RSM汐留パートナーズ・ニュースレター 2023年8月号
2023年8月2日
特定譲渡制限付株式・最近の賃金水準の動向・在留資格のオンライン手続き
日頃よりお世話になっております。RSM汐留パートナーズです。
今月のニュースレターでは、税務より「特定譲渡制限付株式」、労務より「最近の賃金水準の動向について」、司法書士法人より「特例有限会社の株主に関する留意点」について取り上げます。
日本の役員に対する報酬は固定報酬の割合が高いですが、最近では特定譲渡制限付株式を付与する事例も増加しています。
特定譲渡制限付株式は、一定期間の譲渡制限が設けられる、役務提供の対価として交付されるといった要件を満たした株式のことです。インセンティブ報酬については今後も導入が増加していくものと思われますが、そのうちの一つの手段として注目されています。所得税、法人税それぞれの取扱いについても確認していますので、ご検討されている際には是非詳細をご確認ください。
はじめに
日本では、欧米と比較して役員給与に占める固定報酬の割合が高く、業績向上のインセンティブや株主目線での経営が十分に期待できないと長らく指摘されてきました。そこで、2015年以降、会社法や税法の整理、コーポレートガバナンス改革等により、株式による報酬支給を可能とする仕組みが整備され、日本においても株式による報酬支給を導入する上場企業が増加しています。今回は株式報酬の一つである「特定譲渡制限付株式(Restricted Stock)」について見ていきたいと思います。
特定譲渡制限付株式とは
特定譲渡制限付株式とは、譲渡制限付株式のうち、以下の要件を満たすものをいいます。
要件 | ||
特定譲渡制限付株式(①~③全て) | ① 一定期間の譲渡制限が設けられている | 譲渡制限付株式(①②) |
② 法人により無償取得(没収)される事由(無償取得事由)として勤務条件又は業績条件が達成されないこと等が定められている | ||
③ 役務提供の対価として役員等に生ずる債権の給付と引換えに交付される、又は実質的に当該役務の提供の対価と認められる |
所得税上の取扱い
特定譲渡制限付株式に係るその役員等における所得税の課税時期は、譲渡制限期間中の処分が制限され、法人による無償取得の可能性があることに鑑み、譲渡制限解除日とされています。この際、譲渡制限解除時の株価に基づき所得税が課されます。(法人税法上の損金算入額とは一致しないことが想定される)。また、譲渡制限が、交付された者の退職に基因して解除されたと認められる場合は、退職所得になるとされています。
法人税上の取扱い
役員等に給与等課税額が生ずることが確定した日(即ち、譲渡制限解除日)に、法人は役員等から役務提供を受けたものとして、当該役員給与が損金算入されることになります。役員給与は、「定期同額給与」、「事前確定届出給与」、「業績連動給与」のいずれかに該当する場合に損金算入されるため、特定譲渡制限付株式による給与が損金算入されるためには、以下のいずれかの方法による必要があります。
① | 【事前確定届出給与に該当】定時株主総会から1ヵ月以内に、付与する株式等について納税地の所轄税務署長に届出書を提出 |
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② | 【所定スケジュールでの交付】役員の職務執行開始日(原則、定時株主総会の日)から1ヵ月以内の株主総会等(株主総会の委任を受けた取締役会を含む)にて株式付与の決議がなされ、取締役個人別の確定額報酬又は確定数の株式を定め、その決議日から更に1ヵ月以内に、株式交付 |
なお、損金算入額は、以下の通りです。
① | 金銭報酬債権に係る特定譲渡制限付株式を交付する場合は、その給与等課税額が確定した特定譲渡制限付株式の交付と引換えに役員等に現物出資された金銭報酬債権の額 |
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② | 特定譲渡制限付株式を無償発行する場合は、その特定譲渡制限付株式の交付された時の価額 |
③ | 確定した数の特定譲渡制限付株式を交付する場合は、当初報酬の内容を決議した時点の株価 |
会計上の取扱いと税務調整
特定譲渡制限付株式交付後、現物出資された報酬債権相当額(無償発行の場合は、株式の公正な評価額)のうち、役員が提供する役務として当期に発生したと認められる額を、対象勤務期間(譲渡制限期間)を基礎とする方法等の合理的な方法で算定し、費用計上します。よって、上述した法人税上の損金算入時期と会計上の費用計上時期が異なるため、税務上申告調整が必要となります。
おわりに
株式報酬を含むインセンティブ報酬の導入は、今後も増加していくでしょう。制度設計や税務・会計処理等、ご不明点がございましたら、弊社までお気軽にお問い合わせ下さい。
最近の賃金水準の動向について
