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RSM汐留パートナーズ・ニュースレター 2024年4月号

2024年4月1日

定額減税の概要・固定残業代の有効性とポイント・非公開株式における黄金株式の設定

日頃よりお世話になっております。RSM汐留パートナーズです。

今月のニュースレターでは、税務より「定額減税の概要」、労務より「固定残業代の有効性とポイント」、司法書士法人より「非公開株式における黄金株式の設定」について取り上げます。

司法書士で取り上げる「黄金株式」は、拒否権付種類株式の別称です。これは株主総会や取締役会等において、拒否権付株式の保有者が承認しないと当該決議が成立しない仕組みを作ることが出来ます。創業者が後継者に対して発行済み株式の3分の2以上を譲渡した後も、創業者の意思を経営に反映させることが出来ます。

一方で後継者の士気に関わる可能性もありますので、取得条項の併用や属人的株式についても併せてまとめています。事業承継を検討している企業にとっては一つの選択肢となる論点かと思いますので、今月のニュースレターをご確認頂き、自社の見直しにお役立てください。

 

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はじめに

2024年度税制改正において、所得税と個人住民税の定額減税の実施が決定されました。これに伴い、2024年6月より、所得税の定額減税が実施されることとなり、企業の源泉徴収義務者は、従業員の給与等に係る源泉徴収や年末調整の事務において、特別な対応が必要となります。今回は定額減税の概要や減税方法について見ていきたいと思います。

定額減税の概要

定額減税とは、日本国内の経済状況に配慮し、国民の負担を軽減すべく、デフレ脱却の一時的な措置として、所得税や個人住民税から一律に一定額を控除する制度をいいます。

定額減税の対象者

定額減税の対象者は、日本の居住者で合計所得金額が1,805万円以下(給与収入のみの場合は給与収入2,000万円以下、子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除の適用を受ける場合は2,015万円以下)の人となります。所得税は2024年分、住民税は2023年分の合計所得金額にて判定します。

定額減税額

減税は基本的に2024年分の所得税と個人住民税を対象になされます。減税額については下表の通りですが、所得税と住民税では扶養家族の範囲に違いがあります。「同一生計配偶者」とは、納税者と生計を一にしており、かつ、合計所得金額48万円以下のものをいい、「控除対象配偶者」とは、同一生計配偶者のうち、納税者の前年の合計所得金額が1,000万円以下の配偶者をいいます。

減税額所得税個人住民税
本人30,000円10,000円
同一生計配偶者30,000円
控除対象配偶者10,000円
扶養親族(一人当たり)30,000円10,000円
控除対象配偶者を除く同一生計配偶者(2025年度分住民税から控除)10,000円

定額減税の実施方法

定額減税は所得の種類に応じて、以下の方法により実施されます。

①給与所得者

所得税2024年6月1日以降に支払われる給与等に対する源泉徴収税額から減税額を控除。特別控除額が異動する場合は年末調整時に清算。
個人住民税2024年6月の住民税特別徴収はなし。2024年7月~2025年5月まで減税額を控除した金額で特別徴収。

 

②事業所得者等

所得税第1期分予定納税額(7月)から本人分に係る減税額を控除。扶養家族に係る特別控除については、予定納税額の減税申請の手続が必要。予定納付がない場合は、2024年分確定申告時に減税。
個人住民税住民税決定通知書で減税額(扶養家族分を含む)が通知され、第1期分納付額(6月)から減税額を控除。

 

③公的年金等受給者

所得税2024年6月1日以降に支払われる公的年金等に対する源泉徴収税額から減税額を控除。特別控除額が異動する場合は2024年分の確定申告により清算。
個人住民税2024年10月1日以降に支払われる公的年金等にて減税額を控除した金額で年金特徴。

おわりに

今回は定額減税の概要や実施方法について見てみました。6月以降の定額減税実施に際して、スムーズに給与計算等に反映できるよう、事前に必要な書類等を周知、確認することが必要です。ご不明点等ございましたら、弊社までお気軽にお問い合わせ下さい。

 

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固定残業代の有効性とポイント

固定残業代制度は多くの企業が導入を行っています。しかし、過去の裁判例からは、その有効性が十分に認められていないケースもあります。裁判所は、固定残業代制が労働基準法第37条に照らし、割増賃金の支払いとして有効かどうかを判断しますが、固定残業代制が割増賃金の支払いとして不十分であるとなれば、企業側に甚大な金銭的デメリットをもたらす恐れがあります。

固定残業代制の導入を検討している、または既に導入している企業は、法的規定や裁判例を十分に把握し、自社に見合った制度を構築することが不可欠です。

それでは、固定残業代が有効とされるためのポイントを3つ解説していきます。

対価性と明確区分性

固定残業代の金額と、何時間分に対する残業代になるのかを明確に記載している必要があります。つまり、通常の労働時間に対する賃金と、残業時間に対する賃金が明確に分かれた雇用契約内容になっているかが重要です。

次の例を見てみましょう。
(1)基本給30万円(固定残業代含む)
固定残業代が何時間分の割増賃金に値するのか記載がありません。

(2)基本給30万円(残業時間30時間分を含む)
30時間分の残業に対して支払われるということは分かりますが、その残業代がいくらになるのかが示されていません。
残業1時間に対して、いくらの割増賃金が支払われるのか、という計算ができなければ固定残業代は認められません。

