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RSM汐留パートナーズ・ニュースレター 2025年6月号

2025年6月2日

基礎控除等の改正・労災保険のメリット制・無議決権株式導入時の注意点

日頃よりお世話になっております。RSM汐留パートナーズです。

今月のニュースレターでは、税理士法人より「基礎控除等の改正」、社会保険労務士法人より「労災保険のメリット制」、司法書士法人より「無議決権株式導入時の注意点」についてお届けします。

税理士法人では、年末調整や源泉徴収実務に影響する税制改正のポイントを、社会保険労務士法人では、安全管理と保険料の関係性を、司法書士法人では、種類株式に関する法的留意点をそれぞれ解説しています。

今月のニュースレターもぜひお役立てください。

 

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はじめに

2025年4月25日、国税庁は令和7年度税制改正に伴う所得税の基礎控除や給与所得控除、扶養控除等に関する確定情報を公表しました。当該税制改正は、低所得者層への減税措置と就労インセンティブの強化を目的としており、年末調整や源泉徴収事務に大きな影響を及ぼします。今回は、令和7年の年末調整における留意点と、令和8年以降の実務対応についてみていきます。

基礎控除・給与所得控除の見直し

基礎控除額は、合計所得金額に応じて段階的に引き上げられ、令和7・8年分に限り、下表の通り、最大95万円まで引き上げられますが、令和9年分以降は132万円以下の場合のみ95万円となり、それ以外は原則58万円の控除となります(従来は一律48万円)。また、給与所得控除の最低保障額も55万円から65万円に引き上げられ、年収190万円以下の給与所得者に恩恵が及びます。

合計所得金額基礎控除額
令和7・8年分令和9年分以降
132万円以下95万円
~336万円88万円58万円
~489万円68万円
~655万円63万円
~2350万円58万円

特定親族特別控除の創設と申告対応

新たに創設された「特定親族特別控除」は、19歳以上23歳未満で合計所得金額が58万円超123万円以下の親族(主に大学生等)を対象とし、最大63万円の追加控除が認められる制度です。控除を受けるには、国税庁が6月末頃に公表予定の基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除・特定親族特別控除を含む兼用様式の申告書を使用し、給与の支払者に提出する必要があります。

令和7年分年末調整における実務対応

年末調整では、改正後の控除額を反映して年間の所得税を再計算し、源泉徴収済額との差額を精算します。実務上は、従業員から提出される各種申告書(扶養控除等・基礎控除・配偶者控除・特定親族特別控除)を漏れなく受理・確認し、改正後の給与所得控除後の金額表に基づき年末調整を行い、源泉徴収簿や源泉徴収票の新様式にも適切に対応することが求められます。

令和8年以降の実務対応

令和8年からは、「扶養控除等申告書」の記載内容が変更され、「源泉控除対象親族」として新たに特定親族が加わります。また、月次源泉徴収時にも特定親族特別控除が反映されるようになり、源泉徴収税額表が改正されます。このため、給与計算ソフトや事務フローの見直し、年初の申告内容の確認が重要となります。

おわりに

今回の改正は、低所得者層にとって恩恵がある一方、控除額の段階化や様式変更により、年末調整や月次事務の煩雑さが増す側面もあります。随時更新される最新情報を確認の上、円滑な年末調整・源泉徴収事務を進めていきたいところです。ご不明点等ございましたら、弊社までお気軽にお問い合わせください。

 

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労災保険のメリット制とは?安全配慮と保険料の関係性

労災保険には、労働災害の発生状況に応じて保険料率が変動する『メリット制』という制度が存在します。この制度を理解し活用することで、労働災害の防止と保険料負担の軽減を両立することを目指しましょう。本記事では、メリット制の基本を解説していきます。

メリット制とは?

メリット制とは、個々の事業場における労働災害の発生状況を反映し、労災保険料率を調整する制度です。具体的には、過去の労災保険給付実績に基づき、労災保険料率を上下させる仕組みとなっています。

例えば、同じ建設業でも、労災事故が少ないA社は保険料率が下がり、多発するB社は保険料率が引き上げられます。
このように、メリット制は企業の安全管理への取り組みを評価し、その結果を保険料に反映させることで、企業に対し安全対策を強化するインセンティブを与えることを目的としています。

メリット制の適用条件

メリット制は、すべての事業場に適用されるわけではありません。適用されるのは、一定規模以上の事業場、または労働災害の発生状況によって保険料率が大きく変動する可能性のある事業場です。これは、中小規模の事業場では、労災保険料率の変動が経営に与える影響が大きいためです。

メリット制の適用の対象となる事業については継続事業では「事業の継続性」と「事業の規模」を同時に満たしていることが要件となります。詳細については厚生労働省HPを参照ください(rousaimerit.pdf)。

