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RSM汐留パートナーズ・ニュースレター 2023年6月号

2023年6月1日

グループ通算制度適用時の会計論点・フリーランス保護法・株式会社の取締役の任期

日頃よりお世話になっております。RSM汐留パートナーズです。今月のニュースレターでは、税務より「グループ通算制度」、労務より「フリーランス保護法」、司法書士法人より「株式会社の取締役の任期」について取り上げます。

社労士法人で取り上げるフリーランス保護法は、最近増加しているフリーランスとの取引の適正化を図る法律です。対象はフリーランス等と取引を行う全事業者で、従来下請法の対象外だった取引についても保護される形となります。フリーランスとの取引が一般化すると見られますので、多くの事業者で注意が必要な論点です。また、司法書士法人より取り上げる取締役の任期については、VC等から出資を受ける場合の外部の取締役についてや任期短縮、報酬決定についても言及していますので、是非ご参照ください。

 

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はじめに

2021年8月に企業会計基準委員会より実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」が公表されました。今回は、実務対応報告第42号に基づき、グループ通算制度適用の際の主要な会計論点を見ていきたいと思います。

法人税及び地方法人税に関する会計処理

グループ通算制度では、各通算会社を納税単位としているため、各通算会社が当事業年度の法人税及び地方法人税を「法人税、住民税及び事業税」として損益計算書に計上し、未納税額は「未払法人税等」として貸借対照表に計上します。通算税効果額(*1)は、当事業年度の所得に対する法人税及び地方法人税に準ずるものとして取扱うこととされているため、「法人税、住民税及び事業税」に含めて損益計上し、通算税効果額に係る債権債務は、「未収入金」「未払金」等として個別財務諸表における貸借対照表に計上します(実務対応報告第42号25項)。

税効果会計に関する会計処理

グループ通算制度適用の際の税効果会計に関する会計処理は、基本的に連結納税制度における取扱いが踏襲されています。よって、住民税及び事業税は法人税及び地方法人税とは区分して税効果会計を適用し、各々適用する税率を算定します(以下参照)。

繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率

法人税及び地方税法人税率×(1+地方法人税率)/(1+事業税率)
住民税法人税率×住民税率/(1+事業税率)
事業税事業税率/(1+事業税率)

税金の種類ごとの繰延税金資産の回収可能性が異なることによる重要な影響がある場合には、その影響を考慮した税率を用いる。

法人税及び地方法人税に係る繰延税金資産の回収可能性の判断

基本的には単体納税制度の場合と同様に、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」に従って繰延税金資産の回収可能性を判断しますが、通算税効果額の影響を考慮する必要があります。また、繰越欠損金に係る繰延税金資産については、特定欠損金と特定繰越欠損金以外の繰越欠損金ごとに損益算入のスケジューリングを行い、回収が見込まれる金額を繰延税金資産として計上することとなります。

繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順

  1. 単体納税制度と同様に将来減算一時差異と将来加算一時差異の解消見込年度ごとの相殺する。
  2. 1で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額を、通年会社単独の将来の一時差異等加減算前通算前所得の見積額と解消見込年度ごとに相殺し、その後、総益通算による益金算入見積額と解消見込年度ごとに相殺する。
  3. 2で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、特定繰越税金資産として計上する。→相殺し切れなかった部分は回収可能性はないものと判断する。

繰延税金資産の回収可能性判断に用いる企業の分類

将来減算一時差異通算グループ全体の分類と通算会社の分類のいずれか上位の分類
特定繰越欠損金以外の繰越欠損金通算グループ全体の分類
特定繰越欠損金通算グループ全体の課税所得は通算グループ全体の分類、通算会社の課税所得は通算会社の分類

おわりに

実務対応報告第42号においては、開示(注記を含む)に関しても明記されていますので、開示書類作成時には、今一度ご確認いただければと思います。ご不明点等ございましたら、弊社までお気軽にお問い合わせ下さい。

 

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フリーランス保護法が成立しました

2023年4月の国会で、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)」が可決成立し、同年5月12日に交付されました。今回はこの法律の概要と、会社として実施しなければならないことについて解説します。

1.法律の目的

この法律の目的は、フリーランス等との取引の適正化と、就業環境の整備が目的となっています。近年の働き方の多様化が進み、フリーランスも増加傾向にあると言われています。その中で、立場の弱いフリーランス等を保護するために制定されました。

今までも下請法の適用を受ける場合には法律による保護を受けることもできましたが、この法律ではフリーランス等と取引をする全事業主に適用されるため、より保護の幅が広がったと言えます。

2.法律の適用対象者

この法律の保護を受けるのは、従業員を雇わずに活動している個人事業主のほか、一人社長など他に役員がなく従業員も雇っていない法人代表も対象になります。これらの方々に業務委託をする場合、「特定業務受託事業者」として法律の保護を受けることになります。

この法律は特定業務受託者に対して業務委託をする全事業主に対して適用され、従業員数や資本金等による限定はありません。特定業務受託事業者との取引をしているのであれば、この法律の理解・遵守が求められます。

3.この法律で課せられる主な義務

特定受託事業者と取引をする事業主(業務委託事業者)には、以下のような法的義務が課されることになります。今まで業務委託契約書の締結をしていなかった場合は準備が必要です。

(1)取引条件の明示義務

業務委託事業者は、特定受託事業者に対して業務委託をした場合には、依頼する業務の内容、報酬の金額、支払期日その他の事項を書面又は電磁的方法により明示する必要があります。