このように、通常の労働に対する賃金と残業に対する賃金とが明確に区分されていると言えるためには、労働者が実際に行った残業に見合った適切な賃金が支払われているかという対価性が必要となります。

就業規則への記載

固定残業代を導入する場合は、その計算方法等について就業規則に定める必要があり(労働基準法第89条2号)、固定残業代を支払うことで一定時間分の割増賃金を支払っていることを労働者に周知させなければいけません。

事前に設定された残業時間を超えた労働を行った場合、超過分を支払っている

上記の例でいうと、残業時間30時間分に対する固定残業代であれば、仮にその月の残業時間が35時間となってしまった場合、5時間の超過分を必ず支給しないといけません。「残業代が固定なのだから、何時間でも残業をさせていい」、「残業代は固定で支払っているから追加で払う必要はない」、といった考えは禁物です。

事前に設定された残業時間が過大でないこと

労働基準法上、会社が労働者に対して36協定の範囲で残業を命じることができる上限は、原則として月45時間までとされています。したがって、月45時間を大きく上回るような残業時間で設定してしまうと、法律の趣旨に反することになり、公序良俗に反して無効と判断される可能性があります。

ここまで、固定残業代が有効と認められるための要件を解説してきましたが、そもそも残業代の計算が正しく行われているということが前提です。自社の1時間あたりの給与額が正しく算出できるかどうか、最低賃金の観点からも見直ししてみましょう。

実際に計算する場合は、次の数値が必要です。
・年間休日日数(例:120日)
・年間所定労働日数(365-120=245日)
・1日の所定労働時間数(例:8時間)
・年間所定労働時間数(例:8時間×245日=1.960時間)
・月平均所定労働時間数(例:1.960÷12ヶ月=163時間)

これらをすべて把握した状態で、初めて残業代や固定残業手当としていくらの支払いが必要なのか計算が可能となります。

固定残業代としての効力が否認されると、これまでの残業代を未払い賃金として支給する必要が出てくる可能性があります。固定残業代を導入している(しようとしている)場合は、十分に留意して適切に運用するようにしてください。

 

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はじめに

公開会社でない株式会社(非公開会社)において、創業者等が、自身が有する株式の大部分を後継者に譲渡するのと並行していわゆる黄金株式を設定することがあります。定款に別段の定めのない非公開会社では、株主はその有する株式数に応じて株主総会における議決権を有しますので、後継者に発行済株式数の3分の2以上を譲渡すると、当該後継者のみで株主総会のほとんどの議案を決議することができるようになります。そこで、創業者等が株式の一部を譲渡した後も株主総会の決議内容をチェックすること等を目的として、黄金株式には一定のニーズがあります。

黄金株式とは

会社法には黄金株式という名前の株式はなく、主に会社法第108条第1項第8号の定め(拒否権)が付いた種類株式がそう呼ばれることがあります。拒否権が付いた株式とは、株主総会又は取締役会において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、拒否権付株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とすることを内容とする株式をいいます。創業者等が発行済株式の3分の2以上を譲渡した後も、この拒否権付株式を1株保有することで、創業者等の承認がないと当該決議が成立しない仕組みを作ることができます。株主総会又は取締役会において決議すべき事項の全てについて拒否権を設定すると意思決定のスピードが落ちる、あるいは後継者の士気にも関わってくるかと思いますので、特定の事項(役員の選任、組織再編等)についてのみ拒否権を設定することも考えられます。

取得条項を併用する

拒否権付株式はそれだけで株主総会又は取締役会の決議を通さないことができるため、非常に強力な株式といえます。この拒否権付株式が誰に渡るかは会社にとって重要な事項です。そのため、拒否権付株式を有する株主に一定の事項が生じたときは、強制的に発行会社が取得できる仕組みにしておくことでリスクを軽減することできます。一例として、拒否権付株式を有する株主が死亡したとき、後見開始の審判を受けたとき、発行会社の取締役を退任したとき、拒否権付株式の譲渡承認請求を発行会社に行ったとき等に、発行会社が別に定める日をもって、無償で取得することができるとしておくことが考えられます。なお、取得対価を有償とすることも当然に可能ですが、会社が自己株式を取得するときは分配可能額の制限がありますので、取得条項の発動時において会社に分配可能額がない場合も無償であれば会社が取得することができるというメリットがあります。

属人的株式

創業者等が株式譲渡後も自身のみをもって株主総会の決議を通したいのであれば、属人的株式(会社法第109条第2項の定め)を利用することも考えられます。発行済株式100株のうち創業者が10株、後継者が90株という保有割合であっても、創業者の有する株式を1株につき議決権100個と定款に定めると、議決権は創業者1000個:後継者90個となり、創業者が議決権の3分の2以上を有する状況を作ることができます。なお、創業者が誰かに株式を譲渡すると当該株式につき1株につき1議決権に戻るという特徴があります。

拒否権付株式同様に、出口をどのようにするかは属人的株式の設定時に検討し、それも組み込んでおくことをお勧めします。