RSM汐留パートナーズ・ニュースレター 2023年2月号
2023年2月1日
税制改正大綱・労働関係法令の2023年の改正・株式譲渡の一連の流れ
日頃よりお世話になっております。RSM汐留パートナーズです。今月のニュースレターでは、税務より「税制改正大綱」、労務より「労働関係法令の2023年の改正」、司法書士法人より「株式譲渡の一連の流れ」について取り上げます。
税務にて取り上げる税制改正大綱では、先月取り上げられなかった個人所得課税と資産課税に関する論点を取り上げます。また労務にて取り上げる労働関係法令の改正では、先月も取り上げた給与のデジタル払いに関するものの他、本年より適用される企業の多い「男女の賃金の差異」の情報公表の義務化や時間外労働時に対する割増賃金率、育児休業取得状況の公表義務化といった論点をまとめております。
労務のニュースレターでは義務化論点も複数ございますので、自社の該当の有無も含めて是非ご確認ください。
はじめに
今回は、2023年度税制改正大綱の中で、個人に関わる項目として、個人所得課税及び資産課税における注目論点を取り上げます。
【個人所得課税】NISAの拡充と恒久化
岸田政権が掲げる「資産所得倍増」に向け、2024年1月からNISAが拡充・恒久化されます。具体的には、非課税保有期間が無期限化され、年間投資上限額が360万円(内訳は「つみたて投資枠」120万円、「成長投資枠」240万円)に拡充されます。また、富裕層に恩恵が偏らぬよう、生涯投資枠1,800万円(内、成長投資枠は1,200万円が上限)が設定されます。既に現行のNISA制度を利用している人も、新たな投資枠がゼロから得られます。
NISA概要
投資枠種類 (併用可) | 対応する現行制度 (併用不可) | 投資対象 | 年間投資上限額 | 生涯投資枠 |
---|---|---|---|---|
つみたて投資枠 | つみたてNISA | 長期積み立て目的の一定の投資信託 | 120万円 (現行:40万円) | 成長投資枠と合わせて1,800万円 |
成長投資枠 | 一般NISA | 国内外の上場株など幅広い商品 | 240万円 (現行:120万円) | 1,200万円 |
合計:360万円 | 合計1,800万円 |
【個人所得課税】極めて高い水準の所得に対する負担の適正化
税負担の公平性の観点から、超富裕層への課税強化が行われます。具体的には、株式の譲渡所得のみならず、土地建物の譲渡所得や給与・事業所得、その他の各種所得を合算した所得金額(基準所得金額)から3.3億円を控除した金額に、22.5%の税率を乗じた金額が納めるべき所得税の金額を超える場合には、その超過額を追加的に申告納税することとされます(2025年分以降の所得税に適用)。
【個人所得課税】スタートアップ再投資優遇措置の創設
保有株式の売却し、自己資金による起業や、プレシード・シード期のスタートアップ企業への再投資を行う場合に、再投資した部分につき株式譲渡益に課税しない制度が創設されます。非課税の上限額は20億円とされます。
【資産課税】相続時精算課税制度の見直し
相続時精算課税制度で受けた贈与については、暦年課税の基礎控除とは別に、同水準の基礎控除(110万円)が創設されます。即ち、相続時精算課税制度選択後も、毎年110万円以下の贈与については贈与税申告が不要となります(2024年1月1日以降の贈与に適用)。
【資産課税】生前贈与加算期間の延長
現行制度上、相続開始前3年以内に贈与により取得した財産は、相続財産に加算することになっていますが、この期間が3年→7年に延長されます。また、延長した4年間(相続開始前3年超7年以内)に受けた贈与については、事務負担軽減の観点から、合計100万円までは相続財産に加算しないこととされます(2024年1月1日以降の贈与に適用)。
おわりに
2023年度税制改正大綱には、前回から2回に渡って取り上げた論点以外にも、電子帳簿保存法の見直し、防衛費財源確保のための税制措置など、他にも多くの企業が関係する項目も含まれています。ご不明点等ございましたら、弊社までお気軽にお問い合わせ下さい。
2023年施行予定の主な法改正
今回は2023年に施行される予定の主な法改正情報についてお伝えいたします。
2023年に施行される法改正の一覧
2022年7月※ | 従業員数300人超の企業における「男女の賃金の差異」の情報公表の義務化(女性活躍推進法) |
---|---|
2023年4月1日 | 給与のデジタル払い解禁(労働基準法施行規則) |
2023年4月1日 | 中小企業における60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ(労働基準法) |
2023年4月1日 | 従業員数1,000人超の企業における育児休業取得状況の公表義務化(育児介護休業法) |
※施行は2022年ですが、2023年での実施が必要となる企業が多いため記載しています
「男女の賃金の差異」の情報公開の義務化
2022年7月に改正女性活躍推進法が施行され、従業員数300人超の企業に対して「男女の賃金の差異」の情報公表が義務付けられています。2022年7月以降に開始する事業年度について、開始後おおむね3か月以内での公表が求められています。詳細については、下記Webページをご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091025.html
給与のデジタル払いの導入方法
