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RSM汐留パートナーズ・ニュースレター 2023年9月号

2023年9月1日

居住用の区分所有財産の評価・裁量労働時間制の改正について・外国人留学生の就職先拡大

日頃よりお世話になっております。RSM汐留パートナーズです。今月のニュースレターでは、税務より「居住用の区分所有財産の評価」、労務より「裁量労働時間制の改正」、行政書士法人より「外国人留学生の就職先拡大」について取り上げます。

厚生労働省は、8月2日に裁量労働制の改正に関する公表がありました。内容としては、企画業務型裁量労働時間制に加え、専門業務型裁量労働制についても、摘要について本人の同意が必要とされました。これに関連して、労使委員会の運営規程に追加すべき事項や、改正時期、労使協定・労使委員会で協議すべき内容についてもまとめていますので、裁量労働時間制を導入している・導入を検討している場合等には、是非ご参考ください。

 

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はじめに

国税庁は7月21日、マンションの相続税評価額の算定方法を新たに定める「『居住用の区分所有財産の評価について』の法令解釈通達(案)」の意見募集を開始しました。当該通達案は2024年1月1日以後の相続、贈与に適用される予定です。マンションについては、現行の通達評価額と市場売買価格との乖離が大きく、相続税の節税対策として利用する事例が増え、問題視されていました。令和5年度税制改正大綱においても、評価方法の適正化を検討する旨が明示され、その後3回に渡る有識者会議を経て、通達案の公表に至りました。今回は、通達案による新たな評価額算定方法、影響について見ていきたいと思います。

通達案における評価額算定方法と影響

現行のマンション一室の相続税評価額は、①建物部分と②敷地部分に分けて計算されています。通達案による評価では、①と②各々に「補正率」を乗じることで、現行の評価額と市場価格が著しく乖離している場合に調整が行われる形となっています(以下参照)。

マンション一室の相続税評価額

現行①建物の固定資産税評価額+②敷地全体の価額×共有持分(敷地権割合)
通達案①建物の固定資産税評価額×「補正率」+②敷地全体の価額×共有持分(敷地権割合)×「補正率」

「補正率」は「評価水準(1÷評価乖離率)」により、異なります。「評価乖離率」とは、次の算式により求めた値をいいます(居住用の区分所有財産の評価について(案)別紙2参照)。

評価乖離率=A+B+C+D+3.220
上記算式中の「A」、「B」、「C」及び「D」は、それぞれ次による。
「A」=当該一棟の区分所有建物の築年数×△0.033
「B」=当該一棟の区分所有建物の総階数指数×0.239(小数点以下第4位を切り捨てる。)
「C」=当該一室の区分所有権等に係る専有部分の所在階×0.018
「D」=当該一室の区分所有権等に係る敷地持分狭小度×△1.195(小数点以下第4位を切り上げる。)

評価乖離率の計算には、市場価格と現行の相続税評価額の乖離の主な要因と言われる「築年数」、「総階数」、「所在階」、「敷地持分狭小度」の4つの指標が組み込まれており、築年数が浅い場合、高層なマンションである場合、所有階が高層である場合、敷地持分狭小度が小さい場合には評価乖離率は大きくなります。

評価水準に従って適用される補正率と相続評価額への影響をまとめると以下の通りです。

評価水準
(1÷評価乖離率)
イメージ適用する補正率評価額への影響
1超相続税評価額>市場価格
(市場価格に対する相続税評価額の割合が100%超)
評価乖離率引下げ
0.6以上1以下相続税評価額≒市場価格

(市場価格に対する相続税評価額の割合が60~100%)

適用なし
∴調整不要
影響なし
0.6未満相続税評価額<市場価格
(市場価格に対する相続税評価額の割合が60%未満)
評価乖離率×0.6引上げ

相続税評価額が市場価格よりも小さい場合においても、市場価格の60%未満の場合を調整対象としています。即ち、市場価格の60%に満たない評価額は60%に達するまで補正する計算になります。これは戸建住宅の市場価格に対する相続税評価額の平均が60%である現状を踏まえ、戸建とマンションのバランスを取る目的によるものといえます。

おわりに

今回の通達案により、特にタワーマンションに対しては、相続税等が大幅に増加することが予想されています。上述通り、評価乖離率には複雑な計算を要するため、国税庁から計算ツールが提供される見込みではあるものの、早急に影響額を把握したい方も多いと思われます。ご不明点等ございましたら、弊社までお気軽にお問い合わせ下さい。

 

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令和6年4月以降の裁量労働時間制の改正について

8月2日、厚生労働省から「労働基準法施行規則及び労働時間等の設定の改善に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令等の施行等について(裁量労働制等)」とこれに関わる裁量労働制のQ&Aが公表されました。

概要

今回の改正では、専門業務型裁量労働制について本人同意が必要となり、同意の撤回についても定めることが必要となりました。また、企画業務型裁量労働時間制の労使委員会の運営規程や決議事項についての追加がありました。

