断続的に続く在留資格「経営・管理」の要件緩和・制度の創設について
2024年6月6日
はじめに
在留資格「経営・管理」は経営者に関しては学齢や職歴の要件がないせいか、審査期間も他の在留資格にくらべ長く、審査のポイントも独特なものがあります。また出入国在留管理庁の統計によると2022年の「経営・管理」の在留資格認定証明書交付者数は3,354人と一般の会社員向けの在留資格である「技術・人文知識・国際業務」の30,903人と比べても非常に少ない数字です(会社員の向けの在留資格には「企業内転勤」、「高度専門職」などもあります)。もちろん、会社員の数に比べ経営者の数が少ないということもありますが、「経営・管理」の要件または審査が厳しいということあらわしている一部と捉えることができます。このように厳しく審査が行われてきた「経営・管理」が昨今、緩和傾向にあります。今回はすでに緩和されたものから現在検討中のものまで「経営・管理」の要件の緩和・制度の創設について皆さんにご紹介できればと思います。
新株予約権の発行により調達した資金について
「経営・管理」を申請する際には事業の規模に関する要件が求められます。一般的に「資本金が500万円以上」というものが周知されていると思います。正確には以下のいずれかの要件を満たすこととされています。
- 日本に居住する2人以上の常勤の職員(「技術・人文知識・国際業務」など法別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者を除く)を雇用すること
- 資本金の額又は出資の総額が500万円以上であること
- 1又は2に準ずる規模であると認められること
この度は2の資本金について以下の両方の条件をみたした新株予約権により調達された資金が計上できるものとして緩和されました。
- 新株予約権の発行によって払い込まれた、返済義務のない払込金であること
- 上記①の払込金について、将来、新株予約権が権利行使されることで払込資本となる場合及び権利行使されずに失効し利益となる場合のいずれかであっても、資本金として計上することとしていること
スタートアップで普及するJ-KISS型の新株予約権は迅速に資金調達が可能な手段であり、一定の事業の継続性が担保できるため資本金の一部として認められております。
エンジェル投資家を含む投資家について
令和5年6月16日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」によると英国等の諸外国の事例を参照し、国家戦略特区の枠組みも活用しつつ、資産額やスタートアップへの投資実績等を基に、一定額を日本国内に投資すること等を要件として、投資家(エンジェル投資家を含む)向けビザの創設を検討するとしました。また、令和5年12月26日国家戦略特区諮問会議においてスタートアップ企業への海外からの投資を呼び込むため、諸外国の事例を参照しつつ、資産額やスタートアップへの投資実績等を基に、一定額を日本国内に投資すること等を要件として、投資家(エンジェル投資家を含む)向けビザの創設を検討するとしております。
これらは画期的な事だと言わざるを得ません。なぜなら今まで「経営・管理」の在留資格に単なる投資は経営活動として認められていませんでした。それが投資家としての活動が国家戦略特区によって認められようとしているからです。
国家戦略特区は仙北市、仙台市、新潟市、東京圏(東京都、神奈川県、千葉市、成田市)、愛知県、関西圏(大阪府、兵庫県、京都府)、養父市、広島市・今治市、福岡市・北九州市、沖縄県がありますが、対象となる特区は東京、大阪、福岡、札幌などが手を挙げている段階です。特区での実績を踏まえて正式な在留資格として新設するのか検討されることになるでしょう。
内閣府の資料をもとに現在検討されている主な要件を紹介したいと思います。
実績要件:①②のどちらも必要
- 経営・管理領域での実務経験、若しくは投資家としての実績があること
- スタートアップの有する技術、アイデアを目利きする能力があること
以下の経歴により判断
- 特定分野での実績(特定分野での実務経験、投資家経験、起業実績、研究実績)
- 表彰歴・知名度(受賞歴、メディア掲載実績、特定分野の協会役員等)
- 信頼のある人物からの推薦
資産要件:
一定額以上の資産があること
投資額要件:
一定額以上を投資する計画があること(数千万円~1億円程度)
居住要件:
特区における住民登録が必要
投資先要件:
特区内に拠点を設けるスタートアップ
適格要件:
投資家の身分確認として無犯罪証明書を提出
投資・育成計画:
都内のスタートアップの成長促進に向けた活動ビジョンを示していること
SU育成:
投資先へ助言等を行い、スタートアップを支援すること
今後検討されている要件の緩和
2023年10月には出入国在留管理庁が在留資格「経営・管理」について事業所や出資金がなくても、起業の準備期間として2年間の在留が認められることを柱とする調整に入ったと新聞報道がありました。「経営・管理」に求められる要件として出資金については前述したとおり、資本金等500万円以上等が求められるほか、事業所の確保も求められてきました。事業所の確保については実務上、申請時にはオフィスを賃貸もしくは所有している必要があり、新設の会社で「経営・管理」の申請者以外に従業員等がいない場合において等は審査期間が長引けば長引くほど賃料の空払いが続くなどの問題がありました。
また似たような制度で国家戦略特区を利用したスタートアップビザ(創業人材等の多様な外国人の受入れ促進)があり、同様に事業所の確保や会社の設立等を6カ月後までに基準を満たす見込みがあれば、入国を可とする制度もあります。