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藤井 淳平 Jumpei Fujii

この記事の著者

藤井 淳平 Jumpei Fujii

ディレクター  / 税理士

【税務Q&A】無対価吸収分割と税制適格要件について

2025年1月15日

質問

B社はA社から単独新設分社型分割によって、A社の事業の一部を承継して設立された会社です。そのため、B社はA社の100%子会社となります。

この度、A社がB社に移管した事業を戻すべく、B社を 分割法人、A社を分割承継法人とする吸収分割を行い ます。また、当該会社分割は無対価(資産負債を譲り受けるA社側では、新株発行その他いかなる対価も支払わない)による吸収分割を想定しています。

当該吸収分割が税制適格要件を満たす会社分割(適格分割)に該当するかご教示ください。

回答

本件の吸収分割は、分割前にA社がB社の発行済株式を全て所有する完全支配関係下にあり、且つ無対価分割であることから、金銭等不交付要件及び完全支配関係継続要件を満たしているため、適格分割に該当すると判断できます。

重要用語

質問及び回答で言及されている「会社分割」「新設分割」「吸収分割」「分社型分割」「分割型分割」「適格分割」などの用語は、組織再編税制における考察を進める上で重要な要素です。ここで簡単に確認しておきたいと思います。

会社分割

会社の事業の一部又は全部を他の会社に承継する組織再編の一形態です。ここで、事業を他の会社に承継させる会社を「分割法人」、分割法人から事業を承継する会社を「分割承継法人」といいます。

会社分割は、事業を移転する先の会社によって以下の2つに分類されます。

  • 新設分割

    既存の会社(分割会社)が、新たに設立する会社(新設会社)にその事業の一部又は全部を承継する形式。

  • 吸収分割

    既存の会社(分割会社)が、他の既存の会社(分割承継会社)にその事業の一部又は全部を承継する形式。

また、分割時に分割承継法人の株式が誰に交付されるかによって、以下の2つに分類されます。

  • 分割型分割

    分割法人の株主に分割承継法人の株式が割り当てられる形式。

  • 分社型分割

    分割法人自体に分割承継法人の株式が割り当てられる形式。

以上より、会社分割は以下の4つの形式に大別することができます。

  • 新設分社型分割
  • 新設分割型分割
  • 吸収分社型分割
  • 吸収分割型分割

適格分割

適格分割とは、一定の要件(税制適格要件)を満たした場合に、分割法人の資産や負債を分割承継法人に簿価で移転でき、事業移転に伴う譲渡損益が繰延べられる税制優遇措置が適用される会社分割を指します。

会社分割の税制適格要件は、分割法人と分割承継法人の間の支配関係によって異なり、以下の3つのパターンに分類されます。

完全支配関係支配率100%

一の者(法人・個人)が他法人の発行済株式のすべてを直接又は間接に保有する関係をいいます。

【適格要件】

  • 金銭等不交付要件

    対価として金銭やその他の資産を交付しないこと。ただし、分割承継法人の株式やその完全親会社の株式の交付は認められる。

  • 完全支配関係継続要件

    分割前後で完全支配関係が継続していること。

完全支配関係支配率50%超~100%未満

分割承継法人が分割法人の発行済株式の50%超から100%未満を保有している関係をいいます。

【適格要件】

  • 金銭等不交付要件

    対価として金銭やその他の資産を交付しないこと。ただし、分割承継法人の株式やその完全親会社の株式の交付は認められる。

  • 主要資産等引継要件

    移転する事業の主要な資産・負債を引き継ぐこと。

  • 従業員引継要件

    分割事業に関わる従業員の80%以上を引き継ぐこと。

  • 事業継続要件

    分割事業を継続する見込みがあること。

  • 支配率維持要件

    50%超~100%未満の持株比率を維持すること。

共同事業支配率50%未満

分割法人と分割承継法人とが共同で事業を行うための分割をいいます。

【適格要件】

  • 金銭等不交付要件

    対価として金銭やその他の資産を交付しないこと。ただし、分割承継法人の株式やその完全親会社の株式の交付は認められる。

  • 主要資産等引継要件

    移転する事業の主要な資産・負債を引き継ぐこと。

  • 従業員引継要件

    分割事業に関わる従業員の80%以上を引き継ぐこと。

  • 事業継続要件

    分割事業を継続する見込みがあること。

  • 事業関連性要件

    分割する事業と承継会社の事業に関連性があること。

  • 事業規模要件又は特定役員引継要件(選択要件)

    一定の事業規模を超えないこと、又は双方の役員が経営参画すること。

  • 株式継続保有要件

    分割承継法人の株式が継続して保有されること。

このように、会社分割における税制適格要件は、分割法人と分割承継法人の間の支配関係によって異なります。完全支配関係では比較的簡潔な要件を満たすだけで適格分割と認定されますが、支配関係や共同事業の場合は追加要件が求められます。

質問に対する判断

本件に当てはめて税制適格要件を考えると、以下の通りです。

1. 完全支配関係下の分割型分割に該当

分割承継法人であるA社は、分割前に分割法人であるB社の発行済株式のすべてを所有しているため、法人税法上の「完全支配関係」に該当します(法人税法2条第12号の7の6)。また、無対価分割であり、分割直前に分割承継法人が分割法人の発行済株式をすべて保有している場合、この会社分割は分割型分割と規定されています(法人税法2条第12号の9ロ)。

2. 金銭等不交付要件を充足

本分割では、A社から対価(株式や金銭)の交付が一切行われない無対価分割です。そのため、金銭等不交付要件を当然に満たしています。

3. 完全支配関係継続要件を充足

完全支配関係下で行われる分割型分割では、分割承継法人が分割法人の株式をすべて保有していることが要件となります。本件では、分割前にA社がB社の株式をすべて保有している分割型分割であることから、この要件を満たしています(法人税法施行令第4条の3第6項1号イ)。

4. 税制適格分割に該当

上記により、完全支配関係における税制適格要件の2要件を満たしているため、本件の無対価吸収分割は税制適格分割に該当すると判断できます。

国内税務Q&A_無対価吸収分割と税制適格要件について

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