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松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

この記事の著者

松橋 亮太 Ryota Matsuhashi

パートナー  / 税理士

グローバル・ミニマム税制の国内法導入と日本の外資系企業の必要な対応について

2024年5月17日

グローバルミニマム課税とは、経済協力開発機構(OECD)において合意された課税ルールのことです。どの国でビジネスを行ったとしても最低税率15%以上の法人税の課税を確保することを目的としています。韓国は2022年12月に世界で初めてとなる立法を行ったほか、ドイツ、イギリス等も法案を用意しています。またEUやグローバルサウス諸国は法案準備を進めているなど、グローバルミニマム税導入国(特に国内ミニマム税導入国)は今後一気に広がりそうです。本稿では、日本におけるグローバルミニマム税制の導入が外資系企業に及ぼす影響とその対応について解説していきます。

日本におけるグローバルミニマム税制とその適用時期について

①OECDで合意したグローバルミニマム税を構成する3ルール

日本において2023年3月28日に「所得税法等の一部を改正する法律」が創設されています。昨年度のOECDで合意したグローバル・ミニマム課税のルールのうち、所得合算ルール(Income Inclusion Rule:IIR) に係る法制化として、各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税が創設されました。なお、他のルールである軽課税所得ルール(Under Taxed Profits Rule:UTPR) 及び国内ミニマム課税(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax:QDMTT) 等は今年度以降の法制化が検討されています。

Ⅰ.所得合算ルール(IIR:Income Inclusion Rule)

参照元:国税庁(https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2023/pdf/I.pdf

所得合算ルールとは、子会社等の税負担がグローバルミニマム課税の最低税率である15%未満である場合、上乗せ課税額を最終親会社に課し最終親会社居住国にて納税するルールのことです。日本では、2025年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用されます。

Ⅱ.軽課税所得ルール(UTPR:Undertaxed Profits Rule)

参照元:国税庁(https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2023/pdf/I.pdf

軽課税所得ルールとは、親会社等の税負担が最低税率の15%未満である場合、子会社等の所在地で15%に至るまで上乗せ課税額の課税を行うルールのことです。

Ⅲ.国内ミニマム課税(Qualified Domestics Minimum Top-up Tax)

参照元:国税庁(https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2023/pdf/I.pdf

国内ミニマム課税とは、日本国内に所在を持つ企業等の税負担が15%未満である場合、最低税率である15%に至るまで課税を行う制度のことです。

国内ミニマム課税によって、グループ関連企業が最低税率まで課税をされた場合、X国の税務当局から「所得合算ルール」や「軽課税所得ルール」に則った課税は行われないのが特徴です。つまり日本国が15%分の課税を行い、X国による課税は行われません。

②日本における「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」の創設

グローバル・ミニマム課税のルールのうち、所得合算ルールに係る法制化として、日本において、「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」が創設されました。この各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税は、グループの全世界での年間総収入金額が7億5,000 万ユーロ以上の多国籍企業グループを対象にしており、実質ベースの所得除外額を除く所得について国ごとに基準税率15%以上の課税を確保する目的で、下図のように、子会社等の所在する軽課税国での税負担が基準税率15%に至るまで、日本に所在する親会社等に対して上乗せ(トップアップ)課税を行う制度です。

日本における「国際最低課税額」に関連する税法の改正点の概要は以下の通りです。
特定多国籍企業グループに属する内国法人は、国際最低課税額をその持分に応じて計算し、対象会計年度終了後1年3か月以内に国際最低課税額に基づく法人税の申告を行い、申告書の提出期限までに税金を納付する必要があります。

そして国際最低課税額に対する法人税は、課税標準に特定の税率を乗じて計算されます。関連して、「特定基準法人税額に対する地方法人税」が新設され、これに関する申告及び納付が必要です。また、特定多国籍企業グループに属する構成会社等は、国別の実効税率やグループ国際最低課税額などの情報を税務当局に提供する制度が創設されました。

※グローバル・ミニマム課税の導入に伴い、特定外国関係会社に係る合算課税の適用を免除する基準が見直され、一定の条件を満たす場合には、関連する書類の添付が不要となります。

OECDで合意したグローバルミニマム課税の国内法導入による外資系日本企業への影響

グローバルミニマム課税が導入されることで、多国籍企業は世界中のどこで事業を行っていたとしても、必ず15%の税負担が求められます。つまり、これまで税負担の少ない国であるタックスヘイブンへの租税回避ができなくなることを意味します。

しかし今回日本におけるグローバルミニマム課税の導入適用についてはIIRのみとなります。現状UTPRの導入がないため、 国外親会社の視点から今回の日本での税制改正における影響はほとんどないと考えられます。

また、日本の法人税実効税率が他国と比し相対的に低くなく基準税率15%に対しても余裕があり、今後も外資系日本企業に対し日本国内法にグローバルミニマム課税の導入による影響は限定的と考えられます。

一方で、欧米諸国は日本よりもタックスヘイブンによる利益移転が多いとされているため、日本においてグローバルミニマム課税が導入されると、欧米企業の負担増は避けられないものと考えられています。

①事務負担の軽減措置

グローバルに事業を展開している多国籍企業グループは、進出している国に合わせて税額を計算する事務負担が発生しています。企業の事務的な負担が大きくなることが懸念されますが、進出国が数十カ国にもなる場合、事務負担軽減のため適用免除基準が設けられています。

適用免除基準とは、以下のいずれかの条件を満たす場合、その構成会社等の所在地国の国別国際最低課税額は0(ゼロ)とされ、国際最低課税額の計算が不要になることです。適用免除基準が用いられることで、グローバルに展開している企業であっても、事業規模の小さい国については、税額算定が免除されるため、事務負担の軽減につながります。

適用免除基準

  • 構成会社等が各種投資会社等に該当しない。
  • 多国籍企業グループ等のその国における収入金額(直近3年間の平均額)が 1,000 万ユーロ相当額未満
  • 多国籍企業グループ等のその国における利益又は損失の額(直近3年間の平均額)が 100 万ユーロ相当額未満

②税務部門に与える影響について

グローバル・ミニマム課税の申告のために、世界各地の子会社の税額計算や税効果計算のための詳細な情報を収集し、最終親会社がグループ全体の各国の実効税率や追加税額を、税務当局に報告する義務を負うことになります。このため、追加で生じる課税額よりもむしろその申告手続きでの負担が懸念されています。当該課税制度は、多国籍企業グループにとっては、社内で税務業務を行うことを前提にしてきた既存の税務チームが対応できる領域を越えたものになり、税務部門の業務についての再検討を余儀なくされると言えます。

税法は会計に比べてローカル色が強く、特に日本においては税法が複雑であるため、日本の専門家にアウトソースすることが効率的かつ効果的であるといえます。このため本課税制度が適用される外資系企業については、内製化とアウトソースのバランスをとり、共同運営体制を確保する必要があるといえるでしょう。

おわりに

グローバルミニマム課税は、多国籍企業に世界中どこでも15%以上の税負担を負わせることを確保することにより、法人税の世界から“タックスヘイブン”を追放し、税率引き下げ競争に歯止めをかけることを目的としたものです。課税の公平といった観点から検討すれば望ましい課税制度と考えられますが、適用対象となる多国籍企業には、莫大な当該課税制度対応コストが発生することは必須と考えられ、この点からすれば対象となる企業にとっては不利な課税制度といえるでしょう。

対象となる外資系企業は、うまく日本の専門家にアウトソースしながら、本課税制度に対応していくことを検討されてはいかがでしょうか。

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