メリット収支率

メリット制の適用を受けるためには、「メリット収支率」を計算する必要があります。メリット収支率は、連続する3年度間における保険料額に対する、同じ期間の保険給付等の額の比率を基に厚生労働省で算定します。(※ここからはすべて「継続事業(一括有期事業)に絞って記載していきます」)。なお、メリット収支率の計算式は、以下のとおりですが分子・分母等についての詳細な計算方法については上記の厚生労働省HPを参照ください。

メリット収支率(%) = (保険給付等の額) ÷ (確定保険料 × 第一種調整率) × 100%

メリット制適用後の労災保険率(メリット労災保険率)

メリット制が適用された労災保険率(メリット労災保険率)は、「メリット収支率」及び「収支率表」により算定されます。具体的には、

  1. メリット収支率が 75%以下の時には、その値が小さいほど、労災保険率が低くなります。(最大 40%の割引)
  2. メリット収支率が 85%以上の時には、その値が大きいほど、労災保険率が高くなります。(最大 40%の割増)
  3. メリット収支率が 75%超え 85%以下の時には、労災保険率の増減はありません。

「メリット労災保険率」は「労災保険率決定通知書」に記載され、管轄の都道府県労働局歳入徴収官から、「労働保険年度更新申告書」に同封してメリット制が適用される事業場の事業主に通知されます。

メリット制を活かして安全な職場へ

メリット制は、企業に『安全はコスト削減に繋がる』という意識を根付かせる制度ともいえます。労働災害による直接的な損害はもちろんのこと、事故対応や職場の士気低下といった見えにくいコストを削減することの重要性を再認識し、日々の業務における『ヒヤリ・ハット』やリスクに対する感度を高めることが求められています。メリット制を単なる保険料の算定制度として捉えるのではなく、安全文化を醸成する第一歩として見直し、安全投資が持続的な成長の基盤となることを再認識しましょう。

 

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はじめに

株式会社は、会社法第108条第1項に基づき、株主総会において議決権を行使することができる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができます。株主総会において議決権を有さない種類株式は「無議決権株式」等と呼ばれており、出資はするけれども株主総会の議決権行使や経営に興味のない(口出しをしない)出資者に対して用いられることがあります。議決権を有さない、あるいは無議決権というワードから、この種類株式を有する株主は株主総会だけでなく種類株主総会においても一切の議決権がないという誤解が生じることがあります。ここでは普通株式(株主A)と株主総会において議決権を有さない無議決権株式(議決権に関する事項以外に特段の定めなし、株主B)を発行している株式会社Xの事例を見ていきます。

無議決権株式と株主総会

株式会社Xでは、株主Bは株主総会において議決権を有しないため、取締役の選任や取締役の報酬決定、商号の変更や計算書類の承認等に係る株主総会の決議は株主Aのみで決議することができます。この状況を作るために、株式会社Xは無議決権株式を導入しているといえます。

種類株主総会の決議

無議決権株式を有する株主が議決権を行使することができない株主総会には、種類株主総会は含まれません。無議決権というワードから種類株主総会を含む全ての株主総会において議決権を有さないものと誤解されてしまうことも少なくありませんが、株主Bは、無議決権株式に係る種類株主総会では議決権を有しています。

次に、種類株主総会の決議が必要となるケースがあることや、無議決権株式に係る種類株主総会において株主Bに議決権があることは知っているけれども、定款で種類株主総会の決議を不要と定めているから問題ないと誤解されることもあります。種類株主総会の決議が必要な場面は限られており、会社法第199条第4項、会社法第238条第4項、そして会社法第322条第1項等による場面です。このうち、会社法第322条第1項第1号に掲げる行為をする場合は、定款にどのような定めをしても種類株主総会を排除することができません。つまり、株主Bに損害を及ぼすおそれがある種類株式の追加、種類株式の内容変更、発行可能(種類)株式総数を変更するときは、無議決権株式に係る種類株主総会の決議も必要となり、無議決権株式という名称であるにも関わらず、この点において株主Bには拒否権が与えられていることになっています。

種類株主全員の同意

種類株式は発行後に、当該種類株式に対して取得条項を設けたり、会社法第322条第1項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨の定めを設ける等の一定の場合は、無議決権株式の株主全員の同意が求められます。そのため、最初の設計の段階からこれらを検討しておく必要があります。

みなし報告の対象

会社法第320条のみなし報告を行う場合、会社法第319条第1項と異なり、その同意を得る対象が議決権を有する株主に限定されていないため、株主Bもその同意を得る対象となるという見解もあるところです。

上記のような特徴を理解した上で、無議決権株式を導入・採用することをお勧めします。