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藤井 淳平 Jumpei Fujii

この記事の著者

藤井 淳平 Jumpei Fujii

ディレクター  / 税理士

【税務Q&A】税制適格ストックオプションに係る事例 ③

2024年10月11日

質問

A社は、自社の執行役員(委任型)に対してストックオプションを発行する予定です。当該ストックオプションは税制適格ストックオプションとして認められるでしょうか。

【前提条件】

対象となる執行役員は経理部長の立場にあり、経営会議等への参加はなく、経営に従事していない。

回答

当該執行役員は、租税特別措置法第29条の2における税制適格ストックオプションの付与対象者になり得る「使用人」に含まれると解釈できます。したがって、税制適格ストックオプションの他の要件(無償発行、権利行使期間、権利行使価額、権利行使限度額、譲渡禁止など)を満たす場合は、税制適格ストックオプションとして認められると判断できます。

税制適格ストックオプションの付与対象者

個別論点の考察に入る前に、税制適格要件の1つである付与対象者について掘り下げて見てみたいと思います。

租税特別措置法第29条の2第1項では、税制適格ストックオプションの付与対象者を、「発行会社およびその子会社の取締役・執行役・使用人であること」と規定しています。

これらを基本として、付与対象者に関する留意点は以下の通りです。

  1. 監査役は付与対象者から除外されます。
  2. 原則として、社外の人材は付与対象者から除外されますが、後述する例外規定があります。
  3. 大口株主も一定の条件下で付与対象者から除外されます。

【社外高度人材の例外】

②の例外として、社外高度人材が挙げられます。税制改正を経て、一定の条件下で社外の高度人材も税制適格ストックオプションの対象となりました。この改正は、スタートアップ企業が社外の高度人材を機動的に獲得し、成長することを後押しするものです。

税制優遇措置を受けるためには、(1)認定対象企業に対する要件、(2)社外高度人材に対する要件、(3)専門性と貢献内容の関連性の3つの観点から各々の要件を満たす必要があります。以下にその主なものを示します。(詳細は、経済産業省:ストックオプション税制に関する認定制度(社外高度人材活用新事業分野開拓計画)を参照)

(1)認定対象企業に対する要件(全て満たすこと)

  • 設立10年未満
  • 資本金10億円以下、又は従業員数2,000人以下
  • 非上場
  • ハンズオン支援を行うベンチャーキャピタル等からの出資がある
  • 大規模法人グループの所有に属さない

(2)社外高度人材に対する要件(いずれかを満たすこと)

  • 高度な資格:博士号の保有や、国家資格(弁護士・会計士など)の取得者
  • 実務経験:上場企業での経営経験、または特定分野での実務経験(取締役、執行役員等)
  • 先端分野への貢献:新規事業分野の開発や、革新分野(イノベーション)に貢献できる人材
  • 過去の業績:過去10年間に製品開発や販売、調達業務に2年以上従事した実績があること

(3)専門性と貢献内容の関連性(いずれかを満たすこと)

  • 製品・サービスの開発に貢献すること
  • 事業拡大や販路拡大に貢献すること
  • 組織拡大に伴うガバナンス体制構築等に貢献すること

その上で、申請企業は「社外⾼度⼈材活⽤新事業分野開拓計画」を策定し、主務⼤⾂による認定を受ける必要があります。

【大口株主の制限】

③に示した、付与対象者から除外される大口株主は、以下の通りです。

  • 未上場会社の場合:発行済株式総数の1/3(33.3%)超を保有する大口株主
  • 上場会社の場合:発行済株式総数の1/10(10%)超を保有する大口株主

また、これらの大口株主の特別関係者(親族や配偶者など)も対象から除外されます。この制限は、ストックオプション制度の本来の目的である従業員等へのインセンティブ付与を確保し、大口株主による制度の濫用を防ぐために設けられていると考えられます。

質問に関する判断

A社が自社の執行役員に発行するストックオプションが、税制適格ストックオプションに該当するか否かの判断は、当該執行役員が税制適格ストックオプションの付与対象者として認められるかどうかがポイントとなります。これについては、以下のように考察されます。

「使用人」の解釈

租税特別措置法第29条の2における「使用人」の範囲は明確に定義されていませんが、一般的には会社に雇用されている従業員を指すと解釈されています。税務上問題となるのは、主に「役員」の範囲で、対象者が税務上の役員(みなし役員を含む)に該当しない限り、「使用人」に含めて解釈できます。

執行役員の位置づけ

執行役員は会社法上の機関ではなく、租税特別措置法第29条の2で規定されている「取締役」や「執行役」には該当しません。多くの場合、執行役員は従業員としての地位を保持しながら、一定の経営責任を負う立場にあります。よって、基本的に「使用人」に含めて差し支えないと考えられます。

経営への関与度

執行役員が会社の経営に実質的に従事する立場にある場合、税務上の役員(いわゆる「みなし役員」)と判断される可能性があります。しかし、本件の執行役員については、以下の点から「使用人」に含められると解釈できます。

  • 経理部長の立場にあり、特定の部門の責任者である
  • 経営会議等への参加がなく、全社的な意思決定に関与していない
  • 経営に直接従事していない

以上のことから、当該執行役員は税務上の役員(みなし役員を含む)には該当せず、「使用人」として扱うことが適切だと判断できます。したがって、税制適格ストックオプションの付与対象者として認められると判断できます。

ただし、税制適格ストックオプションとして認められるためには、付与対象者の要件に加え、他の要件(無償発行、権利行使期間、権利行使価額、権利行使限度額、譲渡禁止など)も全て満たす必要があります。

国内税務Q&A_税制適格ストックオプションに係る事例③

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