(2)報酬の支払期日の設定

支払期日については、物品等を受領した日から起算して60日以内に報酬を支払うことが義務付けられます。業務委託事業者側で検査をするか否かに関わらず、この期限内に支払う必要があります。

(3)禁止行為

業務委託事業者には次のような行為が禁止されます。

  • 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、受領を拒むこと
  • 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬を減額すること
  • 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、返品をすること
  • 通常相場に比べて著しく低い報酬の額を不当に定めること
  • 正当な理由なく、自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
  • 自己のために、金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
  • 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、業務内容を変更させ、またはやり直しをさせること

(4)就業環境の整備

業務委託事業者は、特定受託事業者の就業環境の整備にあたって、次の事項を守る必要があります。ハラスメント行為に係る相談体制の整備なども求められていますので、注意が必要です。

  • 広告等により募集情報を提供するときは、虚偽の表示等をせず、正確かつ最新の内容に保つこと
  • 特定受託事業者が育児介護等と両立して業務委託(政令で定める期間以上のもの。以下「継続的業務委託」)に係る業務を行えるよう、申出に応じて必要な配慮をする
  • 特定受託業務従事者に対するハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備等の措置を講じること
  • 継続的業務委託を中途解除する場合等には、原則として、中途解除日等の30日前までに特定受託事業者に対し予告すること

4.違反した場合の対応

法違反がある場合には、特定受託事業者は公正取引委員会や中小企業庁長官に申し出ることができます。この申し出に基づき、公正取引委員会や中小企業庁長官は調査が行い、必要があれば勧告や命令を下すことができることとなっています。

この命令に従わなかった場合や、調査で求められた報告を怠ったり、虚偽の報告をしたり、調査自体を拒否した場合などには、罰則(命令違反及び検査拒否等に対して、50万円以下の罰金)が適用されることがあります。

5.おわりに

法律の施行日は未定ですが、遅くとも2024年11月11日には施行されます。それまでに事業主において準備が必要となることは以下の通りです。

  • (業務委託契約書が未整備の場合)業務委託契約書の整備
  • ハラスメント相談窓口の準備(従業員の窓口を、フリーランス等にも対象を拡大すると良いでしょう)
  • 適正取引や就業環境整備に関わる社内教育

働き方の多様化に伴って、業務委託契約であっても、取引の公正さや、就業環境への配慮が求められるようになっています。フリーランス等を活用している事業者の方々は、この法律が施行される前に、業務委託契約の内容や書類等を見直すなど、必要な準備をしておきましょう。

 
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はじめに

株式会社の取締役には任期があり、その任期は「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」です。公開会社でない株式会社においては、「選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」に伸長することができますので、株主・取締役が全て親族の株式会社や、株主・取締役が同一人物1名の株式会社は、取締役の任期を10年に伸長していることが多いかと思います。

株式による資金調達と外部の取締役

VC等の投資家から出資を受ける際に、取締役1名の選任権を投資家に付与することがあります。最近では、種類株式による取締役の選任権(会社法第108条第1項第9号)ではなく、投資契約等によって取締役の選任権を付与するケースが多いでしょうか。

取締役の選任と任期短縮

外部の取締役が入ってくるタイミングで、あるいは外部の取締役は入ってこない場合でも投資家から出資を受けるタイミングで、取締役の任期を3年~10年としている株式会社が、取締役の任期を1年又は2年に変更することがあります。取締役の任期短縮につき、基本的には定款に取締役の任期を定める(任期を変更する)方法によって行いますので、取締役の任期を短縮するには株主総会の特別決議が必要となります。

ところで、取締役の任期を変更すると、任期変更以降に就任する取締役だけではなく、任期変更時点の取締役にも変更後の任期が適用されます。例えば、2018年に設立した株式会社の唯一の設立時取締役A(任期10年)につき、2023年6月の株主総会において取締役の任期を2年とする定款変更が承認された場合、取締役Aは定款変更の効力が生じた時に任期が満了し退任することになります。

取締役Aに引き続き取締役としての業務を行ってもらうのであれば、定款変更を決議する株主総会において、取締役の選任(再任)の決議もする必要があります。任期変更時点の取締役にも変更後の任期が適用される点に気付かず、取締役の再任決議を忘れているケースも見られますのでご注意ください。

もし仮に、取締役の任期短縮を承認する株主総会において取締役Bを選任し、取締役Aを再任しなかった場合、取締役Aは任期満了により退任し取締役はBのみの状況になってしまうことになってしまいます。(定款に定められた取締役の員数が2名以上等となっている場合を除きます)。

なお、新たに取締役Bを選任しなかった場合は、取締役Aの再任決議を忘れたとしても、取締役Aが権利義務取締役として取締役の業務を行うことはできますが、取締役の選任懈怠の状況ですのでなるべく早く株主総会において取締役Aの選任決議をしなくてはなりません。

取締役の役員報酬の決定

取締役の報酬は定款又は株主総会の決議で定めるところ、新任取締役に役員報酬を支給するのであれば、原則として役員報酬を決定する株主総会の決議が必要です(以下、役員報酬を定款に定めていないことを前提としています)。株主総会の決議を得るコストが低いのであれば後で株主総会の決議によって取締役の報酬を決定することも考えられますが、新任取締役を選任する株主総会において役員報酬も併せて決定することがスムーズかと思います。

なお、株主総会の決議によって取締役全員に支給する報酬総額を定めて、各取締役に支給する個別の報酬額の決定は(代表)取締役に委任することも可能とされていますので、報酬総額を既に定めていて、新任取締役の報酬を含めても当該報酬総額を超えないのであれば、新任取締役の報酬額を決議しないことも考えられます。