本人同意・同意撤回

今回の改正により、企画業務型裁量労働時間制のみならず、専門業務型裁量労働制においても本人の同意が必要となります。同意をしなかった場合に不利益な取扱いをすることは禁止されます。
また、同意の撤回の手続と、同意とその撤回に関する記録を保存することも必要です。これらについて労使協定や労使委員会の決議に定めておく必要があります。

労使委員会の運営規程への追加

企画業務型裁量労働時間制の労使委員会の運営規程に、以下の事項を追加する必要があります。

  • 労使委員会に賃金・評価制度を説明すること
  • 労使委員会は制度の実施状況の把握と運用改善を行うこと
  • 労使委員会は6か月以内ごとに1回開催すること

時期について

上記は令和6年4月1日から施行されます。したがって令和6年3月末までには、上記について対応、労働基準監督署に協定届・決議届の届出を行う必要があります。

令和6年4月1日から労使協定や労使委員会で決議するべき内容

労使協定や労使委員会の決議で定めるべき事項は以下の通りとなります(下線部分が今回の制度改正による追加事項です)。

専門業務型裁量労働制の労使協定企画業務型裁量労働時間制
  1. 制度の対象とする業務
  2. 労働時間としてみなす時間(みなし労働時間)
  3. 対象業務の遂行の手段や時間配分の決定等に関し、使用者が対象労働者に具体的な指示をしないこと
  4. 対象労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置
  5. 対象労働者からの苦情の処理のため実施する措置
  6. 制度の適用に当たって労働者本人の同意を得ること
  7. 制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしないこと
  8. 制度の適用に関する同意の撤回の手続
  9. 労使協定の有効期間
  10. 労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、同意及び同意の撤回の労働者ごとの記録を協定の有効期間中及びその期間満了後5年間(当面の間は3年間)保存すること
  1. 制度の対象とする業務
  2. 対象労働者の範囲
  3. 労働時間としてみなす時間(みなし労働時間)
  4. 対象労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置
  5. 対象労働者からの苦情の処理のため実施する措置
  6. 制度の適用に当たって労働者本人の同意を得ること
  7. 制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしないこと
  8. 制度の適用に関する同意の撤回の手続
  9. 対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うこと
  10. 労使委員会の決議の有効期間
  11. 労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、同意及び同意の撤回の労働者ごとの記録を協定の有効期間中及びその期間満了後5年間(当面の間は3年間)保存すること

おわりに

今回の制度改正については、裁量労働制を導入しているすべての事業場で、令和6年3月末までに対応が必要となります。届出漏れがないようご注意ください。詳細については、厚生労働省の下記Webページをご確認ください。

裁量労働制の概要 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

 

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はじめに

2023年5月に一部報道で「専門学校卒の外国人留学生、就職先拡大「専攻に限定」秋にも緩和」との記事が出ました。外国人留学生を採用する企業、外国人留学生共に喜ばしい報道ですが現行のルールや緩和によりどのようになるのかを今回はみていきたいと思います。

専攻した科目と業務との関連性

現行のルールから見ていきましょう。例えば就労系の在留資格の代表格である「技術・人文知識・国際業務」において、日本で就労する外国人に求められる学歴要件の一部として大雑把に大学(学位取得)や日本の専門学校(専門士取得)の卒業を求められます。双方ともに学校において専攻した科目と日本で従事しようとする業務との関連性を求められます。一例をあげると大学でコンピューター工学を学んだ人が就職先においてプログラマーとなることです。しかしながら大学においては業務との関連性において「大学は学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用能力を展開させることを目的とし、また、その目的を実現するための教育研究を行い、その成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するとされており(学校教育法第83条第1項、第2項)、このような教育機関としての大学の性格を踏まえ、大学における専攻科目と従事しようとする業務の関連性については、従来より柔軟に判断しています(海外の大学についてもこれに準じた判断をしています。)」(出入国在留管理庁 『「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確化について』にあるように柔軟に判断されます。また高等専門学校においても大学に準じた判断をしております。

一方、専門学校では先行した科目と業務との関連性についてはこのような取扱いはなく、相当程度の関連性が必要とされております。ただし、関連性が認められた業務に3年程度従事した者については、その後従事しようとする業務との関連性については、柔軟に判断されます。

緩和によりどのような事が予想されるか

今までは相当程度の関連性を求められることから専門学校卒の外国人は日本で就職を希望する場合には就職先が硬直化されておりましたが、規制緩和により弾力性が生まれ、日本で就職を希望する方が一定数以上増えると思います。また人手不足が慢性化している日本社会において外国人採用を考えている企業は専門学校の卒業生もターゲットに入ってくることとなります。

おわりに

「従事する業務との関連性」という言葉を初めて聞いた方もいらっしゃると思います。単に大学を卒業していればよいという事でもなく、このようなルールがあるのです。この他、現場研修の可否など「技術・人文知識・国際業務」等の在留資格には注意しなければならない事項があります。何か気になることがあれば、些細な事でも構いませんのでご連絡いただければ幸いです。