先月のニュースレターでご案内した通り、4月から給与のデジタル払いが解禁されます。デジタル払いを導入する場合、労使協定を締結した上で、対象となる労働者の個別同意を得てから行う必要があります。
また、デジタル払いに利用できる資金移動業者は、厚生労働省が指定した業者に限られます。4月1日以降、厚生労働者による資金移動業者の審査・指定が実施される予定です。詳細については、下記Webページをご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03_00028.html
中小企業における60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ
12月のニュースレターでご案内した通り、4月からは中小企業においても月60時間を超える時間外労働に対して50%の割増率が適用されるようになります。これまでは大企業においてのみ適用されていましたが、今後はすべての企業において適用されることになります。
中小企業における時間外労働の割増率は以下の通りです。
1か月の法定時間外労働 (法定労働時間を超える労働時間) | ||
---|---|---|
60時間以下 | 60時間超 | |
2023年3月31日まで | 25% | 25% |
2023年4月1日から | 25% | 50% |
詳細については、厚生労働省のパンフレットをご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/000930914.pdf
従業員数1,000人超の企業における育児休業取得状況の公表義務化
育児介護休業法の改正により、常時1,000人超の従業員を雇用する企業に対して、育児休業等の取得情報の年1回の公表が義務づけられます。2023年4月1日以後に開始する事業年度の直前の事業年度の育児休業等の取得状況を把握し、公表する必要があります。
公表内容は、以下のいずれかを公表する必要があります。
- 男性の育児休業等の取得割合
- 育児休業等と育児目的休暇の割合
上記の計算式など、詳細については厚生労働省のパンフレットをご覧ください。
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/001122221.pdf
はじめに
株式会社の株主は、その有する株式を譲渡することができます。その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けている株式会社(いわゆる非公開会社)における売買による株式譲渡の手続きの一例は次のとおりです。後日、株式の所有権をめぐって争いとならないよう法的な手続きをしっかりと踏んでおくことをお勧めします。
株式譲渡の合意
株式を譲渡するときは、譲渡人と譲受人が譲渡する株式数や価格等について合意します。
株式譲渡の承認請求
一部のケースを除き、多くのケースでは株式の譲渡人が発行会社に対して、譲受人が株式を取得することについて承認するか否かの決定をすることを請求します。この譲渡人からの請求は、①譲渡する株式の数(種類株式を発行している会社は株式の種類及び種類ごとの数)②譲受人の氏名又は名称③譲渡を承認しない場合は指定買取人が当該株式を買い取ることを請求するときはその旨を明らかにして行います。
株式譲渡の承認の決定
株主から譲渡の承認を受けた発行会社は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によって譲渡を承認するか否かを決定します。定款で譲渡承認機関(代表取締役の決定等)が別に定められているときは、当該承認機関が決定します。
取締役会の決議や取締役の決定で上記を行う場合、譲渡人又は譲受人になる取締役は特別利害関係人に該当するため注意が必要です。
定款に「当会社の株主が当会社の株式を譲渡により取得するときは、当会社が承認をしたものとみなす」等の記載がある会社において、譲受人が発行会社の株主であるときは、株式譲渡の承認請求、株式譲渡の承認決定及び株式譲渡の承認通知の手続きは不要です。
株式譲渡契約の締結
株式の譲渡が承認された後に(前でも可能ですが)、株式譲渡契約を締結し、株式を譲渡します。株券発行会社においては、株券を交付しなければ株式譲渡の効力が生じませんので、株券不所持の申出等をして株券を実際には発行していない場合でも、改めて株券を発行しそれを譲受人へ交付しなければなりません。
株式譲渡の承認通知
株式の譲渡が承認されたときは、発行会社は譲渡承認請求をした者に、当該決定した内容を通知します。株式の譲渡を承認せずに、発行会社が買い取る又は指定買取人を指定した場合はそれらの手続きへと進みますが、ここでは割愛します。
株主名簿書換請求
譲渡人と譲受人が共同して、株主名簿の書換えを請求します。
株主名簿の書換え
上記請求を受けた発行会社は、譲渡人を株主名簿に記載し、譲受人がその有する株式の全部を譲渡した場合は譲受人を抹消します。全部ではなく一部の譲渡の場合は、譲受人の有する株式数を変更します。
株主名簿記載事項証明書の交付
譲受人は、自身が株主名簿に記載されていることを確認するため株主名簿記載事項証明書を請求することができます。この証明書が書面であるときは、発行会社の代表取締役が署名し、又は記名押印をします。電磁的記録であるときは、発行会社の代表取締役が電子署名をします。なお、株券発行会社においては上記は適用されません。