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藤井 淳平 Jumpei Fujii

この記事の著者

藤井 淳平 Jumpei Fujii

ディレクター  / 税理士

【税務Q&A】非上場株式譲渡時における税務上の時価

2024年11月12日

質問

非上場会社であるA社の社長であるB氏が、発行済株式の55%を保有しています。この度、B氏が保有する株式を新設する資産管理会社へ譲渡することになりました。この際の株式の税務上の時価の算定方法について教えてください。

【前提条件】

  • 新設する資産管理会社は、B氏が100%株式を保有し、代表を務める会社である。
  • A社は従業員数が70人以上であり、財産評価基本通達178における「大会社」に該当する。
  • A社株式の売買実例は存在しない。

回答

A社にとってB氏は中心的な同族株主であり、譲渡先が同族関係者に該当する資産管理会社であることから、A社株式は「小会社」として評価すべきと判断されます(所得税法基本通達59-6、法人税法基本通達9-1-14)。

具体的には、以下のいずれかの評価方法で、より低い価額を採用することができます。

  1. 純資産価額方式
  2. 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式(類似業種比準価額50%+純資産価額50% )

非上場株式譲渡時における税務上の時価

非上場株式の税務上の時価とは、市場で取引されていない株式の適正価値を算定するための基準価格をいいます。非上場株式は株式市場に上場していないため、株価が公開されておらず、市場価格に基づいた評価が困難です。そのため、税務上の時価を算定する際には、会社の財務状況や事業の収益力を考慮した特定の評価方法が用いられます。

税務上の時価を考慮する理由

非上場株式を譲渡する際に、税務上の時価が重要となる理由は以下の通りです。

みなし譲渡課税のリスク

譲渡価額が時価よりも低い場合、売手(個人)には実際に得ていない利益に対して課税されることがあります。これをみなし譲渡課税と呼びます(所得税法第59条)。

受贈益課税のリスク

買手(法人)が時価よりも低い価額で株式を取得した場合、その差額について受贈益課税が課される可能性があります(法人税法第22条第2項)。

非上場株式の評価方法の決定手順

本件について具体的に考察する前に、非上場株式の税務上の時価算定方法について、一般的にどのような手順で決定されるのかを見ていきたいと思います。

  1. 売買実例の確認

    最近の適正と認められる売買価額がある場合、それを採用。

  2. 公開途上の株式の確認

    公開途上の場合、公募価格等を参考に評価。

  3. 株主の区分

    同族株主か少数株主かを判定。

  4. 評価会社の規模区分

    財産評価基本通達178に基づき、評価会社を「大会社」「中会社」「小会社」に分類。

  5. 評価方法の選択

    種類原則容認
    大会社類似業種比準方式純資産価額方式
    中会社類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式純資産価額方式
    小会社純資産価額方式類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式
    少数株主配当還元方式大・中・小会社の区分に応じた原則的評価方法
  6. 特定資産の評価

    土地や上場有価証券などについては時価評価が必要。

⑤で挙げられている「類似業種比準方式」「純資産価額方式」「配当還元方式」についてこちらで説明します。

類似業種比準方式

  • 評価対象会社と事業内容が類似している上場会社の株価を参考に株価を算定する方法
  • 類似業種の上場企業の株価平均に、配当、利益、純資産の3要素を比較して調整を加える(財産評価基本通達180)。
  • 主に大会社や中会社に適用されることが多い。

純資産価額方式

  • 会社の純資産額を基に株式価値を算定する方法。
  • 会社の資産から負債を差し引いた純資産額を発行済株式数で割り、1株当たりの価額を算出する。
  • 主に小規模な会社や財産保有会社に適用されることが多い。
  • 会社の清算価値に近い評価額となる傾向がある。

配当還元方式

  • 将来の配当収入を現在価値に割り引いて株式価値を算定する方法。
  • 少数株主が保有する株式評価に多く用いられる。
  • 配当実績がない、又は低配当の場合は適用が難しい。

質問に関する判断

本件において、売手(B氏)と買手(資産管理会社)によるA社株式の税務上の時価評価は、「所得税法基本通達23~35共-9」及び「法人税法基本通達4-1-5」に基づいて行われます。

売買実例価額が存在しない場合、評価は「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して、通常取引されると認められる価額」によって行われます。

この「純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」の算定に際しては、通常の評価とは異なる条件が「所得税法基本通達59-6」及び「法人税法基本通達9-1-14」によって定められています。

本件では、株式を譲渡するB氏と譲渡を受ける資産管理会社が同族関係にあり、譲渡後もA社の議決権の50%超を保有することが見込まれます。そのため、A社は「小会社」として評価されます。

  1. 純資産価額方式
  2. 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式(類似業種比準価額50%+純資産価額50%)

このように、B氏と資産管理会社が同族関係者であり、A社の株式譲渡に関しては「小会社」としての評価を行うことで、適切な時価算定が求められます。

これにより、税務上の時価を適正に反映した取引が実現され、所得税及び法人税の整合性が確保されると考え られます。

国内税務Q&A_非上場株式譲渡時における税務上の時価

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