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藤井 淳平 Jumpei Fujii

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藤井 淳平 Jumpei Fujii

ディレクター  / 税理士

【税務Q&A】種類株式発行時の非上場株式の税務上の時価 及び税制適格ストックオプションの権利行使価額

2024年12月10日

質問

非上場会社であるA社は、普通株式と種類株式(無議決権株式)を発行しており、直近で種類株式の発行により資金調達を行いました。以下の2つの論点について教えてください。

個別論点①

A社の社長であるB氏は、自身が保有する普通株式(株式保有割合は55%)を、新設する資産管理会社に譲渡することとしました。この際の株式の税務上の時価の算定方法について教えてください。

個別論点②

A社のように普通株式と種類株式を発行している法人が、普通株式を対象とする税制適格ストックオプションを発行する際の権利行使価額として使用する税務上の時価の算定方法について教えてください。

【前提条件】

  • 新設する資産管理会社は、B氏が100%株式を保有し、代表を務める会社です。
  • A社は従業員数が70人以上で、財産評価基本通達178における「大会社」に該当します。

回答

個別論点①

A社では、種類株式により直近で資金調達を行っていますが、譲渡対象となる普通株式については売買実例がないため、売買実例のない株式として評価することになります。

また、A社にとってB氏は中心的な同族株主であり、譲渡先の新設資産管理会社はB氏が100%株式を保有し、代表を務める同族関係者に該当するため、A社株式は「小会社」として評価すべきと判断されます(所得税法基本通達59-6、法人税法基本通達9-1-14)。

評価方法としては以下の2つがあり、いずれか低い価額を採用することが求められます。

  1. 純資産価額方式
  2. 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式(類似業種比準価額50%+純資産価額50% )

個別論点②

A社が普通株式を対象とする税制適格ストックオプションを発行する際の権利行使価額として使用する税務上の時価は、取引相場がないことから、財産評価基本通達に基づき、類似会社の株価や純資産価額を基に算定することが可能です。その際の手順は以下の通りです。

  1. 財産評価基本通達に基づき、類似業種比準方式、純資産価額方式、又は併用方式を使用してA社全体の株式価値を算定
  2. 純資産価額方式を採用する場合、全体価値から種類株式の価値を控除し、普通株式の残余価値を算定
  3. 普通株式の残余価値を普通株式の発行済株式数で割り、1株あたりの時価を算出
  4. 算出した普通株式の時価以上の価格を権利行使価額として設定

種類株式とは

本件について具体的に考察する前に、質問及び回答にて言及されている「種類株式」について簡単に確認します。

種類株式とは、会社法(第108条)に基づき、普通株式とは異なる権利内容が設定された株式を指します。配当、残余財産の分配、議決権、譲渡などに関する事項に特典(優先)又は制限を柔軟に設計することが可能であり、企業の資金調達の効率化や経営権の安定化を目的に利用されることが多いです。例えば、新規投資家に対して高い配当を保証するための「優先株式」を発行したり、経営権を守るために「無議決権株式」を発行することなどが考えられます。

種類株式の主な種類としては、①剰余金の配当に関する種類株式、②残余財産の分配に関する種類株式、③議決権制限株式、④譲渡制限株式、⑤取得請求権付株式、⑥取得条項付株式、⑦全部取得条項付種類株式、⑧拒否権付株式、⑨役員選任権付株式があります。ただし、委員会設置会社及び公開会社では、⑨役員選任権付株式の発行はできません。

質問に関する判断

個別論点①

(1) 売買実例の判断

A社は直近で種類株式の発行により資金調達を行っていますが、このように種類株式が発行されている会社の場合に株式の種類ごとに売買実例の有無を考えてよいかが論点となります。この点、株式の種類ごとに売買実例の有無を判断することは、財産評価基本通達や国税庁の見解に照らして適切と考えます。

本件に関しては、普通株式の取得者(資産管理会社)と種類株式の取得者が利害関係のない純然たる第三者であることが前提ですが、権利内容の差異やそれぞれの立場(経営的参画・資本的参画)による経済的合理性を勘案すれば、種類株式と普通株式を独立して評価することに問題ないものと判断できます。

なお、国税庁の所得税基本通達の解説の(4)イ(注)(https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/kaisei/230707/pdf/03.pdf)においても、株式の種類ごとの独立評価が認められています。

よって、A社では、種類株式については直近で売買実例がありますが、普通株式については売買実例がないため、「売買実例なし」として評価することで問題ないものと考えます。

(2) 会社規模の判定と同族関係の考慮

財産評価基本通達178は、大会社、中会社、小会社の区分を定めています。A社は従業員数70人以上の「大会社」に該当しますが、A社にとってB氏は中心的な同族株主であり、譲渡先が同族関係者に該当する資産管理会社であることから、A社株式は「小会社」として評価すべきと判断されます(所得税法基本通達59-6、法人税法基本通達9-1-14)。

(3) 評価方法の選択

財産評価基本通達179は、小会社の株式評価について、純資産価額方式又は類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式のいずれか低い価額によって評価すると規定しています。

以上より、A社普通株式は売買実例のない株式、且つ「小会社」として、純資産価額方式又は類似業種比準 方式と純資産価額方式の併用方式(類似業種比準価額50%+純資産価額50%)のいずれか低い価額で評価するものと判断できます。

個別論点②

(1) 税制適格ストックオプションの権利行使価額の要件

税制適格ストックオプションでは、権利行使価額は発行時の時価以上である必要があります(租税特別措置法29条の2)。

(2) 評価方法の選択

取引相場のない株式の場合、この時価は財産評価基本通達の例(類似業種比準方式、純資産価額方式、併用方式のいずれか)により算定することができます。

(3) 類似業種比準方式を採用する場合

算出された評価額をそのまま用いることが可能であり、それ以上の論点はないものといえます。

(4) 純資産価額方式を採用する場合

種類株式と普通株式が発行されている場合、以下の手順で普通株式の時価を算出します。

  1. 純資産価額を基にA社全体の株式価値を算定
  2. ①の全体価値から種類株式の価値を控除
  3. ②で算出した普通株式の残余価値を普通株式の発行済株式数で割り、1株当たりの普通株式の時価を算定

この方法では、種類株式の特権を考慮するため、普通株式の価額が株式譲渡時の単純な純資産価額評価と異なる可能性があります。(「 ストックオプションに対する課税 (Q&A)」問9参照)。

また、純資産価額は通常、直前期末基準で算定しますが、ストックオプション付与契約日が直前期末から6ヶ月以上経過し、その間に純資産価額に大きな変動があった場合などには、仮決算を組んで算定する必要があります。

種類株式の存在が時価与える影響

本件より、種類株式発行会社における普通株式の税務上の時価を算定する際に「純資産価額方式」を採用する場合、株式譲渡時と税制適格ストックオプション発行時では、以下の違いがあることがわかります。

株式譲渡時:

純資産価額から種類株式の価値を控除することなく、単純に算出された純資産価額を用いることが可能。

税制適格ストックオプション発行時:

「純資産価額-種類株式の価値」という形で配当優先権や残余財産分配権などの種類株式の影響を普通株式の価値から控除する形で反映。

よって、両者において同じ「純資産価額方式」を用いた場合でも、評価の目的により計算方法が異なることに注意が必要といえます。

国内税務Q&A_種類株式発行時の非上場株式の税務上の時価及び税制適格ストックオプションの権利行使価額

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