日本国外に転出する際に課せられる出国税(国外転出時課税制度)の概要と納税猶予制度
2023年10月10日
正式には「国外転出時課税制度」といい、既に2015年度の税制改正において導入され、2015年7月1日から適用されています。国外に転出する1億円以上の株式などを有する資産家などを対象に、その含み益に対して所得税を課税するという制度です。
改正以前は租税条約上、一定の場合を除き、株式などを売却して得られた利益に対する課税権は売却した者が居住している国にあるとされていました。そのため、大きな株式などの含み益を有する個人がシンガポールや香港などの非課税国に出国し、その後に株式などを売却することで課税を逃れるケースが多々あり、このような租税回避行為は問題視されていました。
「国外転出時課税制度」の概要
① 課税対象となる場合
日本居住者である個人が国外転出する場合のほか、贈与・相続・遺贈により含み益を有している株式などを日本非居住者に譲渡させた場合も含まれます。
ここでいう国外転出とは、日本国内に住所及び居住がないことを指し、上記の場合は株式などにかかる未実現の含み益が実現したとみなされるため、所得税及び復興特別所得税の課税の対象となります。(贈与の場合は、贈与時の価格で売却したものとして含み益を計算して確定申告を行い、相続の場合は、亡くなった人の所得について相続人が準確定申告を行います。)
② 課税される適用対象者
国外に転出する日本居住者が、以下2つの要件を満たす場合には出国税の適用対象者となります。
a) 以下の対象資産の価格などの合計額が1億円以上であること(時価ベース)
・国外転出時に保有している所得税法に規定する有価証券、匿名組合契約出資金の価格
・国外転出時に契約している未決済デリバティブ取引などのみなし決済損益の金額
b) 国外転出の日の前10年以内に、国内に住所などを有していた期間の合計が5年間
であること
③ 出国税の税率
出国税として適用されるのは原則として15.315%(所得税及び復興特別所得税)となっています。
なお、住民税の5%については翌年1月1日時点で日本国内に住所を有していないため課税されません。
④ 出国税の申告・納付手続き
株式などの未実現利益(含み益)の譲渡所得などに対する申告及び納税は、国外転出する日までに納税管理人(詳しくは「納税管理人とは?」をご覧ください)を選任して届出を提出している場合と、そうでない場合とで異なります。
a) 納税管理人の届出がある場合
申告期限は翌年の確定申告期限である3月15日までとなります。納付期限についても通常は3月15日までとなりますが、担保提供を行う場合など納税猶予の適用を受けることも可能です。
b) 納税管理人の届出がない場合
申告期限は国外転出日となり、納付期限においても同様です。
出国税の猶予と納税管理人の選任
出国税の課税対象となる場合、所得税の確定申告などの手続きを行う必要がありますが、上記で軽く触れさせていただいたように、一定の要件のもとで納税猶予制度や税額の減額などの措置を受けることができます。
様々な減額措置がありますが、いずれの措置を受ける場合も、国外転出までに「納税管理人」を選出すること、所轄税務署へ届出書の提出をすることが必須となっています。以下、特に重要な出国税の猶予についてご紹介させていただきます。
① 出国税の納税猶予
以下3つの要件を全て満たした場合に限り、出国税の納税猶予が認められます。通常は5年間、申請によってはさらに5年間延長することも可能で、最大で10年間の猶予が認められることになります。
a) 国外転出の日の属する年分の確定申告書に納税猶予を受けようとする旨の記載があり、納税猶予分の所得税額の掲載に関する明細などの添付があること
b) その年分の確定申告書の申告期限までに猶予する所得税額に相当する担保を提供すること
c) 国外転出時までに納税管理人を選任して届出を行うこと
ただし、納税猶予期間については利子税がかかるので注意が必要です。
② 納税の猶予を受ける場合に猶予される金額
国外転出の日の属する年分の確定申告における所得税及び復興特別所得税の金額から、国外転出時課税制度の適用がないと仮定した場合において課される所得税及び復興特別所得税を控除した金額となっています。すなわち原則としては、出国税の全額について措置を受けることができるということです。
③ 納税猶予における「継続適用届出書」
納税猶予を受けている方は、選任した納税管理人を通じて毎年12月31日(「基準日」といいます)時点の納税猶予にかかる対象資産に関する継続適用届出書を提出する必要があります。提出期限は基準日の翌年の確定申告期限である3月15日までとなっています。期限内に提出しなかった場合は、その4ヵ月後に納税猶予期間が終了してしまいます。