副業・兼業を認めている企業の割合は22%となっています。容認している割合を業種別にみると、情報通信業では5割を超えていますが1割程度に留まっている業界もあります。そのため、業界ごとに大きなばらつきがある状態となっています。例えば、ドライバーに対して休憩時間に対する規制がある運輸業・郵便業や肉体的に厳しい作業の多い建設業は、本業の身心の負担が大きい業種といえます。そのため、副業を認める事に対して躊躇する要因とされています。
(出典:「2020年 労働時間等実態調査M」経団連)
副業収入の税務申告について
日本は納めるべき所得税は自分で計算し、納税する申告納税方式を採用しています。そのため、原則は自分で確定申告を行う必要があります。会社員であり収入が本業のみの場合は、会社が納税手続を行うため自分で確定申告を行う必要はありません。
副業による収入がある場合は確定申告を行う必要があるかどうかに関しては基準が存在します。簡単に説明すると、本業による給与以外の「所得」が20万円を超える場合、自身で確定申告を行う必要があります。所得とは所得税の課税対象となる金額です。収入額からその収入に関わる費用を差し引くことで、課税対象額となる所得を求めることができます。例えば、副業として翻訳作業による収入を得た際に参考書籍を購入するなどした場合、書籍の金額分を経費として収入から差し引くことで所得金額が算出されます。ただし、副収入が給与所得である場合は経費の計上は認められません。
収入補填として副業を始める人や、フリマサイトでの売買により収入を得る人が増加しています。それに伴い、申告漏れや確定申告の必要があるという意識もなく無申告である人の増加が懸念されています。
(出典:「インターネット取引を行っている者の調査状況」 国税庁)
無申告や申告漏れが税務調査で発覚した場合、無申告加算税や過少申告加算税が課されます。
令和4年度からの改正事項
副業の多くは雑所得に該当するケースが多いと思われます。一方で、一定の要件に該当する場合は、令和4年度から請求書等の書類を5年間保存することが義務付けられました。
ここで、雑所得に関して3つの区分があります。
- ①公的年金等の雑所得
- ②雑所得を生ずべき業務にかかる雑所得
- ③その他の雑所得
②と③については法令等で明示されていないため区分が困難となっています。この点、③については個人年金保険や暗号資産取引等による収入を想定しているといわれています。そのため一般的に、副業は②に該当すると判断されるでしょう。
令和4年分以降の確定申告を行う際に、「②雑所得を生ずべき業務に係る雑所得」に該当し、かつ、前々年度の「②雑所得を生ずべき業務に係る雑所得」が300万円を超える場合、総収入金額と経費に関する「現預金取引等関係書類(請求書や領収書等)」を確定申告後5年間保存することが義務となりました。
2020年の副業所得が300万円を超えており、2023年も副業による所得を申告する場合などは、副業に関する請求書や領収書の保存が義務付けられます。これは、副業による雑所得の申告漏れや無申告が増加する中で、申告内容を効率よく積極的に確認しようとしている姿勢の表れといえます。
考察
日本での副業は、働き方改革からコロナ禍を経て急速に普及し始めています。そのため、法律も含め制度の整備はまだ追い付いていないのが現状です。社会的にも、ようやく副業のメリット・デメリットを冷静に考慮できるようになってきた段階といえます。そのため、雇用者・被雇用者のどちらにおいても課題は少なくありません。
雇用者側の場合、副業制度を導入したモデルケースが少ないため、制度整備に時間が掛かることが想定されます。そのため、制度の整備に時間が掛かってしまうのはデメリットになると言えます。また、副業を認める際に、就労規則等の整備、従業員の健康管理、労働保険関係の整理・確認といった、人的コストがかかります。さらに、副業を行う従業員について、本業に支障が出ていないか継続してチェックを行う仕組みも必要になるでしょう。
反面、雇用者側で副業を認めることでメリットが生まれる場合もあります。本業とは違う経験に基づく従業員による新しいアイデアの創造や、副業でできた人的ネットワークの活用可能性といったメリットです。また、副業によって自由なライフスタイルの確立を重視する層が増えると、副業を認める企業は人材獲得で有利になることも考えられます。社外の副業人材の活用により、事業の発展があり得ることも大きなメリットと言えるでしょう。
他方、被雇用者側で注意すべきデメリットとしては、健康管理や申告といった自己管理に関わる部分です。特に副業では昼間に本業の業務を行った後、夜間に副業の時間を投下することが多いため、長時間労働になりやすい点に注意が必要です。
反面、デメリットとの折り合いがつけば、コロナ禍のような不測の事態で収入が減るリスクの対策になるだけでなく、複数のコミュニティに関わることで精神的な充足に繋がるといったメリットを、被雇用者側は享受できます。何より、本業とは違う経験を積むことで、多様性のある人材として成長する糸口を掴むことにも繋がるでしょう。
おわりに
日本の副業はまだ黎明期といえます。そのため、税制をはじめ法制度等の改正が進んでいくのはこれからです。
収入を増やせるからと気軽に副業を始めはしたが、忘れた頃に税務調査の対応が必要になるといったこともあり得ます。
このような事態を防ぎながら副業のメリットを受けるためには、副業に関連してどのような論点があるのか学ぶことが重要です。その意味では、企業・個人ともに、厚生労働省の設置する相談窓口や各種セミナーなども助けになるでしょう。