7月28日、厚生労働省の審議会が最低賃金引き上げの目安を決め、2023年度の最低賃金が全国平均1000円を超える見込みとなりました。今回は賃金水準の動向についてお伝えいたします。
1.毎月勤労統計調査(令和5年5月)の概要(カッコ内は前年同月比)
令和5年5月の現金給与総額は284,998円(2.9%増)、うち一般労働者が370,009円(3.5%増)、パートタイム労働者が102,233円(3.5%増)となりました。なお、一般労働者の所定内給与は323,051円(2.0%増)、パートタイム労働者の時間当たり給与は1,268円(2.4%増)でした。しかし、物価変動を加味した実質賃金は14か月連続のマイナスとなっています。物価上昇に賃上げが追い付いていない状況ですが、マイナス幅は縮小傾向にあります。
2.2023年度の最低賃金
厚生労働省の審議会は、2023年度の最低賃金について、全国平均1002円に引き上げる目安額を取りまとめました。今後、都道府県ごとに地域別の最低賃金について議論されることになります。
3.賃金水準の動向について
2022年頃から物価が高騰し、現在も物価上昇率は高止まりしています。これに伴って、賃金も上昇を続けており、2023年春闘での賃上げ率は平均3.58%と高い水準となりました。これよりは下がるとしても、2024年度も例年より高い水準の賃上げ率となると考えられます。最低賃金についても大幅な引き上げが続く可能性があります。
人件費の原資を確保するためにも、適切な価格転嫁の実現などが重要になります。
はじめに
特例有限会社(以下、単に「有限会社」といいます。)とは、2006年5月より前にあった有限会社であり、2006年5月以降株式会社として存続している法人をいいます。なお、有限会社は株式会社として存続はしていますが、その商号には「有限会社」という文字を用いなければなりませんので商号を見れば株式会社か有限会社か分かるようになっています。
有限会社は現在も日本に多く存在しておりますが、その株式を保有する人が高齢の方である場合、株式の生前贈与や相続による移転により株式の保有者が変わることもあるでしょう。有限会社は、株主総会の特別決議の要件につき株式会社と異なりますので、有限会社における株式の生前対策・相続対策を検討されている方はその点を理解しておかないと、想定と異なる結果が生じてしまう可能性があります。
株式会社の特別決議と有限会社の特別決議
株式会社及び有限会社は、株主総会の特別決議によって定款の変更・増資・事業譲渡の承認・解散・組織再編その他会社の重要な事項を決定することができるところ、この特別決議の要件が株式会社と有限会社では異なります。
株式会社の特別決議の要件は、定款に別段の定めがない限り、株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行います。そのため、議決権の3分の2以上を保有している株主が株主総会で多くのことを決められる仕組みとなっています。
一方で、有限会社の特別決議の要件は、定款に別段の定めがない限り、総株主の半数以上であって、当該株主の議決権の4分の3以上に当たる多数をもって行います。
特別決議のため必要となる議決権の割合が異なる点も重要ですが、有限会社の特別決議は「総株主の半数以上」の賛成が必要となる点に特に注意が必要です。
株式を複数名に譲渡する場合
有限会社の創業者Xが株式の100%を保有しているときに、これを後継者である長男Aに90%、有限会社の経営に一切関与しない長女Bと次女Cに生前贈与または相続させとします。Aが議決権の90%以上を保有していますので、Aだけで株主総会の特別決議を通せるように見えますが、有限会社の場合は総株主の半数以上の賛成が必要となりますので、BまたはCどちらかの賛成も毎回求められます。
また、長男Aに90%、長女Bに10%を渡したとしても、この状態であればAだけの賛成で特別決議を通せますが、Bに相続が発生しBの相続人DEが株主となった後は、上記と同様にBだけで特別決議を通すことができなくなり、DまたはEどちらかの賛成も毎回求められることになります。
なお、有限会社の特別決議の要件は、「総株主の半数以上」であって「議決権を有する株主の半数以上」ではないため、議決権に関する種類株式や属人的株式を導入したとしても、この点には注意が必要でしょう。
これが株式会社であれば、株主が何名いても議決権の90%を保有するAだけの賛成で特別決議を通せるので、大きな違いと言えるでしょう。
株式会社へ組織変更(商号変更)する
有限会社の特別決議には「総株主の半数以上」の賛成要件があるため、有限会社の株式を複数の人・法人に渡したり、相続させるときはその点を考慮しておかないと想定と異なる結果が生じてしまうかもしれません。そうであれば、株主が何名いたとしても原則として議決権の3分の2以上を保有している株主だけで特別決議を通すことができる株式会社に組織変更(商号変更)しておくと、株式に関する対策を取りやすくなるためよろしいかと思います。